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悪神襲来



大地が啜り泣くように震えている。

木々が揺れ、草がサササと鳴いている。

サアールの東方、南方の平野側には石造りの防壁があった。

外敵に対抗するため造られたものだ。

高い防壁の上から、平野を一望できる。

転々と焚かれた松明が、淡い光を放っている。

サアールの国防軍の兵士達が、弓と銃を構えている。

銃と弓の射程範囲内には、まだ敵影は無い。


「やはり……目的地は我が国のようだ」


防衛隊長が単眼鏡を覗き込み、遥か遠くの敵影を確認していた。

隊長の一言で、兵達が騒めき、重苦しい空気が波紋のように広がった。


牛の国、ドドラの国旗が夜風で靡いている。

全身を覆うような鎧を着た兵士達が、隊列を成してサアールへ向かって進軍している。

小国を落とすどころか、大国二つを相手にできるような戦力だ。

その大軍、軍隊の最前線には、獣の背に乗る男がいた。

大岩を指一本で上げてしまいそうな屈強な身体、そして巨大なツノを生やしている。

彼はドドラの牛神、ヴェゼールだ。

たくましい腕には、刺青が刻まれている。呼吸するかのように、赤く光って、強弱を繰り返すように光っている。


ドドラの軍勢は事前に何度も練習したかのよう、サアールを取り囲む為に防壁の近くまで進んだ。

あっという間に国全体を取り囲まれた。

海を背にしたサアールは、地上側の退路を完全に塞がれた。

ヴェゼールが角笛を吹き、全隊列を止めた。

角笛の音は、防壁の兵士達の心を粉々に砕くように大きく暴力的に鳴り響いた。

ヴェゼールは城壁の上で団子のように連なった青ざめた兵士達の表情を見た。

単眼鏡のように遠方まで見れるその目は右に左に動いた。

獲物の観察を締め括るように、フンっと鼻で笑った。

大きく口をあけて、息を吸ったた。


「聞け!小国の民よ!お前らの国は今この瞬間を我が国の領地となる!喜んで受け入れよ!」


傲慢な神の言葉は、サアール全土に響いた。


「サアールの国民は我が国の奴隷とする!殺すのは王と王子のみ!今すぐ我の前に差し出せ!」



「ふざけるな!祖国を渡してなるものか」


対話ができる相手ではない、と判断した隊長は歯軋りをしながら、手を挙げて兵士達に合図した。


「攻撃準備!野蛮な神を追い払え!」


一斉に弓の弦が引かれ、ライフル銃の照準が外敵へと向けられた。

張り詰めた緊張の糸を切り払うかのように、隊長が手を下ろした。

矢と銃弾が雨のように降り注いだ。

鎧の兵達は怯む事もなく矢と銃弾の雨を受けた。

カンカンカンッ!

鎧に弾かれた矢は、地面に落ちた。

鏃は硬い鎧に弾かれて、欠けてしまっている。

放たれた銃弾は、生気の無い兵達の間を跳弾しながら跳んで消え去った。

ドドラの兵は誰一人倒れない。

悲鳴も上がらない。鎧に傷をつけられたかすら怪しい。

ドドラの兵士にとっては、文字通りに雨を被っただけだった。


誰一人倒れていない。

手応えが全く無い。

その事実に、サアールの兵達は恐れ慄いた。


「先に手を出した事を褒めてやろう……さぁ反撃だ」


ヴェゼールはニヤリと笑いながら叫び、大きな鉄槌を取り出した。

鉄槌には刻印が刻まれており、印字は金色に光り輝いていた。

地面にむけて、振りかざし、振り下ろした。

轟音が響き、地面がうねり、とてつもない地震が起きた。

想定以上の揺れに、防壁は積み木のように脆くも崩れ落ちた。

地面がうねるように起伏しだし、波のようになってサアールの国内を破壊しだした。

悲鳴が上がり、建物が倒壊し、火災が起きだした。

たったの一撃で、サアールは崩壊した。

たったの一撃。

それも一瞬で、瞬きをする間に。

サアールは国として敗北した。


「なんと脆い国よなぁ……さぁて、女と宝物を漁るとするか」


盗賊のような下衆な笑いを浮かべたヴェゼール。

荒神は獣に鞭を打ち、サアールの国内へと向かっていく。

ドドラの兵達は棒立ちのまま、地に打ち付けられた人形のように動く事はない。


何の命令も下していないのに、大軍から一部の兵団が、ヴェゼールの後に続いていった。

数にして3000人はいるであろう兵団は、ドドラの軍団のほんの一部だった。


荒れ果ててしまった大地を踏みしめる足音が、サアールに近づいてくる。

獣の手綱を握るヴェゼールは、大きくうねった大地を眺めて小さく笑った。


「いい眺めだ」



登場人物紹介


[ヴェゼール]

牛の国ドドラを統治する神。

非常に攻撃的な性格であり、世界を我が物にしようと企んでいる。

各国に戦争を仕掛けては掠奪を繰り返している。

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