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第1話 異世界への門

「何だ、この部屋?」


 ここは寺で、住職は俺のじいちゃんだった。亡くなったのは俺が13歳の時だ。


 それから3年、両親とも海外で仕事をしているので、俺は1人で生活している。もちろん高校にも通っているが、2年生になってからはほとんど登校していない。


 イジメに()っているとか、そんな理由ではない。元来(がんらい)が面倒臭がりなだけである。あと、ラノベを読むのに忙しくて、学校なんかに行っているヒマがなかったという理由もあった。


 ま、彼女がいるわけでもないし、友達もほとんどいないから問題はないだろう。そもそも中学を卒業してからまともに会話すらしない相手を、友達と呼んでいいものかどうか。


 でも、ラノベに出てくるような魅力的な女の子が彼女だったら、俺の人生も変わってたかも知れないかな。


 俺の名前は神武居(かむい)アキラ。


 短めの黒髪は特にヘアスタイルを決めているわけではない。洗って乾かしてくしを入れて、という程度で済ませている。顔はどちらかというと面長(おもなが)だが、極端ではないと思う。鼻も高くないし目つきが鋭いわけでもない。多分ブサイクではないだろうけど、取り立ててイケメンでもない、要は極々(ごくごく)平凡な男子高校生である。あ、でも身長は179cmあるから、同世代の平均より高いかな。体型はひょろっとしてるから、細長いイメージだと思う。


 それはそうと、俺は祭壇の奥に隠し部屋のようなものを見つけてしまったのだ。何気なく手をついた壁板がいきなり裏返り、本当に小さな、畳2畳分くらいしかない石造りの部屋に飛び込んだのである。いや、マジで驚いたよ。つんのめって転びそうになったし。


「額縁? いや、鏡だったのかな……」


 向かって右側の壁には少し幅の狭い扉ほどの、縦長の大きな額があった。それは文字通り額だけで、中には裏板も何もなく、背後の石壁もちゃんと見えている。


 だが、もっと驚いたのは正面の壁に貼られた、じいちゃんが書いたと思われる1枚の紙切れの内容だった。そこには――


『この部屋を見つけたということは、アキラには資格があるということじゃ。向かって右の壁は日本とは別の世界に通じておる。その世界では寺の本尊(ほんぞん)薬師(やくし)瑠璃光(るりこう)如来(にょらい)様の加護により、絶大な法力(ほうりき)顕現(けんげん)することが出来るのじゃ。その力は――』


 待て待て、何だよこれ。法力って(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)とか唱えるヤツのことか? じいちゃんが祈祷(きとう)でよくやってたから知ってるけど、(いん)だっけ、あんなの俺には出来ないぞ。


『お前が好きなワノベとかに出てくるあれじゃ。魔法によく似ておる』


 じいちゃん、ワノベじゃなくてラノベな。そんなことより盗み読みでもしてたってのかよ。


『やりたいこと、起こしたいことを強く念じ、(はや)九字(くじ)を切ればよい』


 それなら俺にも出来そうだ。人差し指と中指を揃えて手刀に見立て、縦横に振ればいいだけだからな。


『じゃが、力を使うと腹が減る。尋常ではないぞ。どのくらい食糧が必要かは、念じようとしたときに分かる』


 腹が減るってじいちゃん、どんな縛りだよ。


『ま、お前のことじゃ。悪いことはせんと思うが、念のためにもう一度言っておく。法力は、本尊薬師瑠璃光如来様の加護によるものじゃ。くれぐれも、人に苦しみを与えるようなことはせんように。それと、言葉は通じるから安心せい』


 そして最後に、その世界に行ってみたければ、心の中で薬師如来様の真言(しんごん)を唱えながら、額縁の中央を両手で押せ、と書いてあった。何の冗談なんだか。


 とりあえず試しに額縁の真ん中辺りを両手で押してみる。じいちゃんの手形みたいなのがうっすらと見えたので、それに合わせてだ。しかし石の壁はうんともすんとも言わない。というか、何の変化も起きなかった。至極(しごく)当然の結果である。


 ま、本尊様の真言を唱えてみたところで、結果は同じだろう。そう思って薬師如来様の姿を思い浮かべながら、じいちゃんに教わった真言を心の中で唱える。


『オンコロコロセンダリマトウギソワカ』


 こんなんで俺の大好きなラノベの世界、異世界に行けたら世話ないわな。そんなことを考えながら、もう一度額縁の中央を押した時だった。


「うわっ!」


 両手は何の抵抗も受けずに石壁の中に吸い込まれ、予想もしていなかった俺は、そのまま前のめりに全身が飛び込んでしまう形となっていた。そして次に俺が見たものは――


「え……同じ、部屋?」


 そこは石壁を通り抜ける前と同様、やはり畳2畳分くらいしかない石造りの部屋だった。だが、出入り口のように見える色の違う壁は右手にある。つまり、先ほどの部屋とは左右対称ということだ。加えて左手の壁には、またもやじいちゃんが書いたと思われる紙切れが貼られていた。


『帰る時も同じじゃ』


 って、それだけかよ。まあ、分かりやすくていいけど。にしても、俺は夢でも見てるんだろうか。そう思ってほっぺをつねってみるが、痛いので現実らしい。しかし帰れなかったらそれはそれで困るし、ひとまずちゃんと戻れるか試してみたところ、問題はなかった。


 あとは法力とか言うのが使えるかどうかだ。憧れの異世界に行ったはいいが、何も出来ずに死んでしまっては元も子もないからな。


 で、俺は再び石壁をくぐって異世界に出たわけだが、そこで聞こえてきたのは女の子の悲鳴だった。


 いきなりアクシデントって、マジかよ。

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