第9話 給食の初日
ミラド学園の入園試験に臨んだクラントとケラミーグルは、スコーラ学園長の言葉通り計算能力を買われて見事合格を果たした。ただ、やはり言葉遣いに関して指摘されてしまい、教養過程は補習が行われることになったようだ。それでも同年代が何人かはいるとのことで、俺もホスマニーも一安心といったところである。
そして入園決定とほぼ同時に、給食用の鍋と釜が届けられた。おそらく配膳用のトレーや食器なども、学校の方に届いていることだろう。あの国王、本当に仕事が早い。
「カレーは甘口にした方がいいだろうな」
「そうですね。あの、旦那様?」
「うん?」
「そこに炒り卵を付けてはいかがでしょう」
「ああ、前にクラントとケラミーグルが大喜びしたアレか」
「はい」
店で出すカレーライスは基本的に大人向けだから、子供の舌には辛い。それを和らげるためにと、甘めに味付けした炒り卵を乗せて出したことがあるのだ。すると子供たちばかりか、従業員にも大好評だったのである。
「そうだな。ただ毎回だとホスマニーの手間が増えるし、初回は特別ということで付けてみるとしようか」
「確かに旦那様の仰る通りですね」
「あの、おーなー」
「うん?」
「やはり子供たちにも一晩寝かせたカレーを出してあげたいのですが……」
初の給食は、次の店休日の前日を臨時休業にして実施することとなった。ただ炒り卵は別として、前日から煮込んでの2日目のカレーにはしないという方針を変えるつもりはない。何故ならそれをやってしまうと、今後もずっと2日目のカレーを提供しなければならなくなるからである。
さらに食堂のかまどは従業員の賄いを作るためにも使用する。そこにカレーの入った重たい鍋があれば、どかさなければならなくなるのだ。よって前日からカレーを仕込むのはやはり不可能と言わざるを得ない。
「ホスマニー、仕込んだ鍋をどうやってかまどから降ろす?」
「それなら俺たちが……」
手を挙げたのはロムイだ。しかし――
「そう言ってくれるのはありがたいが、仕事で疲れているのに重たい鍋を降ろすのはキツいだろう。それに万が一ひっくり返したら一大事だぞ」
俺は可能不可能を語っているのではない。ギリギリのところで維持されるクオリティは、必ず破綻する日がやってくる。そしてそのカレーライスを食べた子供たちがいつもより味が落ちたと感じたら、がっかりしてしまうのではないかと言っているのだ。
出来立てと2日目のカレーの違いは、主に温め直しによって溶け出すジャガイモのデンプンにある。つまり食品としての栄養価はほとんど変わらないのだ。だったら、無理なく提供出来る物を提供すればいいのではないだろうか。
「だからカレーは、皆が朝の賄いを食べ終わってから仕込みを始めればいい」
後のことはギルドによって選抜された、専門の業者なり請負人に任せておけば、安全だし安心ということである。
「なるほど」
「それと初回は俺も学校に行く。火にかけたらかき回さないと焦げついてしまうからな」
「旦那様、お供させて下さい」
「ご主人様、私もお手伝いします」
「私も手伝いに行きます!」
「おーなー、私も何かしたい」
うちの女の子たちには、ギルドから仕事を請け負った者たちに配膳をレクチャーしてもらおう。今後はそれも彼らの役目となるからである。とは言っても難しいことは何もない。かまどのある部屋は生徒全員が食事するスペースもあるとのことなので、子供たちに食器を乗せたトレーを持たせて並ばせればいいだけだ。
「念のため1人分の分量も教えてやってくれ」
「分かりました」
「私たちにも何かお手伝い出来ることはありませんか?」
フェニムが心配そうにそんなことを言う。同じ厨房に入っている者として、自分だけ休むというのは気が引けたのだろう。そしてそれはロムイも同様だった。
「たまの連休だ。他の皆はゆっくり休むなり、どこかに遊びに行くなりすればいい」
「ですがおーなーやセルシアさんたちばかりに働かせるわけには……」
「初回だけのことさ。翌日は俺たちも休ませてもらうから心配するな」
こんなやり取りの後、いよいよ給食提供の初日を迎えた。店休日の朝の賄いはホスマニーの担当である。その日は臨時休業ではあったが、今後のリハーサルも兼ねて俺は朝食の準備から彼女に任せることにした。
「慣れたものだな」
「セルシアさんたちが親切に教えてくれますから」
ホスマニーの言葉に、セルシアとミルエナ、それにワグーとノエルンまでが褒めて褒めてと言わんばかりに寄ってくる。苦笑いしながら4人の頭を撫でてやると、頬を赤らめて嬉しそうにしているから可愛くて仕方がない。
そしてカレーが出来上がって間もなく、ギルドから依頼を請けた男たち4人が食堂に到着した。だが俺は、そのうちの1人を見て唖然とせざるを得なかった。
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