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稀代の魔法使いリリラル。

泣いた事は無い。

境遇が境遇だったからか、泣いた記憶は無い。


それなのに、涙目とは…。

それほど、パパラヌの不意打ちは堪えた。

痛みに悶絶して声も出ないまま、失神してのだから。


痛かった。



朝になり目を覚ませば、パパラヌが薬草の汁の入った皿を側に置いたまま布団にうつ伏せて寝ていた。


近くに散らばった沢山の薬草を摘んで、声を失う。


なんと、水厚草(ミズクサ)とは。

これは、傷薬として有名だが採取も精製も難しくあまり流通していない。


今は、黄来草(キラソウ)の球根から精製するのが一般的なのだが。

傷薬としては、遥かに水厚草が優秀だが。


高級品なのだ。


さすが、パパラヌ。

水厚草の在り方を知っていたのか。

野生動物の本領発揮だな。


しかし。

絞った汁とは。


この水厚草は、もう一面特徴を持つ。

それは、絞り汁だと滲みるのだ。


いや。

子供の滲みるとか言う次元では無い。

気絶する為に、この傷薬を麻酔薬として使う医師もいるほどなのだ。

(痛みで騒ぐとよく、脅されたものだ)


なるほど。

医師には逆らうまい。

あの滲み方で脅されていたのだな。怖かった。。


しかし。

昨日の『回復草』今日の『傷薬』


どうも、パパラヌらしく無い気がする。

何か違和感があるのだ。


考え事をしながら、パパラヌを眺める。

ニヤニヤ笑いながら、寝ている姿などはパパラヌそのままだな。


気のせいか…。


隠遁生活をする前の、勘みたいなものはかなり薄くなった。

アサビさんの書付には、細かく食事について書いてあるが。


生態などには、触れてない。



頭の中に、昔馴染みを思い出しながら苦笑した。


この、パパラヌを野生に帰せば良いのだ。

いや、帰すべきだろう。


だが。

どうしても、躊躇われる。


猟師を生業としてるのに、おかしな話だ。

そっと撫でれば、ニヤッと笑う。


間抜け顔だ…。


重い腰を上げた俺は、久しぶりに部屋の床下から相棒を取り出す。


欠けた石の腕輪。

そして…魔力棒。ヒビが入ったままのものだ。


身につけると、魔法陣を空中に描く。


『転移』


その途端、俺は花畑のど真ん中に着いた。


しまった。

場所がズレたのか?


久しぶりの魔法で誤差が出たのか?


「久しぶりね。

誤差とかじゃないわよ。

防護魔法よ。急襲する馬鹿がいるからね」


花畑は、一転して大きな家が目の前に現れた。


それは、遠い記憶にあるものと同じものだった。



「で。

世捨て人さんは、珍しくお顔を拝見させて下さったのは、何故かしら?」


怒っている…。

それも、激怒で間違いない。


言い訳など、こうなると通用しない。

ただ、ひたすら正直に話すしかないのだ。


(そうだった…気難しいお人柄だったな)



「リリラル様。

引きこもりを破って参上したのは、パパラヌの事でございます」


しまった。

端折り過ぎた。


あまりに話のスキルが落ちている現状に、冷や汗が流れる。



ところが。

珍しくキョトンとしたお顔でこちらを見つめるリリラル様がいた。


「えーと。

あなた、パパラヌとか言った?

まさか、料理の仕方を教わりに来た訳じゃないわよね」


首を横に振ると、答える。


「いえ。

パパラヌが成り行きで、何故か家におりまして。

飼う言いますか…

一緒に住んでるのですが。


これがまた、変わったパパラヌでして」



「ハハハハハ!!」



なんだ?

大爆笑か?


いったい何処に笑うツボがあったのだ?


正直に、話していたのに。


「ごめんなさい。

口下手を拗らせてる貴方が必死に説明してるのを見てたら我慢出来なくなっちゃって。


まさか貴方が、パパラヌをね。

じゃ、貴方の家に行きましょう。

まずは会ってみなくてはね!」


うーん。

こうなるのが、一番最悪の事態なのだ。

稀代の魔法使いと呼び声の高いリリラル様に住まいを知られれば…。


はぁ。思わずため息が漏れる。


しかし、知恵者としても有名な彼女に頼るのが一番だと。

『転移』と魔法陣を空中に展開した。



我々が突然、現れると。

キョロキョロするパパラヌがそこにいた。

そして、何故か我々を見てニヤリと笑った?!



「ほんと。面白いパパラヌね。

初めまして。リリラルよ」


リリラル様に、頭を下げるパパラヌ。



しかし。

何故扉から出て行こうとする?


ニヤニヤしながら?!



「分かったわ。

パパラヌは、私達に遠慮してるのよ。

お似合いだとでも思ったんじゃないの?」


絶望感とは、こういうものか。


何故…。

こんなに高齢な彼女とカップルだと思うのだ!!


そうしたら。

心の中を読んだリリラル様に、頭を叩かれた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 泣いたことがない、ってかっこいいです。
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