復興の芽
ヴェゼールの襲撃から4日後。
サアールの国内の地表には、小さな復興の芽が出始めていた。
「皆、使えるレンガや木材をここに集めろ!」
軍の指揮者が指示を出して、崩壊した建物から欠けていないレンガや折れていない木材を取り出させている。
倒壊した建物に近寄るのは兵隊だけではなく、農夫姿の者も商人姿の者もいた。
国の全て民は帰る家を失った。
皆、同じ境遇に落ちた。
それによって、人種や階級が違っても一丸となって復興に協力していた。
ヴェゼールの攻撃を耐え抜いた城と王宮は、民の為に開かれていた。
王は復興の為に指揮系統を整え、国内各地の状況を把握しようとしていた。
城の片隅に大きなテントを設営して、復興本部として運用し始めていた。
国内の現状をまとめた地図を見つめていた。
広いテントの中は、軍の高官や大臣達が集っていた。
地図には被害範囲と状況が書き込まれている。
「一撃でここまでやられたのか……攻撃は扇状に広がっていったのだな…海辺の被害は?」
王は腕を組み、軍の高官に尋ねた。
「港町は建物が殆ど倒壊しています、ですが港としての機能はできますし、幸いにも遠泳用漁船は6隻無傷です」
高官の男は現状を述べた。
王は顎髭を撫でて、小さく唸った。
眉間に作った深い皺が、事の重大さを表していた。
「漁船を何隻か使い友好国に救援を求めよう、航路次第だが足の速い獣で向かうよりも早く着くだろう……調整してくれ」
「かしこまりました、ただちに」
王は指示を出した後、誰にも聞かれないように小さなため息を漏らした。
サアールは小国だが、領地が狭いわけではない。
それをたったの一撃でねじ伏せたヴェゼール。
それが一年後にまたやって来る。
王としては重苦しい胸の内を晒す訳にはいかない。
それに今は希望が無いわけではない。
王は気を引き締める為に両頬をバシバシ叩いた。
「あの娘に期待しよう…頼むぞアレン」
一方、アレンとザウは、王の期待を背負った娘と行動を共にしていた。
三人は港町を訪れていた。
シュリアに国内の案内を頼まれたアレンは、2日かけて国内を案内して回っていたのだ。
他の者に任す事もできたが、アレン自身が案内をしたがった。
自分で被害の状況を見て回りたかったのだ。
「ああ…ここのベーカリーも壊れてるな……ご主人夫婦が大好きだったのに…ぐすっ」
崩壊し変わり果てた町を見たアレンは、何度も涙を流した。
その度にザウは黙って、そっとハンカチを差し出した。
アレンはハンカチを受け取り、涙を拭った。
「すまないザウ…泣いてはいられないよね」
「涙は拭えます、人の目が無い時は何度でも零してもかまいませんよ」
アレンの泣き顔を見る事ができないザウは優しく微笑んだ。
微笑んだまま、首を少し傾げた。
「それより、新しいご友人は何処へ?」
「はっ!?」
シュリアは半壊した塔の上に登っている。
ギターを背負い、地形を確かめるようにジイッと眺めている。
刺繍された服の裾が潮風でヒラヒラと靡いている。
剣を抜き、海を背に丘の方へと剣先を向けた。
日光を浴びてギラついた光を放っている。
刀身から反射した光はシュリアの瞳に映り込んだ。
数日前の情景を思い返している。
「牛の神はあちらから来た…次にヴェゼールを迎撃する為には…どうするか…」
ヴェゼールの侵攻方法を考え、パチパチと瞬きをした後にゆっくりと閉じた。
ため息を吐き、がっくりと肩を落とした。
「ダメだ…私の頭では何も思いつかない……」
「姫ーっ!!」
「ん…」
アレンから声をかけられたシュリアは下方を見た。
「姫!港に無傷の船があるそうです!見に行きませんか!?」
「船?…港町の地形を把握したい、もう少し待って」
「はいっ!待ちます!」
アレンは背筋を伸ばして正座した。
塔の上にたたずむシュリアは、枝に止まる猛禽類のような凛々しい姿だ。
アレンは、それに見惚れていた。
その姿はオヤツを欲しがる子犬のようだ。
ぼんやりした表情の王子の側にいたザウはクスクスと笑った。
「王子は気が早いですね?"姫"などと呼ぶなんて」
「ふぐっ?!」
言葉の肘鉄で小突かれたアレン。キョドらずに犬耳をピンと立てて拳を握りしめた。
「必ずやあの娘を我が手に!」
ザウは側でパチパチと小さな拍手を送った。