パンツを脱ぎます
「私たち、いつもいつも旦那様に頂くばかりだと思いませんか?」
「それは私も思ってました。命を救って頂いた上に住むところも食べる物も、お風呂や着る物まで」
「セルシアの言う通りだな。ご主人様に出会うまで、こんな暮らしが出来るなんて夢にも思ってなかった」
「私はお母さんとも会えました」
「獣人の私には仕事まで与えて下さって……」
「そうです。なのに私たちは何1つご恩返しが出来ていないように思うんです」
セルシアは立ち上がると、菓子や飲み物が並べられたテーブルに両手をついて、一同の顔を見回した。
「幸い今日はお店がお休みで、旦那様はニホンに買い出しに行かれて夕方まではお帰りになりません。そこでこの機会に、旦那様が喜んで下さることを皆で考えてみませんか?」
「ご主人様が喜んで下さること……」
「セルシア、ご主人様は料理も私たちより出来るし、風呂で背中を流して差し上げると言っても断られた。他に何が出来ると言うんだ?」
ワグーの何気ない一言に、全員が驚いたような目を彼女に向ける。
「ワグーさん、いつそんなことが?」
「あ、いや、前にご主人様が風呂に入られようとしていたので声をかけたことがあってだな……」
ネネル以外の3人から刺さるような視線を浴び、珍しくワグーはあたふたしていた。セルシアを除いて抜け駆けは禁止、というのが彼女たちの暗黙のルールだったのである。もちろん、除外されているセルシアはそんなことを知る由もない。彼女の場合は単に嫉妬しているだけだった。
「そっかぁ、皆おーなー様のことが大好きなのね?」
「ネネルさん?」
「それじゃあ私がお子種を頂いてしまったら、皆に怒られてしまうわよね」
「お、おこ、お子種……!?」
これにはさすがに4人とも真っ赤になってしまう。
「そう言えばネネルさんは初めてお会いした時もそんなことを言って、旦那様を困らせてませんでしたか?」
「私も主人に先立たれて長いから。それにおーなー様はとっても素敵な方だし」
「う……旦那様が素敵だということは同意しますが、お子……お子だ……きゃっ!」
「あらセルシアさん、気づいてないの? おーなー様はよく大きくされているのに」
「き、気づいてます! でも旦那様は私たちに伽を命じて下さらないのです!」
刹那、セルシアはむきになって口走った自分の言葉で、さらに顔を赤らめていた。
「そうなんだ。大切にされてるのね」
「え?」
「だってそうじゃない。うちのノエルンも含めてこれだけ若い女の子たちと一緒に暮らしてるのに、手を出されたりしてないんでしょ?」
「それは私たちに魅力がないから……」
「そんなことないと思うわ。おーなー様は皆のことを可愛いって言って下さるんでしょ?」
「そうですけど……きっと私たちを傷つけまいとされて……」
「違うってば。おーなー様の言葉は本心だと思う。じゃなかったらそんなに短いスカートばかり履かせたりしないし、大きくされたりもしないわよ」
先輩の女として言うわ、とネネルは続ける。
「おーなー様も本当は貴女たちとそういうことをしたいと思ってるはずよ。特にあの年頃の男の子はそうだから」
「そ、そうなんですか!?」
セルシアたちが大きく身を乗り出した。瞳は爛々と輝き、もはや羞恥心などどこ吹く風である。
「でもご主人様はセルシアちゃんを1番だと思ってるんじゃないかしら」
「確かに。それにご主人様と暮らし始めたのはセルシアが最初だからな」
「最近は妙にセルシアちゃんのことを意識しているようにも見えますし」
「そ、そそそ、そんなこと……」
皆からジト目で見られて、今度はセルシアがあたふたしている。覚えがあるだけに、誤魔化すためのうまい言葉が出てこないのだろう。
「まあ、ご主人様がセルシアをお望みなら、伽はセルシアに任せればいいんじゃないか?」
「ちょ、ちょっとワグーさん!」
「そうですね。それがご恩返しになるなら、セルシアちゃんもよかったじゃない」
「ミルエナさんまで!」
「セルシアはこれで決まりとして、私たちはどうしようか」
「ワグーさん……」
終了。セルシアは、どこからともなくそんな声が聞こえた気がするのだった。
「ご主人様は私たちの下着が見えると喜ばれるようですし、いっそ今日は皆で下着姿になってお帰りをお待ちするとか」
「ミルエナ、それはいい案だな!」
「少し恥ずかしいですけど、私もパンツを脱ぎます」
「ノエルン、パンツは脱がなくていい」
「私はもうこんな歳だから下着姿を見せても喜ばれないでしょうし……」
言った直後、ネネルは妙案が浮かんだのか、ポンッと手を打った。
「それじゃ私はセルシアさんに、どうしたら殿方が喜ぶのか教えてあげようかしら」
「ぜひっ!」
セルシアだけではなく、ノエルンも含めた4人がきれいにハモった瞬間だった。
その後、帰宅した俺がすぐに皆に服を着るよう命じたのは、言うまでもないだろう。
次話から新章に入ります。