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税込み1100円で美少女エルフを買ってしまいました  作者: 白田 まろん
第4章 セルシアと2人の少女
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第5話 首輪物語、再び

「お供させて頂きます!」


 部屋着は日本の物でいいとしても、さすがにそれだけというわけにはいかない。そこで俺がセルシアたち3人を連れて服を買いに行くと告げると、ジョシュニアさんが当然と言わんばかりに敬礼して言った。ミルエナとワグーを助けた翌日のことである。


「いやいや、それはいいよ」


「困ります。我々は陛下よりセルシア殿の警護を任されている身です。お出かけとあればご同行させて頂かないわけには参りません」


「買い物にも?」

「もちろんです!」


 真冬の季節も過ぎ、いつしか春の兆しを感じる日も多くなっていた。今日はそんな暖かい陽気である。セルシアは耳を隠すより、美しく輝く首輪を見せる方を選んだようだ。黒と白のチェック柄のミニスカートに黄色のパーカーを合わせているが、フードは被っていない。


 一方ミルエナは濃紺のワンピースにグレーのベスト、ワグーは白いニットとジーンズ姿である。どちらもセルシアのコーディネートのようだが、よく似合ってると思う。もっともこちらの世界にはないデザインなので、すれ違う人たちからの物珍しげな視線に、2人とも戸惑いを隠せないようだ。


 ただ、軍服を着たジョシュニアさんが睨みを利かせていたため、以前のように気安く話しかけてくる人はいなかった。


「セルシアちゃん」

「はい、なんでしょう?」


「先に寄りたいところがあるんだけど、いいかな」

「もちろんです、旦那様。ね?」


 セルシアの問いかけに、2人も躊躇(ためら)うことなく肯く。


「どちらに行かれるのですか?」

「付いてくれば分かるよ」


 それからしばらく歩いて到着したのは、セルシアの首輪を手に入れた奴隷用品の専門店だった。


 実はミルエナとワグーが、昨日からセルシアの首輪を羨ましそうに見ていたのだ。やはり奴隷身分の彼女たちにとって、首輪は憧れなのだろう。


「あの……ここは……?」


「これからうちで暮らすなら、2人にも正式に仕えてもらおうと思ってさ」

「え? それってまさか……?」


 驚いたように顔を見合わる2人に、セルシアは何だか嬉しそうである。


 店内に入ってから、なるべく拷問器具が並んでいる陳列棚を避けて奥に進む。すると店主が俺に気づき、立ち上がって頭を下げた。


「アキラ様、ようこそお越し下さいました」


「店主、この2人の首輪を買いたい」

「あ、あの……!?」


 振り返って2人を手招きすると、信じられないという面持(おもも)ちながらもおずおずと俺の横に来る。


「そちらの方々も召し抱えられたのですか?」

「まあ、成り行きでね」


「前と同じ物はごさいませんが……」


「セルシアちゃんと同じのじゃなくてもいいかな?」

「そ、そんな! 私は頂けるならどんな物でも!」

「私も同じです! でも、本当によろしいのですか?」


「構わないさ。セルシアちゃん、一緒に選んであげて」

「はいっ!」


 楽しそうに首輪を選び始める彼女たちに目を向けながら、ジョシュニアさんがこんなことを言った。


「アキラ様は不思議なお方ですね」

「俺が?」


「はい。奴隷の意見を聞き入れる(あるじ)など、1度も見たことがないものですから」


「確かにセルシアちゃんも他の2人も、俺が命令だと言えば従わないわけにはいかないだろうね。だけど、それって楽しいと思う?」

「楽しい……ですか?」


「俺には彼女たちがとても魅力的な女の子に見えるんだよ。それなのにビクビクと怯えられて、心を開いてもらえないとしたら悲しいんじゃないかな」


 生まれた時から封建社会で生きてきたジョシュニアさんには、理解出来ない考え方かも知れない。俺はセルシアもミルエナもワグーも、自分と対等な立場と見ている。


 だが彼女からすると、3人は俺に隷属(れいぞく)している身分だし、こっちの世界ではこの上下関係が非常に厳格なのだ。当然、主に意見したり逆らったりなどということは考えられないだろう。もしそんなことをすれば、当たり前のように首を()ねられるのだから。


「旦那様、2人にはこちらなどいかがでしょう」


 トコトコと小走りに駆け寄ってきたセルシアが手にしていたのは、ピンクとレモンイエローの首輪だった。2つとも白い縁取りがあり、一見すると彼女の物と色違いのようである。もちろん材質は異なるだろうが、前後には小さなドラゴンの(うろこ)欠片(かけら)も埋め込まれており、鍵穴も目立たない。いいんじゃないかと思う。


「2人はそれでいい?」

「は、はいっ!」


 ミルエナとワグーがきれいにハモって応えてくれた。


「店主、2つでいくらだ?」

「いえ、アキラ様からお代など……」


「そう言うな。毎回タダにされては、ここに来にくくなるぞ」


左様(さよう)ですか。ならばそちらは2つで金貨2枚です」

「安くはないか?」


「元は十分。儲けも頂いておりますよ」

「そうか。ならこれで」


「ありがとうございます。こちらが鍵となります」


 そう言って店主は、それぞれの色のガラス細工が埋め込まれた小さな鍵を差し出した。スペアも含めて3つずつ、これならどっちがどっちか迷うこともないだろう。


「ミルエナさん、ワグーさん、よかったですね!」

「まさか首輪まで頂けるなんて……」


「夢のようです。セルシア、私の頬をつねってみてくれないか?」

「ワグーさんたら、大丈夫ですよ」


 セルシアに笑われて、大人びて見えるワグーもさすがに照れている。ミルエナの方はというと、何だか泣きそうな顔をしていた。


「さあ、2人ともこっちにおいで」


 そんな彼女たちを呼んでから、俺は真新しい首輪を2人の細い首に()める。これで安心して外に出られるはずだ。そして、店主から渡された鍵をまず本人に1つずつ。それからセルシアと俺で2人の分を持つことにした。


「あの、アキラ様……?」

「うん?」


 仲良く首輪を見せ合っている3人から少し離れたところで、ジョシュニアさんが俺を小声で呼ぶ。


「あの首輪、値札には金貨3枚と書かれてありましたが……」

「そうなの?」


 やっぱり大幅値引きをしてくれたのか。恐らくはドラゴンの鱗の分を差し引いてくれたのだろう。


「ここの店主とは、何か因縁があるのですか?」

「ああ、じいちゃんの知り合いでね」


 俺は前に店主から聞いた話を、()()まんで彼女に聞かせた。


「そんなことが……」


「義理堅いよね」

(まこと)に」


 そんな会話の後、俺たちはミルエナとワグーの服を買いに、市場へと向かうのだった。


次話より第5章です。

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