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税込み1100円で美少女エルフを買ってしまいました  作者: 白田 まろん
第1章 美少女エルフと甘い生活が始まったよ?
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第6話 魚を捕まえに行くことになったみたいだ

「あれ? 兄さん、もしかしてこないだの人じゃねえか?」


 こちらに寄ってきたのは戦士風の男だった。彼が俺の顔を覗き込みながら声をかけてきたのである。誰だろう。向こうはこちらを知っているような口ぶりだが、全く覚えがない。


「ケントリアスさん、この方をご存じなのですか?」

「ほら、前に話しただろ。ラクリエルとマゴベラ、あとサノムトルから奴隷エルフを買い取った人だよ」


 そうか、この人はあの時の見物人の中にいたんだ。


「俺はケントリアス・マーバイン、見ての通りの料理人だ」

「はじめまし……りょ、料理人?」


 戦士じゃねえのかよ。


「ああ、こんな(なり)だからな。兄さんの国じゃどうかは知らねえが、この国の料理人ってのは食材を狩るところから始めるから、皆こんな感じだぜ」


「ケントリアスさんの魔物料理は美味しいんですよ」

「あっはっは! パミラちゃん、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」


 魔物料理なんて食いたくねえ。てか魔物までいるんだ。まあ、ドラゴンがいると聞いた時点で予想はしてたけど。


 ところで受付のお姉さんはパミラさんというのか。覚えておこう。


「で、あのエルフの嬢ちゃんはどうした?」

「嬢ちゃん?」

「あれ? 女の子じゃなかったのか?」


「いえ、女の子でしたよ。ただ、エルフは害獣(がいじゅう)と言われていると聞いたもので」

「ああ、確かにそう呼ぶ奴は多いな」


「アキラ様、ケントリアスさんは以前、森で魔物と戦って負傷した時に、エルフ族に助けられた過去をお持ちなんです」


「なるほど。でもそれなら何故あの時、彼女を助けようとしなかったんですか?」


 それは恩知らずというヤツだぞ。そんな俺の気持ちを察したのか、彼は申し訳なさそうに頭を()きながら言う。


「助けたかったさ。けどアイツらは嬢ちゃんを奴隷商から買ってきたんだ。だから手出し出来なかったんだよ」


 そう言えば、あの男たちもそんなこと言ってたっけ。買ったんだから彼女をどうしようと、自分たちの自由だと。


「ラクリエルたち3人は本当に嬢ちゃんを殺す気だったから、兄さんが助けたのを見てホッとしたんだぜ」


 奴隷身分の人が、虫けらのように殺されるのは珍しいことではないそうだ。ましてそれがエルフだった場合、多くの人間が同情すらしないという。また、無闇に奴隷を殺して罰せられるのは奴隷商だけであり、彼らから正規に買い取った者が殺しても、裁かれることはないそうだ。


 ただ、死体の処理には大金がかかるため、追い出すことはあっても殺すというのは少ないらしい。それにしても、何という酷い世界だろう。


「それで、嬢ちゃんはどうしたんだ?」


「彼女ならうちで家政婦やってもらってます」

「雇ったのか! 元気にしてるのか?」

「もちろん、元気ですよ」


 ケントリアスさんも受付嬢のパミラさんも、驚いた表情を隠そうとはしなかった。害獣とまで言われるエルフを雇ったというのは、それだけ信じ難い行為なのだろう。


「拷問なんか、してねえよな?」

「まさか! そんな可哀想なことしませんよ」


 彼女の耳にしたあれは、拷問とは言わないよね。


「よかった。よし、気に入った!」


 いきなりケントリアスさんは俺の肩に腕を回してきた。なんて馬鹿力だ、痛いよ。あと、俺はノンケだからな。


「パミラちゃん、俺が兄さんの身元保証人になってやるよ。問題ないだろ?」


 マジか、それはありがたい。ちょっとくらい痛いのは我慢しよう。


「ケントリアスさんがですか? 確かに問題はありませんが……」


「俺は兄さんの家も知ってるしな。あれ、ところで兄さんは貴族様なのか?」


「いえ、違いますけど」

「だよな。それを聞いて安心したぜ」

「もしかして貴族嫌いですか?」


 戦士っぽい人が貴族嫌いってのは、ラノベの世界ではお約束みたいなもんだし。


「いやいや、金持ち貴族様は大好きだぜ。何てったって金払いがいいからよ」


 いちいち予想を裏切る人だな。


「よし! 俺とパーティー組もうぜ」

「はい?」


「実はこの依頼を受けたいんだ」


 彼が掲示板から()がしてきたと思われる"求人票"には、ピラニアに似た魚の絵が描かれていた。しかし文字の方はまったく読めない。


「コイツはピラーギルって魔物だ。知ってるか?」

「いえ、知りませんけど」


 ピラニアかブルーギルか、どっちかにしてくれ。


「人間の指なんか簡単に食いちぎる凶暴なヤツなんだが、食うとめちゃくちゃ美味い!」


「そ、そうなんですか……」

「で、依頼はコイツの料理だ」

「はあ……」


「100匹のな」


「ひゃ、100匹ですか?」

「ああ。1匹1匹の大きさはこれくらいなんだが」


 だいたい20cmくらいのようだ。


「100匹だと、さすがに俺1人じゃ運べねえ」

「つまり荷物持ちをやれ、と?」


「そうだ。倒して捕まえるのは俺がやるから、兄さんに危険はねえよ」

「でもケントリアスさん、ピラーギルは……」


 何か言おうとしたパミラさんを、彼は手を振って制している。何だろう、気になるぞ。嫌な予感もするし。


「報酬は俺が8で兄さんが2だ。荷物持ちだけで金貨2枚なんだから、悪い話じゃねえだろ?」


「1つ聞いていいですか?」

「おうよ! 何でも聞いてくれ」


「その金貨2枚って、どれくらいの価値があるんです?」


 一瞬、変な空気が流れた。ケントリアスさんとパミラさんが、そんなことも知らないのかという目を向けてくる。


「あ、いえ。俺はまだこの国に来て間もないもんですから」


「あ? ああ、そうか。そうだな、2枚あれば1カ月は余裕で暮らせるぞ」


 とすると日本円換算で、1枚10万円くらいなんだ。


「ちなみに金貨1枚は銀貨100枚と同じだが、両替するには1割必要だ。だから報酬は初めから銀貨で貰った方がいい」


 銀貨1枚は1000円か。てことはアイツら、セルシアを奴隷商から5000円で買って、俺に100万円で売りつけようとしやがったんだ。今度会ったら八つ裂きにしてやりたいよ。


 しかしまあ、それだけあれば、ひとまず彼女に首輪くらいは買ってあげられるかな。


「分かりました。パーティー組みましょう」


 ところがまさかあんなことになるなんて、その時の俺は夢にも思っていなかった。

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