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税込み1100円で美少女エルフを買ってしまいました  作者: 白田 まろん
第1章 美少女エルフと甘い生活が始まったよ?
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第3話 憧れのポカポカ攻撃

「私はエルフである上に、このように(みにく)い容姿ですから……」


 セルシアは何を言っているのだろう。


「醜いなんて、そんなことないって」

「どこに行っても言われてきました。汚い、臭い、醜い、と。それに、旦那様はいつも私がお顔を見ると目を()らされますし」


 いや、単に照れてるだけだから。それはいいとして、前にも確か醜いと言っていた覚えがある。


「あ、あのさ……」


「いいんです。それでも旦那様は優しくして下さいますし、毎日1度は抱きしめて頂いておりますので。私はそれだけで満足です」


 そうだ。新しく見つけた紙切れに、じいちゃんが書き残していたのを思い出したよ。内容は女性の容姿に関することだった。


 そこには俺やじいちゃん、()いては一般的な日本人男性の、この世界の女性に対する美醜(びしゅう)感覚が、真逆ではないかと思われるとあった。つまり、俺がめちゃくちゃ可愛いと思っているセルシアが、こちらの世界ではめちゃくちゃ醜く見られるということである。反対にこちらの美人とは、俺たちの感覚ではブサイクに見えるらしい。


 セルシアの言動が真実なら、じいちゃんの趣味がおかしいとかの話でもなさそうだ。(うと)まれているエルフであるという事実を差し引いても、こんなに可愛い彼女が1度も抱きしめられたことがないと言った理由が分かった気がする。


「あのね、セルシアちゃん」


「もう(おっしゃ)らないで下さい。(みじ)めになるだけですから」

「いや、だから……」


 俺は立ち上がって彼女の背後に回り、後ろから細くて弱々しい体を抱きしめた。


「だ、旦那様?」

「いい匂いだ」


「それは……いつ旦那様に抱きしめて頂いてもいいように、何度も髪や体を洗っておりますので」


「俺がいつ、君を醜いなんて言った?」

「お、仰られてはおりませんが……」


「心の中で思ってる、と?」

「はい……」


「目を逸らしたのは悪かった。でも、理由はセルシアちゃんが言ったのとは違うよ」

「……」


 一瞬、彼女の体が強張(こわば)ったように感じた。俺が本心から可愛いと思っていることを言葉で伝えても、きっと信じてもらえないと思う。だから彼女が望む通り、抱きしめてみたのだが、正直ここからどうしたらいいか分からない。妄想では、ラノベに出てくる美少女キャラ相手にブイブイ(今では死語です)言わせていたのに、本物の女の子を目の前にしたら経験値のなさを実感したよ。


 こういう時はどうするのが正解なんだろう。コンプレックスに感じているところを褒めるのも、1つの方法だというのは分かる。しかし彼女のそれは根が深い。もしかしたら容姿を褒めるような言葉が、逆効果になってしまうことも考えられるのだ。なら容姿以外の、パーツ単位で褒めてみたらどうだろう。


 そこで俺はハッとした。背後から彼女を抱きしめている俺の目の前にあるもの。それこそが、彼女のチャームポイントではないか。他人がどう思っているかなんて関係ない。大切なのは、俺がどう見ているかを伝えることである。だから――


「セルシアちゃん」

「はい……」


「耳、触ってみてもいい?」


「え……ええっ!?」


 彼女の応えを待たずに、細長く横に伸びた耳をそっと手のひらですくってみた。その瞬間に首をすくめた彼女だったが、逃がさないよう抱きしめる腕に力を入れる。


「あの……あの……!」


「可愛い。手触りもいい」

「だ、旦那様!?」


 耳なら、キスしてもいいだろうか。少なくとも俺にとっては、唇にするよりもバリアフリー度が高い。そう考えると止まらず、俺は一番細い先端の部分に軽く唇を当ててみた。


「ひゃっ!」


 さらに首をすくめる彼女だったが、反応が可愛くて仕方がない。俺はそこから何度も何度も、耳全体に唇を押し当てた。


「旦那様、旦那様!」

「うん?」


「み、耳はお許し下さい」


「どうして?」

「く……くすぐったいです……ひゃう!」


 ちょっとやり過ぎたかな。でもこれで終わらせてはいけないと、俺の(ハート)が叫んでいる。その心の声に従って俺は彼女の正面に回った。涙目で軽く睨まれている感じだったが、逃げ出そうとする素振(そぶ)りはない。再びその小さな体を抱きしめようとした時も、抵抗することなく彼女は体を預けてくれた。


「耳は、ダメ?」


「ダメでは……ありませんが……出来れば、お許し頂けると……」

「そうなんだ」

「はぅっ!」


 もう一度、今度は耳の付け根辺りにキスしてみた。声が色っぽいよ。それに呼吸も早くなっているので、吐息でこっちの脳ミソまでとろけてしまいそうだ。出来るならこのまま押し倒してしまいたい。きっと彼女も抵抗しないだろう。でも、今はその時ではない。第一押し倒した後にどうすればいいのか分からないのだ。妄想ではプロ級だったのに。


「やめてあげてもいいけど、1つだけ約束してくれる?」

「や、約束……ですか?」

「うん」


「んあっ! し、します! お約束致しますからどうか、はぅっ! お、お許しを……んんっ!」


 俺はゆっくりと体を離すと、まだ肩で息をしている彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。やっぱり恥ずかしいよ。しかし、ここで目を逸らしたら俺の負けだ。何と戦っているかは知らないけど。


「セルシアちゃん」

「は、はい……はぁ、はぁ……」

「今後は自分のことを」

「はぁ……はい、はぁ……」


「醜いって言わないこと」

「で、でも……」

「今度は舐めちゃおうかな」


「い、言いません! 絶対に言いません!」


 必死の形相(ぎょうそう)で訴える彼女を見ていたら、少し申し訳ない気分になってきた。悪いことしちゃったかな。


「あ、あのさ」

「はい?」

「そんなに嫌だった?」


「い、いえ、そういうわけでは……ただパンツが……」


「ん? 今なんて?」

「旦那様のいじわる! 言えません!」

「かはっ!」


 彼女の言葉はよく聞こえなかったが、憧れだったポカポカ攻撃を受け、俺は呆気(あっけ)なく撃墜されたのだった。


セルシアが何と言ったのかは、心のきれいな人にだけ見えるように書いてあります。

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