第1話 セルシアの知り合い?
セルシアに首輪をプレゼントしてから半月ほどが過ぎたその日、敷地内に警備兵の詰め所と、彼らが寝泊まりするための兵舎が完成した。国王、仕事早えな。
派遣されてきた警備兵は全部で6人。基本は2人ずつ2交代で立哨するそうだ。むろん緊急時には全員で警備に当たることになると聞かされた。
「こちらが兵舎の間取りとなっております」
案内係はシューバという、20歳そこそこの若い男性だった。その若さで、いくつかの班を指揮する小隊長らしい。
彼に促されて入ってみると、部屋は4畳半ほどのワンルームでトイレも完備されている。しかし風呂は付いてなかった。
もっともこの世界では、湯に浸かれるのは貴族や裕福な商家、あるいは温泉街の住人のみというから、これが当たり前なのだろう。そんな部屋が3戸ずつの2階建て、合計で6戸あった。
ちなみに、台所として使われる水場は共同で狭い。ただ、警備兵たちの食事は毎日王国から届けられるとのことなので、その程度で十分なのかも知れない。
「では、警備の任務に就く兵士たちをご紹介致します」
「セルシアちゃんも一緒で構わないかな?」
「え? 旦那様、私は……」
俺に付いてきていたセルシアが尻込みしている。だが、シューバさんは和やかに応えてくれた。
「もちろんです。彼らの任務は主にセルシア殿の警護なのですから」
「そうなの?」
「はい。ここには常駐しない私を含め、警護班全員がエルフ族に対する偏見を持っておりません。どうぞご安心下さい」
それから、と彼は続ける。
「班員の中には、家族をピラーギルに食い殺された者もおります。その者は特に、今回のアキラ様の偉業に感銘を受けておりました」
「あはは、あれは依頼を受けただけだから」
「ご謙遜を。それではこちらにどうぞ」
彼に導かれて兵舎の外に出ると詰め所の横に男性4人と女性2人、合わせて6人の兵士が直立不動の姿勢で待機していた。
「皆さん、お2人がお屋敷のご当主、アキラ・カムイ様と使用人のセルシア殿です」
軍服姿の兵士が一斉に敬礼してくれる様は壮観である。彼らは向かって右からイノドア、カルトス、サブナレ、ヨグースの4人が男性。残りの2人はエイノール、ジョシュニアと名乗ってくれた。
「ジョシュニア班長、代表してご挨拶をお願いします」
「王国警備隊カムイ家警護班班長、ジョシュニア・コロアードと申します!」
全員を1度で覚えるのは無理だから、ひとまずこの班長さんだけでも覚えておこう。
彼女はブルーブラックの髪が肩の上辺りで切り揃えられた、涼しい目元に凛々しさを感じる女性である。身長は俺より10cmくらい低く見えるから、170cm前後といったところだろう。女性としては高い方ではないかと思う。
「アキラ・カムイ様、お会い出来て光栄です!」
「ん?」
「アキラ様、彼女が先ほどお話しした……」
シューバさんはその先の言葉を濁したが、なるほど、ジョシュニアさんが家族をピラーギルに殺された本人だったのか。
「ぜひ、その時のお話しを……」
「お願いです! お助け下さい!」
その時、突然女の子が2人、門にすがり付きながら叫び声を上げた。彼女たちが着ている服はボロボロで、あちこちが破れて泥だらけである。加えて露出している肌の部分には、まだ負ったばかりと思われる新しい傷がいくつも見えた。
「どうした……」
「何事かっ!?」
女の子に近寄ろうとする俺を制して、一番門の近くに立っていたイノドアさんが怒声を放つ。
「その前に門を開けてあげなよ」
「ダメです! 素性の知れない者を中に入れるのは危険です!」
「いやいや、怪我だってしてるし」
「ミルエナさん……? それにもしかしてワグーさん?」
不意にセルシアが、俺の後ろから顔を出して呟いた。信じられない、という表情を浮かべている。
「セルシアちゃん、2人は知り合い?」
「せ、セルシアちゃん!?」
「えっ!? セルシアがどうして……?」
2人の女の子たちも唖然としていたが、そこへ荒々しい足音が近づいてきた。
「見つけたぞ!」
「手こずらせやがって!」
何だよ、またあの3人かよ。いい加減、俺の前に出てくるのはよしてくれないか。
「旦那様! 2人を……2人を助けてあげて下さい!」
「知り合いなんだね?」
「はい!」
「聞いた通りだ。門を開けろ」
「わ、分かりました!」
だが、イノドアさんが門を解錠したところで、2人の細い手首がラクリエルたちによってねじ上げられていた。
「痛いっ!」
「おいっ! その手を放せ!」
ところが男は、更に俺の神経を逆撫でする言葉を吐くのだった。