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税込み1100円で美少女エルフを買ってしまいました  作者: 白田 まろん
第2章 まずは金を稼がないとね
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第5話 デートが決まった

「旦那様、この血は何ですか?」

「へ?」


 しまった。怪我だけ治して、服のことはすっかり忘れてたよ。帰宅した途端(とたん)に飛びついてきたセルシアが、肩に残った血の跡を目ざとく見つけたのである。てかこれ、かなり目立つよな。穴も空いてるし。


「いや、これは……」


「まさか、お怪我をなさったんじゃ……」

「ちょ、ちょっと転んだだけだよ」

「何かの歯形のようにも見えますけど?」


「そんなことよりさ、これ、お土産」


 話を()らそうと彼女に見せたのは、食べきれなかったピラーギル、つまり焼き魚だった。もっとたくさんあったが、ケントリアスさんとギャレット子爵(ししゃく)の屋敷に行った時に、使用人さんたちが食べたそうにしてたので分けてきたのである。そんなわけで俺が持ち帰ったのは、セルシアと一緒に食べるための2匹のみだった。


「これは?」


「今日の収穫。先に食べてみたけど美味(うま)かったから、セルシアちゃんと一緒に食べようと思って」

「そうですか……」


 あれ、あんまり嬉しそうじゃないぞ。もしかして魚は苦手なのかな。


「旦那様、お聞きしてもよろしいですか?」

「うん?」


 なんか、ダメって言いたくなる雰囲気だよ。


「その歯形のようなものと、こちらのお魚さんのお口の形が似ているように思えるのは、気のせいでしょうか?」

「え? いや、それは……」


「旦那様のお力、法力(ほうりき)というのをお使いになられたのですね?」

「あ、あれ? 何のことかなぁ」


「お(とぼ)けにならないで下さい。何匹お食べになられたのですか?」

「はい?」


「先に食べたと(おっしゃ)いましたよね?」

「うん……」


「これを旦那様は、何匹お食べになられたのかお教え下さい」

「だ、だから……」


 すると突然彼女の目から涙がこぼれる。また泣かせてしまったのか、俺。


「旦那様は、どんな気持ちで私がお帰りをお待ちしてたか、お分かりになりますか?」

「……」


「お怪我をされていたらどうしよう、魔物に食べられてしまったらどうしようと、そればかりを考えていたんですよ」

「ごめん……」


「お帰りになられた時には本当に嬉しくて、よかったと思ったのに……お怪我をされていたなんて……!」

「セルシアちゃん……」


「痛かったですよね……?」


 言いながら、今はすっかり治っている俺の肩を、彼女は愛おしむように優しく撫でてくれる。そうか、そういうことなのか。これがもし逆の立場だったらどうだろう。


 彼女が万が一誰かに傷つけられたりしたら、俺はいても立ってもいられないと思う。痛みを負わされた彼女を(あわ)れみ、涙だって流すだろう。そしてもちろん、そんな目に()わせた奴を許しはしないし、護れなかった自分を恨むに違いない。


 俺と彼女の違いは、ちょっとした力があるかないかだけなのだ。


「ごめん。もうセルシアちゃんを悲しませるようなことはしないから」


「本当ですか?」

「うん」

「約束ですよ」


「分かった。だからもう泣かないで」


 俺の言葉で、彼女は涙目のまま微笑んでくれた。そして――


「では、せっかく旦那様が持ってきて下さったのですから、お魚を頂きましょう」


 その日、食卓には彼女の手料理の他に、俺が()()()魚が乗っていた。何だか新婚みたいでいいね〜。


「ギルドに、ですか?」

「うん、一緒にどうかな」


 食後のひととき、寝る前まで俺たちはこうして会話しながら過ごす。彼女と話していると楽しいし、時間を忘れてしまうこともしょっちゅうだ。


「私なんかがご一緒してもよろしいのですか?」

「もちろん」


「でも私は……」


 言いながらうつむき、セルシアが耳を押さえる。ケントリアスさんやパミラさんのように理解がある人もいるが、やはりエルフ族は偏見の目で見られることも多いのだろう。ケントリアスさんからは、あまり人目に晒さない方がいいと言われたし、彼女自身も人前に出るのは怖いようだ。現にここにきてから、彼女は一歩も外に出たことがない。


「心配しなくてもいいよ。ほら、これ」


 そう言って俺が彼女に差し出したのは、大きなフード付きのダッフルコートだった。フードにファーがあしらわれた白に近いベージュで、似合うに違いないと思って通販で購入したものである。


「あの、これは……?」

「着てごらん」


 やはり俺の目に狂いはなかったよ。膝下まで丈があるから下がミニスカートでも大丈夫だし、何よりよく似合っていて可愛い。


「暖かいです!」


「フードを被ってみて」

「これですか?」


「鏡、見てくれば?」

「はいっ!」


 トコトコと駆け足で居間の隅に置いてある姿見の前に行き、色んな角度で自分の姿を眺めている。彼女に新しい服をあげると、初めて着た時はだいたいああして確認しているみたいだ。


「すごい、すごいです、旦那様!」

「耳、隠れちゃったでしょ?」


「はいっ! これなら旦那様が恥ずかしい思いをなさらなくて済みます!」


「俺は別にセルシアちゃんがエルフでも、恥ずかしいなんて思ったことはないよ」


 むしろ彼女が気にしているようだからポチったようなものだしね。それなりのお値段はしたけど、彼女のために使う分にはこれっぽっちも惜しいとは思わない。


「気に入った?」

「はいっ!」

「それはよかった」


 こうして明日、俺と彼女は出会ってから初めてのデートをすることに決まった。あれ、でも考えてみたら、そもそも女の子とデートするなんて、生まれて初めてのことじゃないか。そう思うと急に緊張してきたが、相手がセルシアならきっと楽しいに違いない。


 明日が楽しみだ。俺が彼女に微笑むと、彼女も嬉しそうな笑顔を返してくれるのだった。

 ――セルシア日記――


 何ということでしょう。私の嫌な予感が当たってしまいました。

 旦那様がお怪我をなさったのです。すぐにお魚さんに噛みつかれたんだと分かりました。

 旦那様は痛かったはずなのに、私に心配させまいとしてご自分で治されたんです。

 旦那様が可哀想で、思わず泣いてしまいました。

 でも、もう危ないことはしないと約束して下さいました。私のような奴隷身分のエルフに、旦那様はいつもそうして優しく接して下さいます。

 それから、旦那様はまた私が喜ぶことをして下さいました。

 とっても素敵なコートを与えて下さったのです。その上、明日は旦那様とお出かけすることになりました。

 旦那様、あまり私を喜ばせ過ぎますと、ずっとお側にいて離れてあげませんよ。

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