第9話 すっげー疲れた!
「いや、なに。アキラ殿の料理を食ってみたくてな」
「教えたのは俺ですけど、作っているのはセルシアたちですよ。いいんですか?」
フェニムは平民だが、後の3人の身分は奴隷である。
「アキラ殿の味なんだろう?」
「まあ、そこは完璧にやってくれてますけど」
「それなら問題はない」
「城下で噂になっていたので、父上にお許しを願ったらご一緒に来られたのです。まさかこんなに待っている人が多いとは思いませんでしたけど」
「護衛は!?」
「この格好を城の者に見せられると思うか?」
まったく2人とも何を考えているんだか。
「うちじゃ護衛を付ける人手はありませんよ」
「構わん。いざとなればアンナの魔法もある」
そっか、お姫様は魔法使いだった。なら安心か。まさかこんなところに国王と王女が並んでいるなんて、誰も思わないだろうし。
「それよりチキンライスとやらは売り切れたりしないだろうな?」
「カレーはなくなりましたけど、チキンライスは大丈夫ですよ」
「1番早い人は何時頃から並ばれていたんですか?」
「俺たちが店に来たのが7時くらいでしたけど、その時にはもう大勢いましたね」
「よし。ではアンナ、明日は6時に来て並ぶぞ」
「父上!?」
「あ、明日も来るんですか!?」
「無論だ。何としてでもそのカレーライスというのを食ってみたいからな」
たかがカレーのために、5時間以上も国王としての仕事を放り出すつもりだよ。
「やめて下さいよ」
「何故だ? 我々もアキラ殿の方針に従ってちゃんと並ぶと言っているのだ。問題はないだろう?」
「いや、別の問題があるでしょう」
もう苦笑いしか出ない。
「明日の夜7時頃に来て下さい。2人の分は取っておきますから」
「しかし出来たてを食いたいではないか」
「カレーは寝かせた方が美味くなるんですよ。明日の分もすでに仕込みを始めてます」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんです」
店を建てる土地も費用も、全て融通してくれた国王だ。このくらいの便宜は許されるだろう。
「美味い、美味いぞっ!」
「本当、美味しいです」
その後、王族の2人は身バレすることもなく、しっかりとチキンライスをおかわりまでして、大満足の様子で帰っていった。
「終わった〜!」
行列を全て捌ききり、ようやく暖簾を外した頃には夕方の4時を回っていた。予定時刻より2時間以上もオーバーしてしまったよ。これでも2時以降に行列に加わろうとした人は断ったほどだ。働いてくれた皆も疲れただろうし、厨房の5人もヘトヘトになっていた。
「皆、お疲れさま」
「疲れました〜」
「お腹空いた〜」
「ご飯は炊けてますし、カレーライスならすぐに食べられますよ」
疲れているはずなのに、セルシアがニッコリと微笑みながら立ち上がる。それを見たミルエナとワグーが、粥を作ると言って彼女に続いた。
「セルシアさんたちはまともに休憩も取れなかったんだ。自分のカレーライスくらい、自分で準備しようじゃないか」
「バーサルさんの言う通りだと思います」
「皆さん……」
バーサルの言葉に、皆が一斉に立ち上がる。その光景にセルシアは涙ぐんでいた。
「おーなー、大盛りにしていいですか?」
「お、俺も大盛りがいい!」
「私も、出来れば大盛りを……」
「あれ? でもカレーライスは売り切れたんじゃ……?」
「客に出すための昨日から仕込んでいた物がなくなっただけだ。カレー自体はすぐに出来るんだよ」
日替わり要員には2日目のカレーのことを教えてなかったので、そこで初めて売り切れになった理由を説明した。
「そういうことでしたか」
「大盛りでもおかわりでも、好きなだけ食ってくれ」
警備隊の2人もラクリエルたち3人も、皿を持って列に並ぶ。彼らもまさかあんなに多忙になるとは、夢にも思っていなかっただろう。よく頑張ってくれたと思う。
ただ、このままでは粥組のノエルンが可哀想なので、俺は生姜風味の野菜スープを作ることにした。これはセルシアたちも口にしたことがないものである。
「旦那様、それは一体……?」
「簡単だから覚えるといい」
キャベツやニンジンなど、消化にいい野菜を細切りにし、生姜をすりおろしてお湯を沸かす。そこに顆粒コンソメを溶かしたら、食材を入れて中火で火を通すだけだ。
「美味しい! それに優しい味です!」
ノエルンは出来たばかりのスープを口にすると、顔をほころばせながら食事を始める。
「旦那様……」
「ご主人様……」
「はいはい、どうぞ」
同じくノエルンに付き合って粥を食べるセルシアたちにも、野菜スープを注いだ。
「旦那様、美味しいです!」
「本当に。私これ、好きです」
「ご主人様、おかわりは……」
「ちょっと待ってくれ。もう1度作るから」
まさかこんなに好評とは思わなかったよ。
「おーなー、その粉みたいなのは何ですか?」
ロムイがカレーライスの皿を持ったまま、厨房にやってきた。食べるか見るか、どちらかにしろよ。しかし、釣られてフェニムまで皿を持ってきたから笑える。
「これはコンソメと言ってね、万能の調味料だよ」
「こんそめ……?」
「この国では手に入らない物なんだ。肉や野菜を煮込んで代用品を作ることは出来るけど、時間がかかるからね」
「そうですか」
「さ、出来たぞ。ワグー、カップをかして」
「ご主人様、ありがとうございます!」
「旦那様、私も欲しいです」
「はい。ミルエナとノエルンは?」
「お願いします!」
それからしばらくして、次の入れ替え要員10人が店に到着した。彼らに食事をさせている間に、ノエルンを除いた今日の9人が入浴を済ませる。帰り際は少々寂しそうだったが、また明日も食事に来るように伝えて、俺はセルシアたちと家路に就くのだった。




