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第10話 グッバイチェリーのフラグ

「セルシアちゃん、それにミルエナとワグーも、ちょっとこっちにおいで」


 さすがに2千人分もの高級肉の調達には時間がかかるとのことで、俺は1度家に戻ることにした。悪魔との戦闘に不安はない。だが、俺の動きが向こうに知れるようなことがあれば、彼女たちが危険に晒される可能性は捨てきれないのだ。だから、傍にいなくても3人を護る方法を模索していたのである。そのヒントは、意外にも身近に存在していた。


 王国は主に魔族と呼ばれる者たちから領民を護るため、魔法による結界を張っている。更に王族が暮らす王城は、より強力な結界に護られているのだ。そしてそれら結界は、宮廷魔導師と呼ばれる人たちによって保たれているという。ならば、魔法よりも強力と言える法力を(もっ)てすれば、3人を護ることなど造作もないのではないだろうか。


 そう考えて、俺はこの法力による結界を維持するために、どのくらい食糧が必要なのかをイメージしてみた。だが、そこに浮かんだものは――


「これから3人に結界による庇護(ひご)を与えようと思う」


「旦那様の法力で、私たちをお護り下さるということですか?」

「うん。そうだよ」


 今は国王が遣わせた警備隊もいるが、魔族からすれば彼らは脆弱な人間に過ぎない。まして悪魔と対等に渡り合うなど、とてもじゃないが不可能と言わざるを得ないだろう。


「俺の結界は強力だ。君たちに悪意を向ける者がいても、かすり傷1つ負わせることは出来ないと思う」


「旦那様にいつも護られるということですね」


「ギルドの仕事なんかで不在にすることもあるからね。転ばぬ先の杖ってところかな」


 3人が色めき立つのが分かった。彼女たちの純粋な瞳を見ていると、これから言おうとしていることが(はばか)られてならない。


「ただ、そのために皆に1つ、命令をしなければいけないんだ」


「命令、ですか?」

「ご主人様の命令でしたら、喜んで従いますが」


「旦那様の(おっしゃ)る命令とは、そのように躊躇(ためら)われるものなのですか?」


 セルシアの鋭い洞察力に、俺は思わず目を逸らしてしまった。本当はこんな命令はしたくないんだ。


「まあ、その……うん……」


「大丈夫ですよ。旦那様がお悩みになられているのは、きっと私たちを気遣ってのことですよね?」

「そうなんだけど……」


「下着を見せろと言うことでしたら、喜んでスカートの裾を(まく)り上げてご覧に入れます」


「は?」


「それとも、下着の中身をご所望ですか? 少し恥ずかしいですけど、旦那様のご命令なら……」

「いや、ち、違うから!」


 セルシア、何ということを言い出すんだよ。てか、ミルエナもワグーも、背中のファスナーに手をかけるのはやめなさい。


「違うのですか? はっ! も、もしかして(とぎ)を……!」

「とぎ?」


「それでしたら……少しお時間を頂きたく存じます」

「へ?」


「旦那様のために、身を清めて参りますので」


 思い出した。伽っていわゆる子作りのことだよね。いや、でも拒否しないってことは俺の童貞(グッバイ)喪失(チェリー)フラグが……待て待て、そうじゃないって。


「ちょっと落ち着こうか。それも違うから」


 一番落ち着きを失っているのは俺だけど。


「違うのですか? 私は旦那様がお望みなら、この身をお捧げしてもいいと思っておりますのに……」


「私もです」

「もちろん、私も!」


 こんな可愛い女の子たちに、いつでもオッケー的なことを言ってもらえる俺は、何という幸せ者だろう。まずはセルシア、次にミルエナ、それからワグーの順で……って違う、断じて違うぞ。


「あ、あのさ……」

「はいっ!」


「皆の気持ちは嬉しいんだけど……」


 そこでようやく俺は本題を切り出すことにした。


「君たちに結界を張るためには、く……」


「く?」


「く、口づけをしないといけないんだ!」


「口づけ……口づけ、ですか!?」

「う、うん……」


「旦那様と口づけ……」


 そう、これがイメージに出てきたものだった。何だか(たばか)られているような気もしないではないが、俺としては結界で護る相手との密接な関係が必要なのだろうと解釈したところだ。だが、拒否されては結界を張ることが出来ない。それで、命令という形で強制するしかないと考えたのだが――


「そ、そんな……!」

「やっぱり嫌だよね?」


「違います! 旦那様と口づけ……どんなに、どんなに夢見たことでしょう!」

「はい?」


「むしろ、ご主人様はお嫌ではないのですか?」


 頬を上気させているセルシアを見ながら、ミルエナがそんなことを言い出した。


「え? どうして?」


「だって、私はこのように醜い容姿ですから」

「あ……」


 彼女の言葉で、セルシアもワグーも落ち込んだ表情になってしまう。


「そんなことあるわけないじゃないか!」

「旦那様?」


「3人とも、俺からしたらあり得ないほど可愛いんだよ。セルシアちゃん、来なさい」

「は、はい……あの……?」


 おずおずと近づいてきたセルシアを、俺はすっと抱きしめる。


「きゃっ!」


「目を閉じて、顔をこっちに向けて」

「は、はい……」


「他の2人は回れ右!」

「はっ……はいっ!」


 そして、わずかに体を震わせているセルシアの髪を撫でながら、小さな唇に自分のそれを合わせた。


「んっ!」


 やばい、気持ちいい。その柔らかい感触に、まるで脳天に電撃を食らったような気分だ。生まれて初めてのキスの相手が超絶美少女のエルフなんて、俺は本当に果報者だよ。


「だ、旦那様……」


「セルシアちゃん……」

「んっ、んん〜」


 その後、ミルエナとワグーとも口づけを交わし、無事3人に庇護の結界を張り終えた。


 最初のセルシアとの口づけでは舞い上がってしまって、結界するのを忘れていたのはもちろんナイショだ。彼女との口づけを何度も繰り返したのは、決してそのせいではない。


ミルエナとワグーとは軽く、ね。


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