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第5話 セルシアの気持ち

「セルシア? どうしたの?」


 そこに立っていたのは、赤い動物柄のパジャマに着替えたセルシアだった。しかも今にも泣きそうな表情である。


「皆とケンカでもした?」

「違います」


「そんなところに立っていても仕方ないからおいで」


 俺は彼女の肩を抱き、部屋の中に招き入れた。


 実はセルシアは、怖い夢を見た時などに俺のベッドに潜り込んでくることがある。最初は気付いたら床に寝ていたのだが、理由を聞くと奴隷商に捕まって拷問を受ける夢を見たと言う。それで震えが止まらなくなって俺の部屋に来たものの、さすがに(あるじ)のベッドに入ることは出来なかったらしい。しかし恐怖はどうにもならず、仕方なしに床に寝ていたそうだ。


 そんなことを聞いてしまっては追い出すわけにもいかず、俺は血の涙を流す思いで性欲と闘いながら、彼女を隣りに寝かせたのである。細い体をそっと抱きしめると、安心したのか程なくセルシアの寝息が聞こえてきた。もちろんその日は朝まで眠れなかったのは言うまでもないが、以降は床ではなくベッドに入ってくることを許したのである。


 しかし今回はお休みを言ってから10分ほどしか経っていないから、怖い夢を見たと言うわけでもなさそうだ。何があったんだろう。


「セルシア、どうした?」


 2人で並んでベッドに腰掛けると、彼女はそのまま俺にもたれかかってきた。


「旦那様……」

「うん?」


「私、どうしたらいいんでしょう……」

「うんと、何が?」


「私はミルエナさんのこともワグーさんのことも、ノエルンさんのも大好きです」

「うん」


「でも、変なんです」

「変?」


「旦那様が皆さんと口づけされるのを見て、胸の辺りが苦しくなってしまって……」


 あれ、まさかそれって、ヤキモチ焼いてくれたってことなのか。俺的にはかなり嬉しいぞ。


「そう思ったら、私が時々旦那様のベッドで寝かせて頂いているのと同じように、皆さんもそうされてるんじゃないかと考えてしまって……」


「それはないよ。俺が添い寝を許してるのはセルシアだけだから」


「でも、旦那様はお優しいから、頼られたらお断りにはなりませんよね?」


「実際そうなったことがないから分からないけど、多分断ると思うよ」

「どうしてですか?」


 それは、俺が恋愛対象として見ているのがセルシア1人だからである。悲しい男の(さが)で、他の3人にも性欲を感じるのは事実だ。しかし欲望に任せてセルシアに嫌われるくらいなら、俺は我慢を貫く自信がある。これまでそうしてきたし、これからだってそこは変わらない。


 とは、恥ずかしくて本人には言えないけどね。


「扱いに優劣を付けるつもりはないけど、順番は重要だ。そう言う意味で、俺にとってはセルシアが1番なんだよ。だからかな」


「私が……1番……」


「そう。つまり添い寝を許すのはセルシアだけ」

「1番醜い私が旦那様の1番……」


 その美醜(びしゅう)の基準が、そもそもこの世界と俺とでは逆なんだよね。


「この気持ちは一体何なんでしょう?」

「どんな気持ち?」


「胸がキュッと締めつけられるような……でも、先ほど言った口づけの時とは違ってモヤモヤしないというか、温かいというか……」


「あはは、何だろうね」


 それは恋って言うんだよ、なんて自分の口から言えるわけがない。しかしこれでハッキリした。彼女は俺に恋してくれているのだ。だが、それを本人が自覚出来ていない今は、軽率な行動は慎むべきだろう。下手なことをすれば、せっかく抱いた恋心を打ち崩してしまうことになりかねないからである。


「私は嫌な子ですよね。皆で決めたことなのに、旦那様が皆さんと口づけされているのを見て、辛くなってしまうなんて……」


「俺はそうは思わないよ。でも皆には言わない方がいいだろうね」

「旦那様……」


「俺とセルシアの2人だけの秘密、そうしない?」


「2人だけの……旦那様と私だけの秘密……」

「セルシア」


 俺はセルシアを抱き寄せて唇を重ねる。彼女の小さな体が一瞬ピクンと跳ねるが、抵抗することなく目を閉じて全身を預けてきてくれた。甘い香りと柔らかい感触、それに温もりが加わって俺の脳天を突き抜けていく。押し倒してしまいたい衝動を抑えるのに苦労するが、愛おしさがハンパない。


「旦那様、ありがとうございました」


 顔を離すと、セルシアがにっこりと微笑んで晴れやかな表情を見せて言った。


「こんなに素敵な旦那様に出会えただけでも幸せなのに、独り占めしたいなんて思ったらバチが当たりますよね」


「素敵かどうかは分からないけど、気が晴れたならよかったよ」


「私、いつまでも旦那様の1番でいさせて頂けるように頑張ります!」


 立ち上がってお辞儀する姿も可愛い。


「今夜は添い寝しなくていいの?」


「えへへ。本当はしたいですけど我慢します」


「分かった。じゃ、お休みだね」

「はい、お休みなさい」


 軽い足取りで部屋を出ていく彼女を見送りながら、俺は早く自分の気持ちに気づいてくれることを祈るばかりだった。

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