第9話 会いたくなかったんだけど
「じいちゃんなら3年前に……」
「え? 亡くなったの?」
「知らなかったんですか?」
まあ、死んだよなんて報告に来られるわけはないし、知らないのも当然か。
ちなみに俺とセルシア、それにケントリアスさんは今、ギルド内のマスターズルームに来ている。ニーナさんの仕事部屋だ。
「母からは体調が悪くなったから、ニホンに帰って静養してるって聞いてたんだけど……」
「ニホン?」
ケントリアスさんが、訝しげな表情で呟く。
「旦那様のお国の名前、ですよね?」
「うん、そう」
「そんな国の名前、聞いたことがねえぞ」
「あら、話してないの?」
セルシアには漠然と話していたが、ケントリアスさんとは2日前に出会ったばかりなのだ。だから俺の素性を聞かれた時も、外国から来た程度のことしか話していない。変に興味を持たれても困るし、この人面倒くさそうだし。
「ニホンというのはね……」
「ニーナさん、そんなことより……」
実は俺たちがここに呼ばれたのは、じいちゃんの話をするためではなかった。何でも昨日のピラーギルの件を王国に報告したところ、国王が興味を持ったというのだ。伝わるの、早過ぎだろ。
「500匹以上の群だった上に、主までいたんでしょう?」
「はい。デカかったですね」
「それを貴方たちが2人で倒してしまったんだもの。国王陛下じゃなくても興味持つわよ」
「本当はアキラ1人で倒したんだけどな。ほぼ完食してやがったし」
「でもどうして魚の魔物を倒したくらいで国王様が?」
「えっ!?」
俺の何気ない一言に、ニーナさんとケントリアスさんが唖然とした表情を返してきた。
「おい、相手は主だったんだぞ」
「それはまあ、あの時もそう聞きましたし」
「ピラーギルの主と言えば討伐のために1個連隊、だいたい3000人くらいが必要だと言われてるんだぜ」
「そうなんですか?」
「ああ。主には常に普通サイズのピラーギルも群れてるからな」
彼曰く、あの時相手にした群はその中でも異常な数だったそうだ。おそらく主の魔力が強大で、いくつもの群を引き寄せたのだろうということだった。
「数十匹くらいで群れるのがほとんどなんだよ」
「旦那様がお食べになられたのは500匹……」
「セルシアちゃん?」
その時、何の前触れもなくセルシアの呟きが耳に入ってきた。あれ、様子が変だぞ。
「旦那様、帰ったら少しお話しさせて頂けますか?」
「あの〜、何の話かな?」
「お聞きしたいことがございますので」
何だろう。背筋にとっても冷たいものを感じる。気のせいだと思いたいが、彼女の曇りのない笑顔に返って恐怖感を煽られるよ。
「ほらほら、そこの2人。こんなところでイチャつかないの!」
「イチャ……!」
ナイス、ニーナさん。セルシアはどうして俺を睨むのかな。
「王国も巨大な群に気づいて、討伐軍を編成していたところだったそうよ」
「それをアキラがやっつけちまったってわけか。なあアキラ、検問所でクルクレアが言ってたこと、覚えてるか?」
「クルクレアさん? 何でしたっけ?」
「黒っぽい煙のようなものが見えるって言ってただろ?」
「ああ、確かに」
遠見からの報告だって教えてくれたことだよね。
「それがアイツらのことだったと思うんだよ」
「言われてみれば、方角は合いますね」
「そりゃ、国王様だって興味持つわけだ」
自分は望遠鏡の汚れだとか言って、バカにしてたクセに。
でもお陰で法力の威力が、何となくだけど分かった気がする。あと、本気で使ったらめっちゃ腹が減るってこともね。どれだけ食っても腹が膨らまないのは謎なんだけどさ。
「それで、その国王様がどうしたんです?」
「アキラさんに会いたいそうよ」
「お断りします」
「お、おい、アキラ! 国王様に会えるんだぜ。なんで断るんだよ?」
「俺、作法とか知らないし面倒なんで」
そもそも国王と言えば、国家権力の最たる人物だ。ラノベの世界ではフレンドリーだったり、ちょっと抜けてたりするが、この情報収集力と行動の素早さである。きっと俺が苦手な、権力を自在に操る本物の王様なのだろう。関わりたいと思う方がどうかしてるよ。
それにセルシアを始めとする、エルフ族への酷い風潮を野放しにしているのも気に入らない。会ったら燃やしてしまいそうだ。
「陛下はそんなことを気にする方ではないわよ」
「面倒なものは面倒ですから」
「困ったわね」
「どうしてニーナさんが困るんですか?」
「お忍びで、もうすぐここにお見えになるのよ」
「はあ? いつの間に呼んだんですか?」
そんな素振りは全く見えなかったが。
「陛下は時々ここにお茶を飲みに来られるの。今日はたまたま。それに、父が置いていったニホンの紅茶も大のお気に入りなのよ」
「じいちゃんが?」
「ええ。もうとっくに切れちゃったけど」
ニーナさんの目は、明らかに買ってこいと言っている。それくらいどうということはないが、俺には応える義理も義務もない。
「そうですか。でも今日はこれからセルシアちゃんと買い物に行くので、国王様に会ってる時間はありませんね」
「お、おい、アキラ……」
ケントリアスさんが何かを言いかけた時、扉をノックする音が聞こえた。
「マスター、お見えになられました」
「そう、すぐに行くわ」
ニーナさんは立ち上がると、俺とセルシアを交互に見て微笑む。
「セルシアちゃんも一緒で大丈夫よ。少しだけ、会っていかない?」
「私は……旦那様のお言いつけに従います」
「はぁ……」
俺は深くため息をついた。これはもう、仕方がないだろう。
「分かりましたよ。でも、少しでもセルシアちゃんを傷つけるような言動があったら、すぐに帰りますからね」
「ええ、構わないわ」
こうして俺とセルシア、それにケントリアスさんの3人は、ニーナさんと共に国王に会う羽目になってしまったのである。
次話より第3章に入ります




