第4話 お背中お流し致します
法力を使ったことで、俺はまたカップ麺を大量消費していた。今回は2人だったのでセルシアの時の倍、1ケース24個を完食だ。もうカップ麺は見たくない。
「えっと、ミルエナさんにワグーさんだっけ」
異常な食欲を満たした後、俺とセルシアは居間のソファで、2人の女の子と向かい合って座っていた。ラクリエルたち3人は、ひとまず警備隊に見張られながら家の周りを掃除中だ。
「はい」
「セルシアちゃんとはどこで?」
「イノーガス男爵様のお屋敷でご奉公させて頂いていた時です」
「それがまたどうして奴隷商に売られたの?」
「私たちの容姿がお気に召さなかったのだと思います」
なるほど、そういうことか。俺にはこの2人も、セルシアほどではないが可愛く見える。ミルエナは肩までのピンクの髪に、大きな青紫色の瞳が印象的な感じだ。それが薄い唇と共に丸い輪郭の中に収まっている。
ワグーの方も黒い髪は肩辺りまでだが、彼女はそれを軽く後ろでまとめていた。全体的にほっそりしていて、わずかに吊り上がって見える栗色の瞳は、少し大人びた雰囲気を醸し出している。
あのお姫様は例外として、やはり俺やじいちゃんと、こっちの世界の人たちの美醜感覚は真逆と見て間違いなさそうだ。
「そっか。ところで2人は帰る場所はあるのかな?」
「いえ……」
ミルエナが応えたところで、隣のワグーのお腹からキューと音がなった。何だかセルシアを初めてここに入れた時のことを思い出してしまったよ。
「も、申し訳ございません!」
「いや、謝らなくてもいいよ。お腹が減ってるんだね?」
「はい……い、いえ! 大丈夫です!」
「怖がらなくても平気ですよ。旦那様はとてもお優しい方ですから」
言いながらセルシアが俺にアイコンタクトを送ってくる。それに軽く肯くと、彼女はそそくさと立ち上がってキッチンに向かい、菓子パンと牛乳を盆に乗せて戻ってきた。
「どうぞ」
「これは……?」
「パンと牛乳ですよ。とっても美味しいんです」
自分の分もちゃっかり用意してきたセルシアが、お気に入りのバナナが丸ごと入ったパンを口に運ぶ。その瞬間に表情をほころばせているから、よほど美味いと感じているのだろう。
「よ、よろしいのですか?」
「構わないから食べなさい。ミルエナさんも遠慮しなくていいよ」
セルシアを見てゴクリと喉を鳴らした2人に、俺は微笑みながら促す。反応は予想通り、彼女たちは何度も美味しいと繰り返しながら、いくつかのパンをあっという間に平らげていた。
「さて、帰るところもないんじゃ、これから行く当てもないよね?」
「はい……」
「旦那様、2人をここに置いて頂くわけにはいきませんでしょうか。お部屋なら私と一緒で構いません」
「そ、そんな! 助けて下さってお食事まで頂いたのに、これ以上ご迷惑をおかけするわけには……」
「いや、このまま君たちを追い出してしまったら元の木阿弥だよ」
首輪のない2人は、再び奴隷商やラクリエルたちのようなならず者に捕まる危険性がある。それにギルドの依頼仕事なんかで俺が不在にしている間の、セルシアの話し相手にもなってもらうのもいいんじゃないかな。
「部屋はまだあるから、好きなところを使えばいいさ。セルシアちゃん、俺は2人の服を買いに行ってくるから、その間にお湯溜めて風呂に入れてあげて」
「はい!」
彼女たちの背丈はセルシアより10cmほど高いくらいだし、とりあえずMサイズの物をいくつか買ってくればいいだろう。寺の近所に衣料品チェーン店があるから、あそこならすぐに行って帰ってこられる。ただ下着はさすがに買いにくいので、一旦セルシアの物を使ってもらうことにしよう。
そうして日本から戻ると、風呂場から楽しそうな女の子たちの声が聞こえてきた。リアルきゃっきゃウフフってヤツだ。たまんね〜。
「あ、旦那様、お帰りですか?」
俺の足音に気づいたのか、セルシアが浴室から声をかけてきた。
「うん。2人の着替えを買ってきたから置いておくね」
「は〜い」
「ご、ご主人様?」
この声はミルエナかな。どうでもいいけどご主人様って。まあ、彼女たちにとってはそうなるのか。
「どうした?」
「お背中をお流し致しますので、よろしければご主人様も中へ……」
「はいはい、それじゃ遠慮なく」
と行くはずがないだろ。
「な、ななな、何を言ってるんですか!?」
セルシアが大慌てしている様が目に浮かぶ。もっとも俺もどっこいどっこいなんだけど。
「バカなこと言ってないで、ゆっくり浸かってきなさい!」
「はい……申し訳ございません……」
あれ、何かしょげ返った声になったぞ。そうか、容姿のことを気にしてるんだ。それは誤解だと言いたいが、多くのラノベではここで変に取り繕うとドツボに嵌まる流れだよね。
「あ〜、その、なんだ。それはセルシアちゃんにしてもらうからいいんだ」
「そういうことでしたか、差し出がましいことを申し上げてすみません」
「だ、旦那様……?」
ちょっと待て。俺の動揺も何だかヤバいレベルかも知れないぞ。てか、今自分で何て言ったんだ?
この後、俺はしばらくセルシアに目を合わせてもらえなかった。




