第4話 何故それを俺に話した?
「アキラ様、ようこそ」
ギルドの受付では、パミラさんが笑顔で挨拶してくれた。金髪ボブの丸顔は、それだけで人懐っこい印象を受ける。
「パミラさん、おはよう」
「おはようございます」
「良さげな依頼とかある?」
「そうですね〜、報酬が高いのがあるにはあるのですが……」
「何か問題でも?」
「悪魔退治なんです」
「あ、悪魔?」
いわゆる魔族というヤツか。王国は結界で護られているはずなのに、それをすり抜けてきたということは、相当に手強い相手なのかも知れない。
「ただ、本当に悪魔なのかどうかも確証がなくて」
「うん? どういうこと?」
「棲み着いたと言うお屋敷に王国の調査隊が赴いたのですが、発見出来なかったそうなんです」
「でも、いると?」
「依頼主はそう主張してますね」
なるほど。本当に悪魔がいるなら、ギルドではなく王国軍の出番だろうし。
「それで、その悪魔は具体的に何かしたの?」
「依頼主のお嬢さんと使用人の奴隷の男性が姿を消したそうです」
「食われたとか?」
「分かりません」
「駆け落ちでもしたんじゃないの?」
ただ、それはそれで問題だと彼女は言う。もし本当に駆け落ちだったなら、見つかった時に男性は処刑されるだろうとのことだ。
駆け落ちの場合は十中八九、結ばれない運命を嘆いた娘の方が原因と思われるが、依頼主にとっては飼い犬に手を噛まれたようなものである。貴族だと言うし、男性が処刑されるのは免れないのかも知れない。
だが、本当に悪魔の仕業だとしたらどうだろう。王国の結界をすり抜け、調査隊も見つけられないほどの相手である。おそらくは高位の悪魔と見て間違いないはずだ。そんなものが城下に潜んでいるとすると、安心しておちおち寝てもいられない。
ここはひとつ、依頼を引き受けてみるか。セルシアには言えないけど。
「その依頼って、誰も受けようとしないの?」
「悪魔は魔法を使いますからね。本当にいて戦闘にでもなったら勝ち目がないので、皆引き受けたがらないんですよ」
「報酬は?」
「依頼主の提示は金貨5枚ですが、悪魔退治の成功報酬として、王国から金貨30枚が支給されることになってます」
合わせて350万円、高いのか安いのかよく分からないな。
「それと、娘さんを無事に救い出したら、依頼主が悪魔退治とは別に金貨10枚を出すと言ってました」
悪魔の仕業ではなく駆け落ちだったとしても、娘さんを見つけたら100万の収入か。ただその場合、奴隷の男性は可哀想なことになる。もしお嬢様の命令に逆らえなかっただけだったとしたら、彼が殺されるのは理不尽としか言い様がない。
「パミラさん、その依頼、引き受けるよ」
「でも、マスターからアキラ様には危険な仕事はさせるなと……」
なら何故話した。
「大丈夫だよ。俺の予想じゃただの駆け落ちだろうし」
「だといいのですけど……」
「まだ他に何かあるの?」
「依頼主が、悪魔はいなかったと言って納得してくれるかどうか」
確かに王国の調査隊の報告にも肯くことなく、わざわざギルドに依頼してきたほどの人物だ。悪魔はいませんでしたと言っても、易々と引き下がってはくれないかも知れない。
「まあ、何とかなるでしょ。依頼主には明日行くからって伝えておいて」
「分かりました。これがお屋敷までの地図です」
「ごめん、パミラさん。俺この国の文字が読めないんだよ。何ていう人?」
「あ、はい。依頼主はイノーガス・メトキンスという男爵閣下です」
イノーガス、どこかで聞いたような名前だけど、誰だっけ。あ、そうか。セルシアとミルエナ、ワグーを奴隷商に売り払ったヤツだ。よし、チャンスがあったら懲らしめてやろう。
「あ、アキラ様?」
「うん? 何かな?」
「アキラ様のお顔が……」
「俺の顔がどうしたって?」
「あ、悪魔みたいです……」
パミラさんに言われて、俺は慌てて笑顔を作り直すのだった。




