第10話 から揚げは銀貨10枚(税込み1万円)です
「け、ケントリアスさん?」
ギルドから派遣されてきた男たちの中に、見た目はどこからどう見ても戦士風の、自称料理人が混ざっていたのである。
「ようアキラ、それに嬢ちゃんも久しぶり!」
「何やってるんですか?」
「近頃めっきり仕事がなくてよ。そしたらギルドでここの仕事が貼り出されてたから請けたんだ」
この人には料理人としてのプライドはないのだろうか。まあ、力は強そうだからいいけど、いくらで請け負ったのかは聞かないでおくことにしよう。
「コイツらは俺の弟子みたいなもんでな」
「ケントリアスさん、ちょっと」
俺は彼に耳打ちする。
「まさか俺の素性を話したりはしてませんよね?」
「言ってねえから安心しな」
「そうですか。ならいいんですけど」
それと気がかりなことがもう1つ。さっきから聞こえている腹の音についてだ。
「途中でつまみ食いしようなんて思ってないでしょうね」
「そ、そそ、そんなこと考えてねえって!」
「怪しい。ま、今日は俺たちも同行しますからつまみ食いなんてさせませんけど」
「え? そ、そうなのか? 聞いてないぞ」
やっぱり考えてたのか。
「これは子供たちの食糧として王国が金を出している物ですよ。反逆罪に問われても知りませんから」
「反逆罪……な、なあ、アキラ、頼みがあるんだが……」
「はぁ……ホスマニー、賄いの残りはまだあるか?」
大の男が腹をグーグー鳴らしているのはさすがに忍びない。
「冷めてしまってますけど、から揚げでしたらありますよ」
「だそうですけど、食べます?」
「から揚げ……? 何だか分からないがいいのか?」
「4人分、用意してやってくれ」
「分かりました」
手慣れた手つきでホスマニーが彼らの前にから揚げとライスを並べる。すると俺たちの呆れた視線を気にすることもなく、4人はあっという間にそれを平らげてしまった。
「う、美味え! ここの従業員は毎日こんなに美味い物を食ってるってのか!」
「そりゃそうですよ。料理屋なんですから」
「どうやって作るんだ? アキラ、教えろ」
「冗談。たとえ教えたとしても材料が手に入りませんよ。そんなことより……」
「な、何だよ?」
「料理屋でメシ食って、まさかタダだとは思ってませんよね?」
「金取るなんて聞いてねえぞ」
「聞かれませんでしたから。それに料理屋は料理を出して金をもらうんです。料理人なら当然、分かりきってますよね?」
俺のニヤけた表情に、ケントリアスさんの顔から血の気が引いていく。
「い、いくら払えって言うんだよ?」
「1人前銀貨10枚です」
「ぎ、銀貨10枚だって!?」
「今日は店休で、しかも普段店では出していない料理を特別に出したんですから」
「そんな……今日の報酬が消えちまう」
銀貨10枚で請け負ったのか。それにしてもあんなに腹を空かせていたということは、本当に金に困っていたのだろう。さすがに全部巻き上げてしまうのは可哀想かも知れない。
「ま、今日のところは余り物でしたし、タダでいいです」
「ほ、本当か!」
「ただし、次はありませんからそのつもりでお願いしますね」
「分かった。恩に着るよ」
その後、腹を満たされた男たち4人は、重たい鍋や釜を軽々と運び出していく。ついでなので、荷車には俺とセルシアたちも便乗することにした。
「お前らには優しさってもんがねえのかよ」
「メシ代、払いたくなったんですか?」
「アキラは優しいなぁ。ホントに優しい奴だぜ」
こんなやり取りに、女の子たちがクスクス笑っている。
「旦那様は時々いじわるですからね」
「セルシア、何か言った?」
「な、何でもありません!」
「そう? ならいいけど」
夜はお仕置き決定だ。そんな俺の考えを察したのか、セルシアが不安そうな表情でこちらをちらちらと見ている。それに対してニッコリと微笑みを返すと、彼女はホッと胸をなで下ろしているようだった。安心していられるのも今のうちだけだとも知らずに。
「さて、着いたぜ」
ケントリアスさんの声で荷車から降りると、入り口の前でスコーラ学園長が出迎えてくれた。彼の横には新たに給食担当として雇われたという、中年の女性が3人並んでいる。いわゆる給食のおばさんというやつだろう。
学園はさすがに王立というだけあって、頑丈そうな壁に囲われていた。重厚な門の左右には衛兵が立哨しており、建物も1階建てだがレンガ造りで格式の高さが感じられる。見た目だけなら貴族専用の学舎と言われても違和感はないが、ここに通える生徒は身分より学力を重んじられているというから驚きだ。
「厨房は入って左の奥になります」
そして俺たちは、学園長に導かれて厨房のある部屋に向かうのだった。
お仕置きは次々回です。




