おかえりタヌキ…。
田舎町に生まれた自分にとって、都会は身の置き所のない場所だ。
自分が出張で来たのは東京。
そこで待ち合わせのはずだった。
ココは?
ココは何処なんだ?!
東京じゃないよな?
まさかの東京の森じゃ。。。
いや、違う。
だってあまりに美しいんだ。
それは、まるで夢のようで。
ただし。
目の前で怖いオヤジが睨みつけてなければ…だ。
いや、さっきまで居なかった。
突然、現れたんだよ。
外国人だよな?しかし、どっから現れたんだ??
「あのー。僕に何かご用ですか?」
丁寧に聞いたつもりだよ!!
なのに。。。
更に睨んでもう、アレは鬼だよ。
俺…なんかした?
「タヌ…いや、名前は何だ?」
おー。低いナイスボイスだな。
イケメンオヤジって、憧れるよ。
しまった!!
また、脱線して…これだからあんな目に…ん?あんな目って。。。
「おい!!言葉が分からんのか?」
「あ、ケンイチロウ、そうケンイチロウと言います!!」
ぼっーとしてしまったよ。
少し柔和になったイケメンオヤジが、またもや怒り出した。
だけど、不思議だ。
気弱な俺にしては、いつもより怖くない。
何故だろう…。
ん?
何故だか、周りを沢山のたぬきに囲まれている?
いや、囲まれているだけでは無い。
見つめられてる…熱く!!
何?
まさかのモテ期?!
これほどモテない人生を歩んだ末の相手が、まさかのたぬき?!
そんな事を考え込んでいたら、微かない音がした。
鈴の音かな?
チリン…。
確かに…何処からか鈴の音がする。
懐が熱いぞ?
おお?まさかこの鈴蘭のカタチの鈴から音が?!
しかし、俺…何でコレを持ってるんだ?
んー。あぁー!!!
今度は何?
鳥・鳥・鳥??
物凄い数の鳥が集まって来たぞ?
もしかして…この鈴蘭のせいかな?
物凄い沢山の羽毛の中に囲まれて前が見えない。
もう、この鳥ってば何を…ん?
羽毛の向こう側に何か見えてきたような…。
あれは…あの日の東京?
いや、ダメだ。
早く行かなきゃ!!
だけど…何か見てはいけないモノがある気がする。
ん?あの男は…
。。
「待て!!
そっちへ行ってはダメだ、タヌキ!!!」
凄い怒声が響いた。
あのイケメンの渋い声だ。
悲痛な叫びに思わず振り返ろうとして、やめた。
いや。振り返ると戻れない…。
景色が消えるような気が。
意を決して一歩を踏み出そうとする俺の耳にまた…
「タヌキーーーー!!!!!」
。。。
。。
。オヤジだ。。
オヤジが俺を呼んでるよ。行かなきゃ…。
『もう、戻れぬぞ。
それでもコチラを選ぶか?』ん?誰かの声がする。
でも、答えは決まってる。
当たり前だよ!!
だって俺の大切な家族なんだ。
そう、たった1人の…。
その後の事は覚えてない。
ただ、光の中で誰かが笑った気がした…。
『ケンイチロウ…いや、タヌキよ。
おかえり…』と。