第3話 店長と副店長
いよいよ俺とセルシア、ミルエナ、ワグーの4人は明後日の休み明けから夜の厨房に入る。これにより昼はロムイとフェニム、ネネルの3人が取り仕切り、トメノばあさんが食器洗いを受け持つことになっていた。
夜のホール担当は、今のところレイランとキノシンの2人で回す。料理の提供が120食のみなので、彼らだけで十分と判断したからだ。手が足りなければ、俺がホールに出れば済むだろう。
「というわけで、来週から俺たちは朝は来ないからそのつもりでいてくれ。何か問題が起こったら、遠慮なくラクリエルたちに言って呼びに来させろ」
店の片付けも終わり、俺はレギュラーメンバーを食堂に集めて来週の打ち合わせに入っていた。すでに彼らは日替わり要員たちと共に食事を済ませている。
「昼間はバーサルさんを店長として、彼に指揮を任せる」
「私が店長……」
「頼んだぞ、バーサルさん。皆も、彼の指示は俺の命令と同じと思ってくれ」
「はい!」
「それから彼1人では大変だと思うので、アネルマを副店長とする」
「わ、私ですか!?」
「お前は客をあしらうのが上手いからな」
「おーなー、ひどいですぅ!」
頬を脹らませた彼女に、一同がどっと湧いた。
「冗談だよ。済まんがバーサルさんを助けてやってくれ」
「分かりました!」
「バーサルさんもアネルマも、自分で抱え込んで無理をする必要はないぞ。困ったら何でも相談してこい。他の皆は2人の言うことをよく聞いて、いつか自分が店長や副店長になった時にどうするか、考えながら行動してくれ」
「はい!」
「ただ今戻りました」
そこへネーブの店の様子を見に行かせていたホスマニーが戻ってくる。
「お疲れさん。どうだった?」
「はい。開店してから売り切れない日はないと言われてました。ソボル会長さんと農夫の方々が、交替でお手伝いに来ているそうですよ」
ネーブの2号店には、こちらでは出していない相当な辛口のカレーもある。どこの世界にも辛い物が好きな人はいるようで、向こうは辛口を求める客で賑わっているようだ。
「それはよかった」
「それであの、おーなー?」
「うん?」
「ネーブさんから相談を受けまして」
「相談?」
「はい、実は……」
何かと思って聞いてみると、大元はクラントとケラミーグルが通うミラド学園の教職員たちらしい。彼らは週2回の給食で出されるカレーを、自分たちの分だけ子供用の甘い物ではなく、ネーブの店の辛い物に変えられないかと言っているそうだ。
「ダメですよね?」
「何故そう思う?」
「え? だって数人のために鍋を1つ使うなど、無理だと思いますし……」
「ホスマニーらしくないな。こう考えてはどうだ?」
彼女の言う通り、少人数のために鍋を用意するわけにはいかない。だがそれなら、弁当にしてしまえはいいだけのことである。確かに熱いままの提供は不可能になるが、時間ギリギリまで煮込んでいれば、完全に冷めてしまうこともないだろう。
「なるほど、そんな手がありましたか」
「容器も職員で用意して、ネーブの店まで取りに来させるようにすれば、ほとんどの問題は解決されるんじゃないか?」
「さすがは旦那様です!」
「代金は直接ネーブに支払ってもらえばいい。あっちの売り上げにも繋がるからな」
「す、すぐにネーブさんに伝えてきます!」
「あ、ホスマニー、それはラクリエルたちに任せよう。1日に2回も往復するのは疲れるだろう。こっちへ来て休め」
「でも……」
「ロムイ、済まんがラクリエルに今のこと、伝えてきてもらえるか?」
「分かりました!」
「あ、私も行きます!」
フェニムが慌てた様子で手を挙げる。その程度の伝達に2人で行く必要はないのだが、逆に止める理由もない。結局のところ少しでも2人きりになりたいのだろうから、敢えてここは任せておけばいいと思う。
「2人とも頼んだ」
「はい!」
「ロムイさんとフェニムさん、先週のお休みの日には2人で市場にお出かけしてきたそうですよ」
仲良く食堂を出ていく彼らを見送ってから、セルシアがクスクスと笑いながらそんなことを教えてくれた。
「そうなのか?」
「はい。それであのお店、ハート・オブ・キングダムにも寄ってきたと言ってました」
「ああ、セルシアたちを店に入れるなとかぬかしたろくでもない店か。しかし断られたんじゃないのか?」
「ここの厨房に入っていると言ったら貴族専用席に通されて、次から次へと色んなお料理が運ばれてきたみたいです」
彼女はおかしさを堪えきれない様子で、顔がほころんでしまうのを必死に隠しているようである。
「そんな代金は払えないと言ったら、カレーの作り方を教えてくれれば代金はいらない、と言われたとか」
あの店主のやりそうなことだな。
「それで?」
「さんざん食べた後で、おーなーの指示通りに肉や野菜を焼いたり煮たりしているだけだ、と答えたようです」
なるほど傑作だ。大事な部分は俺に聞け、と答えたのも同然である。他店のニセオムライスを平気でパクって出すような店は、このまま経営難に陥って潰れてしまえばいい。もっともあそこはお高くとまった貴族の御用達らしいから、潰れることはないだろうけど。
「ところで味はどうだったんだろうな」
「美味しくなかったと言ってました。食べ物を粗末にするなとの旦那様の教えで、何とか残さないように頑張ったらしいのですけど……」
「大量に出されて食い切れなかったか」
「はい」
しかし他店に行って勉強しようという姿勢は評価に値する。彼らにはこれからも色んな料理を教えることにしよう。俺は2人の将来が明るく照らされているのを感じずにはいられなかった。
申し訳ありません。
明日は更新をお休みさせて頂くかも知れません。




