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第4話 この店は俺の物になった

「毎度〜、ステッド商会で〜す」


 俺が再びセルシアを伴ってネーブの店に着いてから間もなく、数個の木箱を(かつ)いだ屈強そうな男が2人、棒読みの挨拶と共にやってきた。それと同時に何やら異臭が漂ってくる。さらにその後ろからもう1人、若い男が鼻を摘まみながら店に入ってきた。彼はこちらの世界の正装である燕尾(えんび)服のようなスーツを(まと)っている。ネーブによると集金担当とのことだった。


「ネーブさん、おはようございます。いつもの通り、銀貨20枚お願い致します」


 言ってから若い男は、俺たちに気づいたようだ。


「おや、お客様ですか?」

「アンタがタゴルーか?」


「初めまして。ステッド商会のタゴルーと申します。お連れ様はエルフ族ですか。初めて見ましたが、ずい分と立派な首輪を着けてますね」


 客先ということで抑えているのだろうが、彼がセルシアを見る目は敵意に満ちていた。


「装飾品税込みで金貨110枚だ」


「き、金貨110枚!? すごい! ちょっと見せて頂いてもよろしいですか?」


 彼は言いながらセルシアを乱暴に引き寄せ、無遠慮に首輪の触れようとする。俺はその手首を思いっきり掴んで()じ上げながら、セルシアを抱き寄せて後ろに行かせた。


「い、痛い! 何するんですか!」


「それはこっちの台詞(セリフ)だ。誰が彼女に触れていいと言った!? セルシア、大丈夫か?」

「は、はい。でも、痛かったです」


「たかが奴隷じゃないですか……い、痛たたたた……」


 さらに捻じ上げると、タゴルーが俺の手を軽く叩いてタップアウト、つまり降参の意思を示したので突き飛ばすように放してやった。


「す、すごい力ですね……痛たた……」


「ああ。さっき握り飯を3つほど食ったからな」


 実はこの直前、ネーブから屈強な男たちが野菜を運んでくると聞かされていたので、法力(ほうりき)で腕力を10倍に上げていたのである。お陰で俺に掴まれていたタゴルーの手首は赤くなっていたが、セルシアに手を出したのだ。その程度で済んだ彼は幸運としか言いようがない。


「それはそうとお強いお兄さん、もしかして城下で料理屋を始めるおつもりで? でしたら是非、野菜は我がステッド商会にお任せ下さい」


「ならまず野菜を見せてもらおうか」


「ご冗談を。あれはこちらにお納めする商品ですから。ご契約頂けるなら、後ほど営業の者がお伺い致しますよ」


「つまり見せられないと言うことか?」


 俺が木箱に近づこうとすると、それを運んできた2人が通せんぼする形で立ちはだかった。今の俺ならワンパンでノックアウトしてやれるが、そこはあえて思いとどまる。


「お客様に納めた食材ですから、手を触れられては鮮度に関わると申し上げているのです」

「鮮度ねぇ」


 思わず鼻で笑ってしまったよ。さっきから漂ってきている異臭は、明らかに野菜が腐った臭いだったからだ。


「まあいいや。アンタら、その腐った野菜を持ってさっさと店から出ていけ」

「はい?」


「この店は今日から俺の物になった。そして俺はステッド商会とは取引をしない。だから持って帰れと言っているんだ」


「ちょっと意味が分からないんですが」


「ネーブ、契約書を見せてやれ」

「はい」


 昨日渡した紙切れには、しっかりとネーブのサインがなされていた。とは言っても俺にはその文字は読めないんだけどね。タゴルーはそれを奪い取ると、書かれた内容を見て半笑いを浮かべる。


「なるほど、この店はこちらのお兄さんに譲渡された、と」


「そう言うことだ。分かったらとっとと帰れ」


「いいでしょう。ですがステッド商会の(せき)によらない一方的な契約の解除は、残債(ざんさい)の即時一括払いとなっております。これは守って頂きますよ」


 勝ち誇ったような顔で言う彼の左右に、2人の男が指をポキポキ鳴らしながら並んだ。あれで威嚇(いかく)しているつもりなのだろう。


「1つ聞くが、ステッド商会は誰と契約を交わしたんだ?」


「もちろん、そちらのネーブさんに決まってるじゃありませんか」


「俺が彼から聞いたのは、店主であるネーブとの契約だったはずだ」

「ですからそう言っているのですが」


「残念だがこの店の店主は今日から俺だ。そして彼は俺が雇った単なる従業員でしかない」

「何を言っているのですか?」


「まだ分からないのか? お前たちステッド商会の契約相手である()()()()()はもういないってことだよ」


 しばらく俺の言ったことが理解出来なかったようだが、すぐにタゴルーの顔が怒りで赤くなっていった。


「なっ! そんな屁理屈(へりくつ)は……!」


「屁理屈ならお前たちの常套(じょうとう)手段だろう? 最高級の野菜を見せておきながら、実際に納品してくる野菜は何だ?」

「それはお兄さんには関係ないでしょう!」


「実は大有りなんだよ。先日お宅のヒランダって営業担当が俺のところに来たのさ」


「うちのヒランダが? はっ! まさかお兄さんはあの店の……!」


「分かったか? ステッド商会は俺にケンカを売ったということだ。俺をペテンにかけようとした代償は安くないぞ」


 ペテンの意味が通じなかったので、詐欺のことだと説明する羽目になった。本当に面倒臭い。


「ちっ! お前たち、やっちまえ!」


 だが、そんな俺の心情など理解されるはずもなく、逆上したタゴルーの言葉で、男の1人が拳を振り上げて殴りかかってくるのだった。

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