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第1話 税込み3000円のオムライス

 市場は休日でもないのに、けっこうな人で賑わっていた。ただ、ジョシュニアさんによると、この市場は身分で差別する店も多いという。そんな忠告をもらっていたにも拘わらず、入った店はミスチョイスだったようだ。少し先にも定食屋が見えたが、こっちの方が小綺麗に感じたんだよね。


「おいおい兄さん、勘弁してくれよ」

「うん?」


「うちは奴隷なんかに食わせる料理は出してねえんだ」

「首輪を付けていても、か?」


「いやいや関係ねえって。店に奴隷が入られちゃ臭くて適わねえ。料理が不味くなっちまうんだよ」


 そんなことで味が落ちるなら、むしろ料理の方に問題があるんじゃないかと思うが。


「兄さんと、そっちの軍人さんは中に入ってくれて構わねえ。けど、奴隷の3人は外に繋いでおいてくれねえか」


「いや、邪魔をした。ここには2度と来ないから安心してくれ」

「けっ! ウチはここらでも美味いと評判の料理屋だ。兄さん1人来なくたってどうってことねえよ!」


 さすがにこれにはジョシュニアさんが何か言いかけたが、俺はそれを制して店から退いた。高級料理屋ハート・オブ・キングダムか。覚えておこう。


「あの、ご主人様?」

「うん?」


「私たちは外でお待ち致しますが……」


「ミルエナ、よく聞くんだ」

「は、はい」


「俺と君たちの違いは何だ?」


「ご主人様と私たちの違い、ですか?」

「そうだ」


「身分が……」

「なら、その身分以外では?」


「えっと……男女と、それと……」

「それと?」


「わ、分かりません……申し訳ございません」

「いや、それが正解なんだよ」


 俺は縮こまって肩をすくめるミルエナの頭を撫でた。対して彼女は、信じられないという表情で俺を見つめる。


「ご、ご主人様?」


「俺も君も、セルシアちゃんにワグーだって、体には赤い血が流れているよね?」

「はい……」


「それはつまり喜びや悲しみ、痛みだって感じるのは同じということなんだよ」

「ご主人様の(おっしゃ)る通りだと思います」


「まして君たちはウチの風呂で清潔にしている」

「あっ、お風呂! あんなに心地よいものだとは……」


 まあ、それは置いておくとしよう。


「つまりね。見た目や状況だけで客を選ぶ店なんて、俺は興味がないんだよ」

「言ってくれるじゃねえか、兄さん」


 ところが、更に料理屋の店主が絡んできた。いいから引っ込んでろよ。


「兄さんの顔は覚えたぜ。ウチの料理は土下座されても食わせてやらねえから、そのつもりでいな!」


「貴様! この方をどなただと……」

「ジョシュニアさん! 皆行こう」


 こんなところで身バレしたら大騒ぎになるに違いない。軍人なんだから、そのくらい判断してほしいものだよ。


 そんなわけで、俺たちはもう1軒の定食屋に向かうことにした。こちらでは差別などされないといいのだが。そう思って店に入ると、店主らしき男性が厨房からジロリと目を向けてきた。


「奴隷を3人連れているが、ここも入店禁止か?」


「あ? バカ言っちゃいけねえ。うちがお断りなのは金を払わねえヤツだけだ」

「そうか、金ならちゃんとある」


「ならさっさと中に入って注文しな。言っとくが先払いだぜ」


 口は悪いが、ここの店主は身分より商売を重視しているようだ。俺たちは6人掛けのテーブルに席を取ると、早速メニューを開いた。しかし、例によって俺は字が読めない。


「うちは貴族も平民も奴隷も、種族だって区別しねえ。料理は多少前後することはあるが、基本的には注文した順に出す」


「この店のオススメ料理のようなものはあるのか?」


「そうだな、オムライスなんかどうだ?」

「オムライス?」


 思わず俺とセルシアが目を合わせる。だが、そんなことはお構いなしに店主は自慢げに説明を始めた。


「聞いたことねえだろ。これは昔、英雄ゼンゾウ様に聞いた料理なんだぜ」

「聞いた?」


「卵を使うからちょいとばかり高いがな。1人前銀貨3枚だ」


 オムライスが3千円かよ。しかも間違いなく再現率は低いはずだ。何故ならじいちゃん、料理はからきしだったからである。だが、どんな物が出てくるのかは非常に興味をそそられるよ。


「皆それでいいか?」

「私は……」


 そこでジョシュニアさんが気まずそうに目を伏せる。彼女は帰れば王国から食事が届いているだろうし、そもそも昼飯に銀貨3枚も払うのは抵抗があるのかも知れない。しかし、1人だけナシというのも可哀想だ。


「ここは俺が持つから、ジョシュニアさんも遠慮しなくていいよ」

「いや、そんなわけには……」


「いいって。セルシアちゃん、銀貨15枚払ってくれる?」

「はい」


 ところが俺の言葉に、店主が驚いた表情を見せる。


「え? アンタ、奴隷に金を持たせてるのか?」

「何だ、彼女が払う金は受け取れないとでも言うのか?」


「い、いや、そうじゃねえ。さっきも言った通り金さえ払ってくれるなら、うちは身分なんか関係ねえさ。しかし奴隷に金を持たせる主なんて見たことがなかったから、驚いちまったんだよ」


「そういうことか。細かいことは気にするな。皆腹が減ってるから早いとこ頼むよ」

「分かった」


 店主はセルシアから金を受け取ると、早足に厨房へと消えていった。


「それにしてもオムライスとは……」

「私もビックリしました」


「アキラ様とセルシア殿は、そのオムライスというのがどのような料理なのか知っているのか?」


「知っているも何も……ねえ」

「はい」


「銀貨3枚の料理だ。相当美味いのだろうな」


 何だかんだ言ってもジョシュニアさんは、思いがけずありつけることになった高級料理に期待を隠せないようだ。ま、それに水を差すのも悪いし、ここは軽く濁しておくことにしよう。


「そうだな、それがホンモノだったらな」


 俺の含みに、セルシアはクスクスと笑いを漏らしていたが、ジョシュニアさんはキョトンとするばかりだった。

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