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第2話 野菜はいい物を

「な、何をするんですか!?」


「貴様、ここをどこだと思っている!」

「警備隊を呼びますよ!」


「呼んでみろ。捕まるのはお前の方だぞ」

「なっ……!」


「セルシアは国王から直々(じきじき)に警護対象とされているんだ。だからうちには彼女を護るために警備隊員が常駐している」


 俺は平手打ちされて尻餅をついているヒランダの胸ぐらを掴んだ。そしてその手をグイッと捻じ上げる。


「セルシアに対する侮辱は、そのまま国王に対する侮辱も同じということだ」

「そんなバカな……」


「そもそも客になるかも知れない店の従業員を指差しながら罵るなんて、お前の商会はどんな教育をしてるんだ?」


「だってあれはエルフ族ですよ」


 どうやらまだ分かってないようだ。これ以上相手にしていると、コイツを消し炭にしてしまうかも知れない。そんなことに法力(ほうりき)を使ってたまるものか。


「お前、さっきここで何度か食事をしたことがあると言ったが、あれ、ウソだろう?」

「う、ウソなんかじゃ……」


「料理が気に入って並んだのなら、普通は味の感想とかどうやって作っているのかとか、そういうことを言うものだ」

「それは……」


「他にも、街外れの料理屋の客に褒められたと言ったな」

「言いましたよ。事実ですから」


「その料理屋は、野菜をそのまま調理もせずに丸ごと出しているのか?」


「そんなわけないじゃないですか。ちゃんと料理として出してますよ!」


「ステッド商会の野菜は形も鮮度も抜群と言われたんだよな?」

「それが何か?」


「調理された野菜の形を、客がどうやって知るんだ?」

「あ……」


 たまたまその店主が、客に調理前の野菜を見せたということも考えられなくはない。しかし必要がなければ、普通はわざわざ客に食材を見せたりはしないものだ。ま、事実ではないから、彼もそこまで考えが及ばなかったのだろう。


「ステッド商会は信用出来ない。よって取引はなしだ。野菜を持って大人しく帰るなら、セルシアの件も今回だけは見逃してやる。だが、お前が望むなら本当に警備隊を呼んでもいいんだぞ」


「くそったれ、覚えてやがれ!」


 およそ営業マンとは思えない捨てゼリフを吐いて、ヒランダは逃げるように店を出ていった。


「さて、残ったのはソボル商会ということになったが」


「キャベツはお気に召していただけましたか?」


「今は時期的に冬キャベツと春キャベツの両方が出回っていると思うが、どうして春キャベツにしたんだ?」


「生のままお出しになると聞きましたから。それなら柔らかくて瑞々しい春キャベツをお持ちするべきだと考えました」


「見たところソボルはまともな商会のようだが、契約先が1件もないというのは本当なのか?」

「全部ヤツら、ステッド商会の仕業(しわざ)なんですよ」


 俺の疑問に、ソボル会長は苦々しい表情を浮かべて語ってくれた。


 ステッド商会とは、実は新興の団体だそうだ。彼らは一見すると非常に有利な条件を料理屋などに提示し、話に乗ってきた店にはまず、それまで取引していた商会と手を切らせる。そして契約という名の下、店を雁字(がんじ)(がら)めにして金を吸い取っていくと言うのだ。当然、最初に出された条件にも落とし穴が潜んでいるとのことだった。


 そのいい例が、先ほど話に出てきた街外れの料理屋である。初めに彼らがサンプルとして持ち込んだ野菜は、先ほど俺たちが見せられたのと同様に、確かに最高ランクの品物だった。しかし実際に届けられる野菜は、それとは似ても似つかない粗悪品なのだそうだ。


 当然店主は抗議したが、契約書を盾に全く取り合ってもらえなかった。採れたてを毎日届けると(うた)われた契約書には、最高ランクという文字がどこにも書かれていなかったのである。しかも収穫直後とは名ばかりで、畑で腐ってしまったものでも朝採ったから採れたてだと言って、納品してくることもしばしばだった。


 そこで今度は契約の解除を求めたのだが、ここにも罠が仕掛けられていた。それは3年先まで契約すれば、たとえ野菜が不作で値上がりしても代金は今のまま。逆に値下がりした場合はその分を返金するという内容で、長期契約を結ばされていたのである。それでも契約を解除するなら、残りの期間の代金を一括清算しろと言われ、結局泣き寝入りするしかなかったそうだ。


「ネーブには泣いて詫びられました。長年の付き合いを裏切った報いだと……」


「何故そのことを王国に訴え出ないんだ?」


「契約書に書かれていることを守っていないわけではないからと、門前払いだったそうです」


 おそらく国王の耳には届いていないのだろう。上辺(うわべ)では契約書の内容に反していないとはいえ、解釈がねじ曲がり過ぎているとしか言いようがない。あの国王ならそれを見過ごすはずはないのである。


「虎の尾を踏んでしまったということを思い知らせてやるか」

「今なんと?」


 俺を罠に嵌めようとしたことには、きっちり落とし前をつけさせてやらねばなるまい。


「いや、何でもない。ソボル会長、野菜はソボル商会から仕入れることにする」


「えっ? ですが金額の話し合いがまだ……」


「言い値でいい。ただし、うちとの取引はそっちにも大きなメリットとなるはずだ。そのことを(きも)(めい)じて考えろ。裏切りの代償は大きいぞ」

「わ、分かりました」


 そこで俺は気がかりに思ったことを聞いてみる。


「ところで農夫たちはちゃんと食えているのか?」


「彼らには給金の代わりに野菜を与えておりますが、満足に食えているかと言うと……」


 やはりだ。取引先を全てステッド商会に奪われたのなら、ソボル商会の内情が火の車なのは、容易に想像できる。


「何人いる?」

「今は5人です」


「なら明日の夕方から毎日ここに来させろ。1日1食のみだが、腹いっぱい食わせてやる」


「お、おーなーさん、それは……!」


「自分たちで作った野菜がどんな料理になるのかを知れば、彼らにも働く意欲が湧くんじゃないか?」

「貴方は神様か何かですか?」


「見ての通り、小生意気なただの若僧だよ」


 そう言って笑うと、彼の瞳には涙が溢れ出ていた。


 その後、肉を納める業者も決定し、夜の営業に向けての準備がまた1段階進んだのだった。

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