第2話 新たな仲間
「もう皆、仕事には慣れたかな」
翌日が店休日の閉店後、交代要員を帰した後にバーサルたちに集まってもらった。従業員用の食堂の方である。
「オープンしてから3カ月ですからね。さすがに慣れてないって言ったら怒られそうです」
ロムイが隣りに座っているフェニムと顔を見合わせながら言う。フェニムの方もそれに応える形で、微笑みながら肯いていた。
俺が見る限りでも、最初の頃と比べて皆ずい分余裕を持って仕事をしているように感じられる。そこには交代要員としてやってくる者たちが慣れてきているというのもあるかも知れない。実は彼らは彼らで、あわよくばレギュラーメンバーに加わりたいという思いがあるのだ。
俺は夜の営業を開始するに当たって、どうしてもレギュラーを増やさなければならないと考えていた。ランチタイムはある程度落ち着いてきたとは言っても、行列が出来るのは変わっていない。つまり忙しさは相変わらずなのである。
そんな状況ではランチタイムに働いたメンバーを、そのまま夜も働かせるというわけにはいかないだろう。そこで俺は新たに敷地内に宿舎を新築して、レギュラーを増やす計画を立てていたのだ。
「ロムイもフェニムも、ずい分と料理を覚えたそうじゃないか」
「セルシアさんたちの教え方がうまいからですよ」
「わ、私は旦那様から教わった通りにお伝えしているだけです」
「おーなー直伝かぁ。めちゃくちゃ羨ましい」
「セルシアは教えたことは1度で覚えてしまうんだ。あれにはさすがに俺も驚いているよ」
「旦那様! そんな風に仰られると恥ずかしいです」
突然褒められたセルシアが、耳まで真っ赤にしてうつむいてしまう。だが、ミルエナがこんなことを言い出した。
「私、前に聞いたことがあるんです」
「何を?」
「エルフ族の記憶力はどの種族にも勝っているそうです」
「そうなの?」
「はい。奴隷商の人たちの話ですから、間違いないと思います」
言った俺自身が忘れているような些細なことでも、セルシアの方は覚えていて驚かされることがある。そこにはそんな背景があったのかと納得したよ。
「話を戻すけど、俺はいずれ昼間の厨房をロムイとフェニムに任せようと思ってるんだ」
「それは大丈夫だと思いますけど、おーなーたちはどうされるんですか?」
「前にも話したはずだけど、そろそろ夜も店を開けようと思ってね」
「なるほど。そちらの厨房をおーなーやセルシアさんが担当されると」
「うん。そこで皆に聞きたいんだが」
俺は一呼吸置いて全員の顔を見回す。初めてここに来た時はやつれて生気のない者もいた。だが今は、皆しっかりと大地に根を張って生きているという感じだ。嬉しいことこの上ない。
「5人ほど、新たにここに住まわせようと思う。そのための宿舎の建築が間もなく始まる予定だ」
「夜の営業に向けて、ということですか?」
「それもあるがこの中からも2人か3人、夜の方に回ってもらいたい」
「夜はどんな感じにするんですか?」
俺はランチとは違う少し高価な食事、いわゆるディナーを提供しようと思っていた。その1つが、あのふわとろのオムライスである。他にもから揚げや豚カツなど、ランチタイムでは手間がかかって捌ききれない料理を出そうというのだ。
「この前来たお客さん、賄い試食でから揚げを食べて涙流してましたもんね」
「豚カツの時に来たお客さんは、1人で3枚も食べてましたよ。ホスマニーさんが驚いてました」
「でもその気持ちは分かるな〜。俺も初めて豚カツを食べた時は、腹が破裂するかってくらい食ったし」
「あんまり食べ過ぎて腹を壊すなよ」
店休日の賄いがそんなことになっているとは知らなかったよ。
「ところでおーなー、そのおむらいすってどんな料理なんですか? 賄いでも出たことないですよね」
「あれは1食で卵を3つ使うからな」
「た、卵を3つも!?」
「セルシア、今日のチキンライスはまだ残ってたかな」
「あ、はい。2人分くらいならあります」
「じゃ、オムライスを2つ作ってくれないか」
夜の賄いを食べた後だし、2皿を分け合うくらいがちょうどいいだろう。そして出てきたオムライスに皆が息を呑む。
「こ、これがおむらいす……」
「では皆さん、見ていて下さいね」
言うとセルシアは、チキンライスの上のオムレツにナイフを滑らせる。完璧に開く黄色い花に、誰もがあんぐりと口を開けて言葉を失っていた。そこにケチャップをかければ完成である。
ミルエナとワグーが小皿に取り分けて、皆の手元に配ったら試食開始だ。
「おーなー、これ……」
「まあ、食ってみろ」
「う、うまっ!」
「チキンライスだよね。下はチキンライスだよね?」
「卵だ! 卵が卵だ!」
何を言っているのか分からない者もいる。
「市場の中にはオムライスを出す店もあるが、あれは全くの別物でな。これが正真正銘のオムライスという料理だ」
チャーハンとして作り直させたくらいだし。
「これ、賄いでお腹いっぱい食べたいです!」
「アネルマ、そうしてやりたいのは山々なんだが、卵をこんな風に半生に焼くのは難しいんだよ」
「私、挑戦したいです!」
「俺も俺も!」
フェニムの声にロムイも手を挙げる。しかし、練習すると卵の消費量がハンパないことになるのだ。日本で買えば安く手に入るが、2人が練習を始めるのは時期尚早だと思う。
「お前たちが失敗する度に、貴重な卵が3つずつ割れていくんだよ。そのうち教えてやるから今は我慢してくれ」
「そっか。それもそうですね、おーなー」
「1度に卵を3つも使ってたら破産しちゃいますよね」
破産はしないけどね。
「おーなー、5人増やすって話は……?」
「そうだった。今日は脱線が多いな」
さすがはバーサル。話を元に戻してくれた。
「その5人なんだが、ここに通いで来ている者たちの中から選ぼうと思ってね」
「なるほど。我々にその人選を、ということですか」
「うん。誰か候補を挙げられるか?」
俺の言葉で、皆が互いの顔を見回すのだった。




