第6話 絶対領域は男のロマンだ
「そういうわけで、ノエルンはうちで共に暮らすことになった」
「何と羨ましい!」
「確かにおーなーの言う通り、獣人をあそこに帰すのは心配ですからね」
バーサルの言葉に皆が頷く。もしかしたら嫉妬や反感を買うかも知れないと懸念していたが、彼らが互いを思いやる姿には驚かされたよ。辛い貧民街での暮らしで培った絆は、想像以上に強いようだ。
「さて、明日は営業初日だ。食事を終えて片付けが済んだら、ゆっくりと休んでくれ」
最初の10人とホスマニー母子は、すでに粥ではなく通常の食事を摂れるまでになっていた。また、ノエルンを除く日替わりの面々も、深刻な栄養失調に陥っている者はいないようだ。ただ、彼女だけが粥では可哀想なので、俺とセルシア、ミルエナとワグーがそれに付き合うことにしたのだが――
「おーなー、おいらそっちの方がいい!」
「おれも!」
「2人とも、我が侭を言ってはいけません!」
「だってぇ〜」
ホスマニーがクラントとケラミーグルを窘めるが、どうやら彼らは卵粥が気に入っているらしい。
「セルシア、2人の分はあるか?」
「ありませんので、旦那様は普通のご飯になさって下さい」
「そういうことだ、ホスマニー。俺の分をやってくれ」
「おーなー……ほらクラント、ケラミーグルも、おーなーにお礼を言いなさい」
「おーなー、ありがとう!」
「ありがとう!」
改めて粥を装ってもらい、子供たちは大喜びで食事を始めた。そしてそれを合図に、他の者たちも料理を口に運ぶ。
「美味しいです!」
「う、旨い!」
初めてセルシアの作った料理を味わった彼らから感嘆の声が上がった。ノエルンもスプーンに掬った粥を吐息で冷ましながら、一心不乱に食べている。
「お粥もご飯もおかわりありますから、たくさん食べて下さいね」
「え? でもセルシアさんはさっきおーなーに……」
言いかけたホスマニーを、バーサルが目で制する。そう、セルシアは俺に普通のご飯を食べさせるために、わざとあんなことを言ったのだ。彼女が作るべき量を間違えることなどあり得ないのである。グッジョブ、セルシア。
ところで明日、店で出すメニューはカレーライスとチキンライスの2つ。代金は2品とも小銀貨1枚とした。人足たちもやってくるし、以前彼らが連れてきた家族や恋人が宣伝してくれたお陰で、城下でも噂が広まっている。恐らくカレーライスは早々に売り切れてしまうだろう。
「ここを……私に……?」
翌日の準備を終えて、ノエルンをうちに連れ帰った時の第一声がこれだった。その部屋にはまだベッドしか置いてなかったが、掃除の行き届いた4畳半ほどの空間に驚いたようだ。
「何か欲しい物があったら遠慮なく言ってくれ。セルシアたちの部屋を見て参考にするといい」
「旦那様、部屋着は私のを貸してあげればいいですか?」
「そうだね。サイズ的にもそれが合うんじゃないかな」
「旦那様は早速ノエルンさんのミニスカート姿を見たいそうですよ」
「セルシア!?」
「だって旦那様が下さった部屋着はそういうのがほとんどですから」
ミルエナもワグーも大きく肯いている。確かにそうかも知れないけど、何もわざわざ教えなくてもいいじゃないか。だが――
「分かりました! 私なんかに似合うとは思えませんが、おーなーのためなら喜んで履かせていただきます!」
「だそうですよ。よかったですね、旦那様」
「ちょ、ちょっと……」
「下着も……お好きなだけご覧になって下さい!」
「いや、だからぁ!」
真っ赤になって言い放った彼女にセルシアが着せたのは、黒のパーカーと赤い花柄のミニスカートだった。しかもギリギリ見えるか見えないかという長さである。あれはわざと折らせたに違いない。嬉しいけど目のやり場に困る。
しかし言われてみれば、確かにうちの女の子たちは4人とも揃ってミニスカート姿だよな。俺としては可愛いからウエルカムだが、改めて下着云々を言われると直視出来なくなってしまうじゃないか。
「それはいいから! 冷やさないようにタイツとか履いときなさい」
「旦那様はにーはいというのがお好みなんですよ」
「にーはい?」
絶対領域は男のロマンだ。って、違う!
それにしても今日はやけにセルシアが弄ってくるな。これはもしかすると、構ってほしいというサインなのかも知れない。
「セルシア、寝る前に俺の部屋に来なさい」
「はい?」
「耳をマッサージしてあげよう」
「み、耳っ!?」
「命令だよ」
「旦那様、申し訳ありません! どうか、どうかそれだけはお許し下さい!」
「だめ〜」
その夜しばらくの間、俺はセルシアの喘ぎ声を楽しんだ。危うく押し倒しそうになったけど、そこは何とか我慢したのだった。




