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第4話 新たな同居人

「お母さん!」


「ノエルン……ノエルンなのね!」


 ちょうど店が営業を終えて、皆が後片付けをしている時だった。俺はノエルンを休憩室に呼び、母娘(おやこ)を対面させたのである。


「本当に……ノエルン、あなたなのね!」


 何年ぶりかの再会に、ネネルはしっかりと娘を抱きしめた後、彼女の頬を両手で挟んで顔を確かめていた。


「お母さん……お母さん!」


「ノエルン……生きててよかった……!」


「お母さんこそ、もう会えないと思ってた!」


 そこへ、休憩室の騒ぎに気づいたセルシアたちがやってくる。


「旦那様、これは一体……?」


「紹介しよう。彼女はノエルンの母親、ネネルだ」


「えっ!? それではノエルンさんのお母様が生きて……」

「そういうことだ」


 思わぬ出来事に、セルシアに加えてミルエナもワグーも涙ぐむ。


「済まないがセルシア、急いでネネルに(かゆ)を作ってやってくれないか?」

「はい! すぐに!」


 それから程なくして盆を手に戻ってくると、彼女はネネルの前に粥を置いた。


「お母さん、セルシアさんの作ってくれるお粥はとっても美味しいんだよ」

「熱いので気をつけて下さいね」


 そう注意されたのに、早速ネネルは舌を火傷してしまったようだ。まさかネコ科の獣人だから猫舌ということはないだろうが、それでもよほど腹が減っていたのだろう。娘に冷ましてもらいながら、彼女は一心不乱に粥を口に運んでいた。


「旦那様の急用というのは、ネネルさんを助けることだったのですね」


「説明しなくて悪かったよ。何せ一刻を争う状況だったから」


「危険なことはなかったのですか?」

「ん? も、もちろんさ、あはははは……」


「あと少しで獣に食い殺されるところを、アキラ様に救って頂いたのです」


「おい、ネネル……」

「獣に……!?」


 セルシアが俺に近寄って、他の者には聞こえないほどの小さな声で耳打ちしてくる。


「旦那様、今夜お話させて頂いてよろしいでしょうか?」


「え? あのさ……」


「よろしいですね?」

「う、うん……」


 彼女の笑顔が可愛いのはいつものことだが、今回ばかりは恐怖を感じずにはいられなかった。今まで俺に向かってこんな風に強気に出てくることがあっただろうか。まあ心配してくれてのことだろうし、わざわざ話がしたいというのは、単に甘えに来たいと言っているだけだと思う。


 それに今回はほとんど悪魔がやったことで、俺がしたことと言えばネネルの傷を癒した程度だ。ただ、彼女にはアイツのことは他言無用と言っておいた。城下を悪魔が彷徨(うろつ)いているなんてことが知れ渡れば、パニックになりかねないからである。それに今のところヤツも面倒を起こさず、ここに飯を食いに来ているだけなので、いちいち騒ぎ立てる必要もないだろう。


「おーなー」


「どうした、ノエルン?」


「お母さんにもここで一緒に働いてもらうわけにはいきませんか?」


「ノエルン、無理を言ってはいけません。体毛がほとんどないあなたはともかく、私には獣人としての特徴が色濃いのです。食べ物を出すお店で働かせて頂くわけには……」

「ああ、それなんだが」


 粥を食べて落ち着いたのか、ネネルは穏やかに娘を(さと)していた。しかし体毛と言っても背中だけだし、服を着てしまえば後は耳と尻尾のみだ。それに常連の中には、もっと体毛の多い獣人だっている。だが、そんな彼らに対して文句を言う客はいない。つまり彼女がここで働けない理由はないということである。


「ネネルさえよければ、ここで働かないか?」


「でも、これ以上ご迷惑をおかけするわけには……」


「おーなー、お母さんはお料理も得意なんです」

「そうなのか?」


「ノエルン、恥ずかしいから余計なことを言わないでちょうだい。ここはお料理のお店なんですよ。私の料理なんてとても……」


「いや、料理の心得があるなら何でもいい」


 親子で暮らしていた頃は、彼女が家族の食事を作っていたのだろう。夜の営業のために俺たちが抜ける昼の厨房(ちゅうぼう)に入ってもらえば、即戦力となるはずだ。


「実は厨房に人手が欲しかったところなんだよ。ネネルに入ってもらえると助かる」


「私でもお役に立てるのですか?」

「もちろんだ」


「そう言って下さるなら、この命と娘を救って下さったアキラ様に従わせて頂きます」


「お母さん、セルシアさんたち以外の皆はおーなーのことはおーなーって呼んでるんだよ」

「おーなー?」


「外国の言葉で持ち主という意味だ。俺は外国からこの国に来たんでね」


「なるほど。私もそうお呼びした方がよろしいですか?」

「そうしてくれ。名前で呼ばれると歯がゆい」


 特に年上のきれいな女性からだと、気恥ずかしくて仕方がないのだ。ノエルン、言ってくれてグッジョブだぞ。


「ではおーなー様、よろしくお願い致します」


「うん。しばらくは静養が必要だろうが、早く元気になってほしい。と、それからノエルン?」

「はい」


「今まで通りうちで暮らすのと、ネネルと一緒に宿舎で暮らすのとどっちがいい? 好きな方を選んでいいぞ」


 俺の質問にノエルンがキョトンとしている。何かおかしなことでも言ったかな。


「えっと……」

「うん?」


「今まで通りおーなーと……」

「そうか」


 それならネネルには宿舎の空き部屋を使ってもらえばいいだろう。夜は別々とは言ってもここに来ればいつでも会えるし、彼女がこっちに泊まりたい時はそうすればいい。そんな風に考えたのだが、ノエルンの言葉には続きがあった。


「お母さんと、セルシアさん、ミルエナさん、ワグーさんと皆で暮らしたいです!」

「はい?」


「お部屋は私と一緒で構いません。だめですか?」


「旦那様は好きな方を選べと(おっしゃ)いました」


 待て待て。またうちに女の子、もとい、女性が増えるのかよ。店休前夜の口づけ大会はどうするんだ。まさかあれにネネルも参戦、ということはないか。それにようやく再会出来た母娘を、引き離すような真似をするのも野暮(やぼ)というものだろう。


「分かったよ」


 こうして新たに1人、同居人が増えることになったのである。そしてその夜――


「旦那様、結界をお願い出来ますか?」


 俺の部屋の扉の前には、おにぎり2つを盆に乗せたセルシアが立っていた。


次回はちょっとお色気回です。

苦手な方はご注意下さい。

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