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三色の鳶

夜が開けて日が昇ると、国についた傷がはっきりと見えるようになった。

ヴェゼールが放った一撃、たったの一撃によって国は壊滅状態になっていた。

あちこちで赤子が泣き叫ぶ声が響いている。

兵士達は救命作業、復旧作業に尽力していた。


ヨーゼン王は深く肩を落として、瓦礫の山に腰掛けていた。

「心までも負けてしまったとはな…」

圧倒的な力を持つヴェゼールに、抵抗せずに降伏してしまった事を深く後悔していたのだ。

頭を抱えている父を見ていたアレン。

暖かい言葉をかけようと近づいた。


「父上…」

激しい苛立ちと罪悪感に襲われているヨーゼンは、近づいてくる息子を反射的に睨んだ。

アレンは父に拒絶されている事に驚き、足を止めた。


「王子、お待ちを」

ザウはアレンを呼び止めた。

ザウは目で訴えた「今は王を一人にしておくべきだ」と。

アレンは口を閉じて、小さく頷いた。

「避難所の様子を見てきます」

王に一礼して踵を返し、避難民の集まる仮設住宅地へと向かった。

アレンは肩を落とし、口を噤んだ。

ザウはアレンに寄り添って歩いた。


「王は弱い人ではありません、すぐに折れた心は元通りになります」


「僕もそう思うよ、ザウ」


二人は避難所に到着した。

簡素なテントで作られた仮設住宅がいくつも設置されている。

軍による炊き出しが始まり、食料受け渡し場には行列ができていた。


アレンとザウは、避難所の一角にあるテントに近づいた。

そのテントの中には、人語を話す三匹の鳶と気絶している少女が寝ていた。

内一匹が翼の先端で、少女の頬を撫でるように触っている。


「…姫おきて!姫っ…ひーめー」

黄色い立髪の鳶が今にも泣きそうな声で少女に呼びかけていた。


「落ち着きなさいオルア、姫は死んだわけではありません」

青色の立髪を生やした鳶は、黄色い立髪の鳶オルアをなだめた。


「…うぇっぐ…ノールは落ち着きすぎ…お前の血の色は何色だ...」


「何度も見てるでしょう阿保ですか?赤黒いです」


「…泣けるほど率直な答えだね…」


オルアは涙をポロポロこぼした。

青色の立髪の鳶ノールは、呆れた様子で目を閉じた。


「おねんねしてなさい、姫が目を開ければ起こしてやりますから」


「はぃぃい…うぅ」

オルアは少女にくっ付いて、拗ねた子供のように翼の羽毛の中にクチバシを埋めた。

そのオルアの上に飛び乗った赤い立髪の鳶。

ギャアギャアと騒いで翼をバタつかせた。

「おい、ノール!腹が減ったぞ!」


「お前は燃費が悪いですファゼル、さっき朝食を食べたでしょう?」

ノールは赤い立髪の鳶ファゼルを睨んだ。


「お前の青臭い立髪食わせろ」


「私の美しい立髪を?答えは"死ね"です」


「ふひひ!お?誰か来るぞ」

ファゼルはテントの入り口を見つめ、クチバシをカチカチ鳴らした。


「ん…貧困王子が来るぞ?にしし、奴に俺様の給餌をさせるか」


ファゼルが笑い出すと共に、テントの入り口が開いた。

「お邪魔します」

アレンは頭を下げながら、テントの中に入った。

神獣三匹を前にして、膝を突き首を垂れた。


「わが国を救っていただき、ありがとうございます」


「謝礼は牛肉でいいぞ!ぬひひ!用意できるかっ?ファッ!?」

ノールがファゼルを黙らせた。

チンピラのように口うるさいファゼルの首根っこを足で掴み、地べたに押しつけ黙らせた。


「愚弟が失礼した…私はノールと申します…若き王子よ、頭を上げてください」

アレンは言われた通りに頭を上げて、三匹の神獣を見つめた。

ノールはアレンの目を見つめた。

「我らも貴国と同じく、ヴェゼールに巣を荒らされました…奴に復讐する為、先回りしてこの国へ来たのです」


「そういう事情があったのですね」


「結果返り討ちに合いましたが……勝機はありました」

ノールは気絶した少女を見つめた。

共に寝かされているギターと直刀は、テントの隙間から差し込む日差しに照らされてキラリと輝いた。

反射した光を受けたアレンは、犬耳をひくつかせて目を丸くした。


「お願いがあります!」

「ん?」

ノールはアレンに近寄り、グイッと顔を近づけた。

アレンは引かずに、ノールの猛禽類らしい凛々しい顔を見つめた。

「同じ痛みを受けた者同士、協力していただきたい!」


「…と、言いますと?」

ノールは小さく首を傾げた。


「ヴェゼールは"また一年後に来る"と言った…奴は完全にこの国を手に入れるつもりだ」


「ふむ…しかし…」


「再び、貴方達の巣を襲う可能性もありえる」


「…その可能性は否定できないですね」


ノールがクルル…と悩ましい声を上げていると

…。

気絶していた少女の目が、ゆっくりと開いた。


登場人物紹介


[ファゼル]

神獣の鳶。

赤い立髪のついた冠を被っている。

足の爪に装着された鋭利な刃はあらゆる物を切り刻む事ができる。

三兄弟の中で攻撃力はもっとも高い。

短気でせっかちな性格だが、三兄弟の中で一番情に熱い鳥である。

人間に化ける時は必ず男の姿に化ける。



[オルア]

神獣の鳶。

黄色い立髪のついた冠を被っている。

魔法を使い、あらゆる属性の攻撃ができる。

ノールいわく「神獣一の天才魔法使い」

ファゼルいわく「神獣一のぼんやり魔法使い」

のんびりした性格で優しく甘ったるい声を出す。

人間に化ける時は気分次第で女、男、どちらにも化ける。



[ノール]

神獣の鳶。

青い立髪のついた冠を被っている。

身につけた鎧は特殊な合金で作られている。

あらゆる属性の攻撃を跳ね除ける。

オルア程ではないが、魔法全般を使う事ができる。

三兄弟の長男であり冷静沈着で賢いが、ちょっぴりナルシストである。

人間の姿に化ける事ができる。

その際もお粧しに時間をかける。






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