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第2話 相手は猛獣

 獣人を生きたまま猛獣に食わせる。そんなことまで見世物(みせもの)に使うとは許せない連中だ。だが、俺たちが席に向かう途中、興奮した客たちからはこんな声が聞こえてきた。


「俺、昨日から楽しみで眠れないほどだったよ」

「俺も俺も! 何でも今回の獣人はネコ科のメスらしいじゃん」

「どんな声で()くか見物(みもの)だよな!」


 確かめたことはないが、あの耳の形からするとノエルンもネコ科の獣人と見て間違いないだろう。するとやはり、ここにいるのは悪魔の言った通り、彼女の母親である可能性がきわめて高い。


 そんなことを考えていると、テントの照明が全て消えた。そして間もなく、舞台がライトアップされる。


「お待たせ致しました! まずは本日獣人と一戦を交える猛獣の登場です!」


 司会者の声と共に体長2mほどの、ライオンのような獣が入れられた重厚な檻が運ばれてくる。大きさは横15m、幅と高さは6mといったところだろうか。そのうち一方は、人が1人入れるくらいのスペースが鉄格子で仕切られている。そこに1度彼女を入れて、内側の鉄格子を開ける仕掛けになっているのだろう。


「続きまして、猛獣に立ち向かう勇敢なメスの獣人の登場です。皆さま、盛大な拍手でお迎え下さい!」


 会場は一気にヒートアップし、拍手に加えて大きな声援が上がる。そして首の縄を引かれながら現れたのは、痩せ細り、生気(せいき)を失った表情の獣人だった。


 彼女は何も着せられておらず、三角形の耳と尻尾、それに背中の体毛が(あら)わになっていた。ハッと息を呑むほどの美人である。栗色の髪に卵形の輪郭、長い睫毛(まつげ)はまさしくノエルンが受け継いだものだろう。それに耳と尻尾もそっくりである。だが、彼女の体は傷や(あざ)だらけで、酷い拷問を受けたのが手に取るように分かった。


 そしてまた、会場の反応も冷ややかだった。


「何だよあれ、ブッサイクな獣人だな〜」

「まあ、可愛い子が食われるよりはいいんじゃないか?」

「そうだな。あれじゃ需要もないだろうし」


 何の需要だよ。しかしそうか、俺の目に美人に映るということは、こっちの世界の人たちにはブサイクに見えるということだ。


「さあ、それでは、勇敢な獣人は準備に入ってもらいましょう!」


 司会者の言葉で、外側の扉が開けられる。そしてそこへ、獣人女性が縄を引かれて閉じ込められようとしていた。その時である。我に返った彼女が悲鳴を上げながら抵抗を始めたのだ。それに気づいた猛獣も、低い咆哮(ほうこう)で彼女を威嚇(いかく)し始めた。


「い、いやぁ! やめて! やめて下さい!」


「おおっとぉ! ここで()()づいたのか! さあ皆さん、彼女に勇気を与えるために、応援をお願いします!」


 (あお)る司会者に、観客たちは大声を張り上げ始める。しかしそれは応援などではなく、抵抗する彼女を(ののし)る野次でしかなかった。そして、当の彼女は男たち3人がかりで檻に押し込められてしまう。もはや、一刻の猶予も許さない状況だった。


「おいピート!」

「何かしら〜」


「灯りを全て消せ」


「観客の魂、頂いていい?」


「ダメだ。司会者とあの3人だけにしておけ!」

「仕方ないわね〜」


「では皆さん、準備が整ったよう……」


 司会者が言いかけた時、灯りが消えて会場は暗闇に包まれた。同時に俺は舞台に向かって走り出す。悪魔が、俺に暗闇でも見えるように魔法をかけたのだ。なかなか気が利くじゃないか。お陰で法力(ほうりき)を使わずに済んだよ。


「うふふ、そうでしょ〜? ついでに腕力と素早さも上げておいたわよ〜」


「そうか。なら次に店にきた時は半額にしてやる」

「どうせならタダにしてよ〜」


 そんな会話を交わしながら、彼は宙を泳ぐように俺に付いてきている。そして俺は、舞台に到着するとまず3人の男をノックアウトし、檻の扉を開けて獣人女性を引きずり出した。


「大丈夫か!?」

「あ、貴方は……?」


 俺は急いで(はや)()()を切り、彼女の傷と痣を消した。


「これで動けるはずだ。とにかく逃げるぞ」


「痛みが消えて……? た、助けて頂けるのですか?」

「そうだ。早くしろ」


 法力を使ったことで激しい空腹感に襲われたが、今は我慢するしかない。俺は彼女を立ち上がらせると、すぐに舞台から離れようとした。だがその時、再び会場に光が戻り、俺たちの姿が観客と司会者に見つかってしまう。


「おい、ピート!」

「ごめんなさ〜い、魔法が切れちゃったわ〜」


 バカ悪魔め、肝心な時に。しかし楽しみを奪われた観客たちが、一斉に怒号(どごう)を上げ始める。


「何だソイツら!」

「司会者、何やってる! 俺たちは高い金を払ってるんだぞ!」

「そうだそうだ! ソイツらも檻に放り込め!」


「貴方たち、何をしてるんですか!?」


 司会者は怒りの表情を浮かべて、逃げ道を塞ぐように両手を広げながら俺たちに迫ってきた。


「うるさい外道(げどう)め! 生きたまま人を猛獣の餌にするなど、貴様それでも人間かっ!」


「人ですって? それは獣人ですよ。それに……ま、マシュジン、危ない!」


 ところが突然、司会者が血の気を失ってその場に立ち止まる。彼の叫びは、先ほど俺がノックアウトした男に向けられたものだった。そちらに目をやってみると、檻に近づきすぎた男の1人が猛獣の爪に引っかけられて、中に引きずり込まれそうになっていたのである。そして――


「ぎゃあ!」


 運悪く鉄格子の中に入ってしまった男の腕は、猛獣によって噛みちぎられていた。さらに不幸は続く。マシュジンと呼ばれた彼の手には、内側の鉄格子を開けるスイッチのような物が握られていたのだ。その腕が猛獣の餌となった時、重い金属音と共に鉄格子がゆっくりと開き始めた。


「た、助けてくれ!」


 会場はパニックに陥り、観客たちが我先にと出入り口に殺到する。しかし猛獣の目は一番近くにいた俺たち3人と、司会者を見据えていた。ゆっくりとした歩みで低く(うな)り、こちらを威嚇しながら檻の外に出てくる。司会者は腰を抜かして失禁し、嫌な臭いが辺りに立ちこめていた。


「ピート、あれの魂なら今すぐ食っていいぞ」


「う〜ん、そうね〜。でもやっぱり人間の方がいいわ〜。それに……」


 この野郎。猛獣ごときピラーギルの(ぬし)に比べればどうということはないが、如何(いかん)せん獣人の傷を癒やすために法力を使ったばかりだ。空腹感がハンパないのである。


 その時、背後で司会者が動く気配を感じた。何と彼はよろめきながらも立ち上がり、その場から逃げ出そうとしたのである。


「バカ! 動くな!」


 だが次の瞬間、俺たちの目には頭上を飛び越えていく猛獣の腹が映るのだった。


2日前から発熱してしまい、現時点でのストックはこれが最後です。

コロナかかっちゃったか、インフルか単なる風邪かは分かりません。

次話は半分くらい出来てますが、体調が芳しくないので進んでおりません。

数日、更新出来ない可能性がありますが、少しお待ち頂きたく思います。

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