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税込み1100円で美少女エルフを買ってしまいました  作者: 白田 まろん
第1章 美少女エルフと甘い生活が始まったよ?
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第5話 身分証がいるなんて聞いてないよ

 改めてすれ違う人や町並みを見て思った。やはり多くのアニメやラノベで見てきた通り、中世のような(たたず)まいである。中にはレンガ造りの家もあるが大半は木造だ。


 人々の衣装も、男性はぶかっとしたズボンにブーツを履き、尻まで隠れるくらいのゆったりとしたシャツを着ている。稀に三つ揃いのスーツのような格好の人もいたが、あれはどちらかと言えばタキシードに近い。ハットを被ってステッキを持っていたので、おそらく貴族か金持ちの類だろう。


 一方女性は、長めのスカートにカーディガンのような格好が主流と見える。下がどんな感じなのかは分からないが、これもよく見るデザインだ。時々ミニスカートのようなものを履いた若い女の子も見かけたが、日本のそれみたいにヒラヒラしているものではない。厚手のパニエを想像するといいだろう。


 そして、まだまだ寒いので、皆一様にコートを着て歩いていた。


「ごきげんよう」

「あ、ども」


 そんなことより俺が驚いたのはこれだ。すれ違う人の多くが、知り合いでもないのに声をかけてきてくれる。ただ、コートの下の白いシャツとジーンズは、何となくジロジロと見られている気がしたけどね。前、閉めておこう。


「あった。これだな」


 ギルド・ラーカンドル。町に出てから初めて声をかけてきた見知らぬおじさんに聞いた通り、かなり大きなレンガ造りの建物だった。すぐ分かると言われたが、なるほど、遠くからでもこの存在感なら納得出来る。


 扉を開けて中に入ると、まずたくさんの丸テーブルと椅子が並んだ、大きいレストランのような光景が目に飛び込んできた。ファミレスとは違う、ちょっと格式の高い方である。今は昼下がりだが、何組か食事をしている人も見受けられ、メイド服を着たウエイトレスさんっぽい女の子もいた。セルシアにも似合いそうだから、そのうちプレゼントしよう。


「あの、すみません」

「は〜い」


 俺は一番近くにいたメイドさんに声をかける。


「えっと、登録とかってどこですればいいんですか?」

「あ、ご新規さんですね?」


 ご新規さん?


「はい」


「奥に2階へ上がる階段がありますので、上りきった左手が受け付けになってます」

「ありがとうございます」

「いえいえ〜」


 教えられた通りに階段を上がると、左手は役所のカウンターのようになっていた。ただ、奥行きはそれほどなく、小さな事務所という雰囲気である。もちろんパソコンなんかない。


 ちなみに右手には掲示板があって、そこにはいくつかの紙が貼られていた。以前テレビで観た、ハローワークの求人票みたいなイメージだ。それを2人の男性が眺めていた。


 1人は俺よりも背が高くてガッシリとした体格に革の鎧を身につけ、壁に大槌(おおつち)を立てかけたモヒカン頭。もう1人は赤毛短髪で、背中に大剣(たいけん)大盾(おおたて)を担ぎ金属製の青い鎧を(まと)った、いかにも戦士風といった感じである。


「いらっしゃいませ。ご依頼でしょうか?」


「あ、いえ、登録に来たんですけど」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 受付嬢は金髪ボブの丸顔だった。にっこり微笑んでくれた顔はちょっと可愛いと感じたが、セルシアとは比較にならない。例えるならそう、クラスにいる、目立たないけど話してみたら感じがよかった女の子、というのがしっくりくるかな。あと、カウンター越しなので体型はよく分からないが、胸がやたらと大きい印象を受けた。


 そこだけはセルシアの完敗だ。


「ここにお名前を記入して下さい。あとこちらにご職業があれば。ない場合は未記入で構いません」


 おいおい困ったぞ。こっちの世界の文字なんて分からない。じいちゃんの紙切れにも、文字に関しては何も書いてなかった。仕方ない。そのまま日本語で書くか。


「これでいいですか?」

「はい……あの、どこのお国の文字でしょう?」


 あ、やっぱり。


「すみません。これは私の日本という国の文字です」

「日本……? 聞いたことがありませんが……」

「あはは、小さな島国ですので」


「それで、何とお読みすればよろしいでしょう?」

「カムイアキラです」


「カムイアキラ様……カムイが名前でアキラが家名(かめい)、ということでよろしいでしょうか?」

「あ、いえ、逆です。アキラの方が名前です」


 苗字と名前が日本とは反対なのか。じいちゃん、そのくらい教えてくれよ。


「では、アキラ様とお呼び致しますね」

「え? いきなり名前呼びですか?」


「こちらではそれが普通ですが、アキラ様のお国は違うのですか?」

「はい。でも普通のことなら名前呼びでいいです」


 女の子に名前で呼ばれるのはちょっと恥ずかしいけど、そのうち慣れるだろう。


「ではご身分証の提示をお願いします」

「み、身分証?」


 聞いてないよ。学生証ではダメだよね、さすがに。


「お持ちではありませんか?」

「持ってないです」


「困りましたね。ご身分証がないとすると、身元保証人が必要になるのですが……」

「あの、誰でもいいんですか?」


「誰でもというわけには。ここか、どこかのギルドの登録証を持っている方でないと」


 とすると、セルシアには頼めないということか。これは参った。じいちゃんは登録してたのかな。もっともすでに死んじゃってるから頼めないけど。


 仕方ない、出直すしかないか。そう思った時、掲示板の前から男が1人、こちらに向かって歩いてくるのだった。

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