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第1話 一騎打ちだと?

「ね〜ね〜、聞いてよ〜」

「何だ、また来てるのか」


 客足も落ち着いてきたので休憩室で一休みしていると、突然俺の目の前に悪魔の大きな顔が現れた。椅子に座った俺と同じくらいの長さだから、普通なら失神してもおかしくないぞ。思わず俺も驚いたし。


「何の用だよ。食ったらさっさと帰れ」


「また〜、そんなつれないこと言わないで〜。ちょっと気になることがあるのよ〜」


 どうでもいいが、そのゴツゴツしたオッサン顔でのオネエ口調は何とかならないのかね。


「どこかの店がうちを真似てカレーライスでも出したか?」


「違うわよ〜。お店にいる獣人の子のことなんだけど〜」

「獣人? ノエルンのことか。彼女がどうした?」


「少し前のことなの〜。あの子によく似た魂の獣人を見かけたのよ〜」

「よく似た魂? 魂に違いなんてあるのか?」


「当たり前じゃな〜い。人間の顔の違いと同じくらい千差万別よ〜」


 それは知らなかった。しかし知ったところで何の意味もない情報である。いや、待て。ノエルンと似た魂の獣人ということはもしや――


「多分、そうなんじゃな〜い?」

「おい、どこで見た!」


「あら〜、悪魔にタダで情報を聞き出すつもりなの〜?」

「何が望みだ?」


「決まってるでしょ〜。アタシの望みと言えば〜」

「俺の魂はやらんぞ」


「分かってるわよ〜。だから〜、貴方が殺したいと思ってる人間の魂を頂く、というのはどうかしら〜」


「俺が殺したいと思ってる人間だと?」

「例えば〜」


 悪魔の口から出た名前に、俺は妙に納得してしまった。


「そういうことなら許可してもいい。だが、今すぐはダメだ」


「分かってるわよ〜」

「それで、どこで見たんだ?」


「ほら今〜、城下に見世物(みせもの)団が来てるでしょ〜。あそこにいたのよね〜」


「ギゼルが? 獣人はどんな様子だった!?」


 ギゼルとは、ノエルンの母親が捕らえられた見世物団である。


「う〜ん、だいぶ弱ってたわよ〜。あのままだと、あと3日も持てばいいんじゃないかしら〜」


「まさかノエルンにそのことを……」


「言ってないわよ〜。言ったら貴方、怒るでしょ〜?」

「当たり前だ!」


 どうやらグズグズしている時間はなさそうだ。奴らは捕らえた獣人が弱って動けなくなると、生きたまま飼っている獣の餌にしてしまう。そしてノエルンの母親と思われる獣人は、今まさにそうなる寸前なのだろう。こうしてはいられない。


「おい、悪魔!」


「アタシのことはピートちゃん、そう呼んで〜」

「ピートちゃん?」


「アガリアレピート、それがアタシの名前よ〜」


「お前の名前などどうでもいい! つべこべ言わずにその見世物団に案内しろ!」

「ひっど〜い! それにまだアタシ、食事中なのに〜」


 デカい顔で困り眉するな。気持ち悪い。だが――


「もしかしたら人間の魂を食らう許可を出すかも知れんぞ」

「行くわっ!」


 気合いの入った声と共に悪魔の顔が消え、店で会計を済まそうとしている。意外と律儀な面もあるようだ。そして彼は、外で待っているという合図をしてから店を出ていった。


「セルシア」


「はい、どうされました?」


「急用だ。少し出てくる」

「急用、ですか?」


「済まないが、店を頼む」

「分かりました!」


 おそらく彼女は、俺のただならぬ雰囲気を察してくれたのだろう。心配そうな表情はいつものことだが、引き止めては時間が無駄になるのを理解してくれたようだ。そんな彼女の頭を撫でてやると、ほんの少し安心した顔を見せてくれた。


「頼んだよ」

「はい!」


 裏口から外に回ると、行列から離れたところでアガリアレピートと名乗った悪魔が所在なげに立っている。自分はさっさと店を出たのに、遅いとでも言いたげだ。


 しかしさすがに人が集まる店にやってくるだけあって、頭に生えていた山羊のような角は見えない。瞳も金色ではなく黒で、肌の色も不健康そうに青白いだけで青紫ではなかった。ただ、唇だけは紫色のままで、それが余計に気持ち悪さを演出している。また、黒いマントを(まと)っているのは前と同じだった。


「待たせたな」

「いいから早く行きましょ〜!」


 言うと悪魔はスタスタと歩き出す。後ろ姿は高身長だが、マント越しにもえらく痩身(そうしん)に見えた。


「あそこよ〜」


 それからどのくらい歩いただろうか。広い空き地に、サーカス小屋のようなテントが見えてきた。多くの人だかりも出来ており、周辺には様々な出店が軒を連ねている。だが、小屋の周りに置かれた檻の中には、獣人と猛獣の姿はなかった。


「さあ、間もなく始まる本日の目玉! 獣人と猛獣の一騎打ち!」


 入り口前では、見世物団の客引きが大声で叫んでいる。どうやらこれから一騎打ちとは名ばかりの、残虐ショーが始まるようだ。


「おっ! 若いお兄さん、どうだい、見ていかないかい? もっとも血を見るのが怖いってんならやめた方がいいけどな」


「いや、大丈夫だ」


「そうかい! なら1人銀貨3枚だ」


 俺は言われた通りの金額を悪魔の分も合わせて支払い、案内係に従って席に着くのだった。

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