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第2話 チャーハンっぽい何か

「これがオムライスという料理か!」


 料理が運ばれてきて、まず声を上げたのはジョシュニアさんだった。ミルエナとワグーも、初めて見る料理に目を輝かせている。だが、それに反して俺とセルシアは微妙な表情を浮かべていたのだろう。


「アキラ様、どうされたのですか?」


「あ、ああ、いや、どうぞ。ミルエナ、ワグーも食べなさい」

「はい、頂きます」


 それは確かにオムライスと呼べなくはなかった。ただしイメージ的には炊き込みご飯に、薄く焼いた卵がおにぎりの海苔よろしく巻かれている代物だ。これをもし日本で出されたなら、新たな創作料理と言われても納得出来ないと思う。


「美味いな!」

「お、美味しいです!」


「そうだろう、そうだろう。どうした? 兄さんとそっちの嬢ちゃんも早く食ってみろ」


「う、うん……」


 仕方なしに口に入れてみたが、当然オムライスにはほど遠い味だった。そもそもこっちの世界にはケチャップがないのだ。炊き込みご飯もわずかだが甘めだし、それを味のない薄焼き卵でくるんだ感じである。おそらくはじいちゃんがケチャップを甘いと表現したのだろうが、ハッキリ言ってめちゃくちゃ味が薄い。


「旦那様、これはこれで美味しいと思います」

「セルシアちゃん……」


「妙なことを言うじゃねえか、嬢ちゃん」

「い、いえ……私は……」


「ま、奴隷の身分じゃ卵なんてまず口に入ることはねえだろうからな。ご主人様に感謝するこった」


 セルシアはその卵料理が大好きで、ほぼ毎朝食ってるんだけどね。今朝は焼き魚だったから、スクランブルエッグではなかったけど。


「ところで兄さんは、この辺りじゃ初めて見る顔だな」

「あ? ああ、最近近くに越してきてね」


「金に困ってる風でもねえし、奴隷を3人も抱えてるってことは、もしかして大商会の御曹司(おんぞうし)か何かか?」


「いや、ギルド・ラーカンドルのメンバーだよ」

「あそこのメンバーか。それにしちゃ、ずい分と羽振りがいいじゃねえか」


「この店では客の(ふところ)具合に探りを入れるのか?」


「おっと、コイツは済まねえ。気を悪くしねえでくれ。何てったって久しぶりにオムライスを注文してくれた客なんでな」


 オススメ料理じゃなかったのかよ。


「最近じゃめっきりキングダムの方に客を取られちまってよ」

「ほう?」


「味は負けてねえはずなんだ。だがあっちは高級を(うた)って客を()り好みしてやがる。お陰で貴族たちは皆向こうに行っちまうんだよ」


 あのいけ好かない店か。


「ここに来る前に入ろうとしたら、彼女たちは外に繋いでおけなんて言われたよ」


「奴隷は入店お断り。平民でも身なりが粗末なら追い出されるぜ」

「なるほど」


 更に店主が語ったのは、オムライスまで真似されたということだった。見た目も味付けも全く同じだというから驚きである。しかもあちらもじいちゃん直伝を売り文句にしているらしい。昼時にも拘わらず、この店に俺たち以外の客がいないのはそういう理由だったのか。


「英雄ゼンゾウ様はあっちには寄らなかったはずなんだ」

「それじゃ客を騙してるのと同じじゃないか」


 俺からしてみれば、どっちもどっちなんだけどね。


「全くだ。クレブンガの奴、許せねえ」


「店主、それなら1つ試してみないか?」

「試す? 何をだ?」


 俺はまだ一口しか手を付けていない、オムライスとして出された料理を指さす。


「これを油で炒めながら塩を振りかけろ」

「オムライスを炒めろだと? 兄さん、正気か?」


「いいから言われた通りにするんだ。塩は軽くでいいが鍋を振って万遍(まんべん)なく行き渡らせろよ。ほら、手間賃だ」


 元の甘さも下味になるはずだし、これで少しはマシになるだろう。だが相手は曲がりなりにも料理人である。そんな彼の面子(めんつ)を保つために、俺は銀貨を1枚差し出した。


「客の要望だ。嫌とは言わせんぞ」


「わ、わぁったよ。しかしせっかくのオムライスを勿体ねえことしやがる兄さんだ」


 そうしてしばらくすると、俺に出された料理は見事チャーハンに生まれ変わって戻ってきた。


「これでいいのかい?」


「セルシアちゃん、それにミルエナとワグーも食べていいよ」

「よろしいのですか?」


 後の2人は不思議そうな顔をしていたが、セルシアの瞳は輝いている。どうやら料理に関する彼女の俺に対する信頼は、もはや揺るぎないものになっているらしい。


「頂きます!」


 そして、いち早くスプーンでチャーハンを口に運んだセルシアは、次の瞬間には顔をほころばせていた。


「お、美味しい!」

「本当です! 全然違います!」

「すごいっ!」


 続く2人も、信じられないという表情である。そりゃあね、あの薄味じゃ物足りなかっただろう。俺も一口食べてみたが、さっきよりは食えると思う。もっとも本来のチャーハンと比べると、微妙と言わざるを得ないが。


「お、おい、兄さん」

「うん?」


「俺もちょっといいか?」

「客に出した物を店主が食うか?」


 てか、味見しなかったのかよ。


「兄さんの分の金は返す」

「なら、まあいいか」


 チャーハンを口にした4人の中で、最もいい反応を見せてくれたのは店主だった。彼は目を丸くして言葉を失い、次の瞬間にはそれを一気に平らげてしまったのである。


「な、何だよこれ……」


「今度からこうして出したらどうだ? 塩加減は後で色々試してみるといい」

「兄さん、アンタ一体……?」


「俺が前に住んでた外国の料理を真似ただけさ」

「外国の……?」


 その後、食事を終えた俺たちは店を後にする。そしてセルシアも含めた3人の衣類を買いこんで、帰宅した頃にはすっかり陽が落ちていた。

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