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第7話 たまには外で

「市場というところに来てみたかったんです!」


 店が休みのその日、俺は4人の女の子と店の厨房(ちゅうぼう)で働くロムイとフェニムの2人を連れて、市場に買い物に来ていた。元々はノエルンの生活必需品を買うのが目的だったが、2人にも市場の様子を見せたくなったのである。見識を深めてもらうのが狙いだ。


 ノエルンもそうだが、彼らは基本的に店の周囲以外では貧民街しかしらない。だから城下に何があって、どんな人たちが暮らしているのかを知ることは、今後の仕事にも役立つと考えたからだ。


「昨日渡した手当てで買い物もするといい」


「ありがとうございます、おーなー。私、欲しい物があるんです」


 フェニムがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、瞳を輝かせて言う。13歳の女の子だ。可愛い服とか小物とか、欲しい物はいくつもあるだろう。


「フェニムさんは何が欲しいんですか?」


「セルシアさんたちが着ているような可愛い服です!」

「えっ!?」


「寒い日に着ていたコートとか、お花柄の短いスカートとか。これから暖かくなるからコートはまだいいんですけど、いいな〜って思ってたんですよ」


 微笑みながら何気なく尋ねたセルシアだったが、少女の思わぬ返答に戸惑っていた。フェニムが言った物は、どれも俺が日本で買ってきたものだからである。ダッフルコートはもちろん、花柄のミニスカートも市場では手に入らない。


「ミルエナさんもワグーさんも、ノエルンさんだって、いつも可愛い服を着てて羨ましかったんですよ。だから私も市場に来て、そういうのを探してみたかったんです」


「なら俺も一緒に探すよ」

「ロムイさん、お願いします!」


「フェニム、楽しみにしていたところを済まないが、セルシアたちの着ている服は市場には売ってないんだ」


「えっ! そうなんですか?」


 仕方なしに俺は、これらは全て俺が住んでいた外国から取り寄せた物だと説明した。だが、途端(とたん)に彼女は意気消沈してしまう。探して歩いて見つからない結果に落胆するより、早めに知らせた方がいいと思ったんだけど。


 ところがそんなフェニムを見かねたセルシアが、彼女の肩を抱きながらこんなことを言い出した。


「私から旦那様にお願いしてみますね。次の機会にフェニムさんの分も買って差し上げて頂けないかと」


「ほ、本当ですか!?」


「私からもお願いしてみましょう」

「フェニム、私もお願いするぞ」

「わ、私も!」


 こういう時の女子は団結力が強いようだ。だいたいすぐ傍に俺がいるのに、聞こえるように言われたら断れるわけがないじゃないか。


「旦那様、あの……」

「ご主人様、出来れば……」

「私からもお願いします、ご主人様……」

「おーなー、私からも……」


「やれやれ、分かったよ。フェニム、少し先でもいいか?」


 もちろん、俺も最初からそのつもりではいたよ。


「ほ、本当にいいんですか!?」


「コートは我慢してくれ。スカートなんかはいくつか買ってやるから」

「やったぁ!」


「お、おーなー、だったら俺も……」


 男のロムイにモジモジされても困るんだが、言いたいことは何となく分かる気がする。


「どうした?」


「その、出来ればおーなーが履いてるようなカッコいいズボンが欲しくて……」

「これか?」


 彼はジーンズのことを言っているのだ。特にブランド品でもなんでもない、衣料品スーパーで手に入るような安物である。まあ、確かにこちらの世界にはないけどね。


「分かった。2人の物は近々買うとしよう」


「ならおーなー、これは返した方がいいかな」

「あ! 私もお返しします!」


 2人が差し出したのは昨夜渡した給金、銀貨10枚だった。日本円に換算すれば1万円、数点のスカートやジーンズの代金としては妥当だが、これは彼らが必死で働いて得た金だ。取り上げてしまう気にはなれない。


「返さなくていいよ。それは何かの時のために取っておきなさい」

「でもそれじゃ……」


「そうです! 私たちだけなんて、他の皆に悪くて……」


「心配するな。1度にというのは無理だが、他の皆にもプレゼントするから」


 親から十分な仕送りがあるとは言え、さすがに何万円分もの衣類を買い揃えるのは無理がある。そんなことをしたら、日々必要な食品やその他諸々が買えなくなってしまうからだ。


「さて、まずはここで腹ごしらえでもするか」

「ここでですか、旦那様?」


 俺が指し示したのはレンガ造りの大きな建物、ギルド・ラーカンドルである。ここはレストランもあるし、店のことで手一杯でしばらく顔を出していなかったので、たまには覗いてみようと思っていたのだ。もっとも本当の目的は、セルシアを除く3人の女の子たちと、厨房の2人に他の料理屋がどのような物を出しているか味見させることだった。


「たまには外で食事してみるのも勉強になると思ってね」


「ご主人様は思慮深い方だと感服致します!」


「よしてくれミルエナ。俺はうちの料理が1番だと自信を持たせたいだけだよ」

「それはつまり……」


「俺のレシピが1番、ということさ」


 笑いを取るつもりで言ったのだが――


「そんなの当たり前です、旦那様!」


「そうです、ご主人様!」


「毎日あんなに美味しい物を食べさせて頂いて、もう以前の生活には戻れません!」


見世物(みせもの)団に捕まっていたかも知れないと考えるとゾッとします」


「貧民街での暮らしがどんなに酷かったか……」


「私は新しいお料理を教えて頂く度に、ワクワクが止まりません!」


 俺のジョークのセンスが、皆には全く通じないことを痛感させられた瞬間だった。

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