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彼女に近づきたい理由

アレンは高い高い櫓に上り、柱をよじ登って、さらに傾斜のキツい屋根の上に這い上がった。


「はぁ…はぁ…ふぅ」


息を切らしながら、お目当ての場所にたどり着いた王子(アレン)

下を見ないようにしながら、シュリアの隣に座り、乱した息を整えた。

櫓の上からは崩壊したサアールの全体を眺める事ができた。


「……あぁ」


アレンは深く傷ついた祖国に言葉を失った。

犬耳が垂れ下がり、口を噤んだ。

可愛い女の子とお喋りするはずだったのだが、何も喋る事ができない。

シュリアから話しかける事はありえないので、会話は生まれない。


撫でるようにギターの弦に触れているシュリア。


「海か……綺麗ですね」


微風に流されるような小さな声で、ポツリと呟いた。

アレンに対して言った言葉ではないようだ。

シュリアは海を見つめたまま、小さく息を吐いた。

夜空の星がドラマチックにキラキラと光っている。

星空の光を吸い込んだ海面が、キラキラ輝きながらうねっている。

アレンの視界も海原へと引き寄せられた。

犬耳がビクンと跳ねて、風にさらわれていったシュリアの呟きを拾いあげた。


「海!案内しましょうか!?」


「…別にいい…興味ない」


「うっぐぅ…」

ドライな対応にアレンの心は折れそうになった。が、アレンは踏ん張った。


「行ってみれば興味が湧くかもしれませんよ!?」


涙目で叫ぶアレン。

その苦しそうな表情は、シュリアの視界には入らない。


「ん……んん……」


悩ましそうに小さく唸り、いきなり屋根の上から飛び降りた。

降りる瞬間にギターの弦をピンっと弾いた。


「ヒェッ!?こんな高い場所から?!」


アレンは驚き、飛び降りたシュリアを目で追った。

地面に着地する前にファゼルが飛来し、シュリアを背に乗せた。

ファゼルは地面に降り立ち、シュリアを地面に下ろした。

ファゼルは嘴をカチカチ鳴らして、櫓の上のアレンを睨んだ。


「姫、口説かれてんのか?要らぬ虫は払うが吉だぜ?」


「口説くとはなんですファゼル」


シュリアは目をパチパチさせて首を傾げた。

ファゼルは吃って、あらぬ方向に目を泳がせた


「んーあー…簡単に言えば求愛行動だな」


「そう…それよりも海が見たい」


シュリアは口説かれた事に、まるで興味がない様子だ。


「あいよ、海までひとっ飛びだな」


シュリアはファゼルの背の乗った。

櫓の屋根の上でブルブル震えているアレンを見て、弦を一つ弾いた。


「早く行ってくださいファゼル」


鞍に跨り、姿勢を低くした。


「へいへい」


ファゼルはシュリアを乗せて飛び立った。




「……嫌われる痛みを覚えたぞ」


取り残されたアレンはガックリと肩を落とし、屋根から降りようとした。


「お待ちを」


屋根の上にはアレン一人、他には誰もいないはずだった。

誰も人はいないはずが、呼び止められた。

「ん?」

アレンは声がした方向、とんがり屋根の頂点を見た。

そこにはノールがいた。

翼を広げトコトコ歩いて、アレンに近づいた。


「姫と一緒に海へ行きましょう」


「へ?!」


「姫は海に興味を持ってくれたようですよ?」


「そっか…良かった」


アレンは解放されたかのように、パァッと笑った。

ノールは背を見せつけるように身体を反転させた。身につけた鎧の一部が鞍のようになっている。


「どうぞ、私の背に」


「ではお言葉に甘えて…失礼します」


アレンはおずおずと、ノールの背に乗った。

吹いている風を読み、タイミングを狙ってノールは飛び立った。

海に向かってゆっくりと飛び始めた。

風でアレンの金色の髪がゆらゆら揺れた。

アレンは崩壊した街を見下ろしながら、目を細めた。


「なぜ、姫に近づくのですか?理由は?」


ノールは風の流れを読みながら問いかけた。


「理由は二つあります」


犬耳をピンっと立てたアレンは即答した。


「一つは…国の為に協力していただきたいからです…彼女の力があれば...一年後に再来するヴェゼールに対抗できる」


「勝率は低いですよ、ヴェゼールは他国の神さえ容易く捻り潰す力を持っています」


「それでも私…僕は彼女に希望を感じます」


アレンは強い口調でそう言った。


「……二つ目は?」


食い気味に問いかけを投げたノール。

アレンは頬を赤らめ、照れを振り払うように髪をかき乱した。


「彼女に…興味があるので…はい」


「率直に言うと?」


「ひ、ひとめぼれ…ですね…仲良くなりたいです」

ノールはクスクス笑い、飛ぶスピードを速めた。


「理由が一つだけなら、背中から落としていましたよ」


「ひえっ!?」


「冗談です、冗談…貴方は可愛らしい王子ですね」

ノールはアレンを弄びながら、海へ向かって飛翔した。

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