ハゲの魔法使い?!
ーオヤジ視点ー
どうしてこうなった…。
ザリ様と睨み合いに一歩も引かぬ気合いを込める。
負けてはダメだ。
相手が誰であろうとも、魔力の源とも言われる髪の毛を全て無くすとか。
しかも変化の術ではない。
本当にやる気だ。
もちろん、魔力は身体の奥底に眠るもの。
しかし、最も操り易い魔力は髪の毛に宿る。
ハゲの魔法使い…。
前代未聞。
聞いた事ない。
そんなの…ザリ様は何故やる気なんだ?
『パパラヌの希望よ。
それより、我の目的地。
其方なら理解出来るだろう。何故、断る?!』
タヌキが必死に説明してくれた事。
俺への頼み事と言ってもいいだろう。
ザリ様を目的地へ連れて行く。
その目的地の場所や名前を教えて欲しい。
理解出来ぬフリをしたが、ちゃんと言葉自体は分かっていた。
いても、連れてゆく訳に行かぬ場所。
あの国へ入るのは、不味いのだ。
あの『ダラ』へ。
魔獣の暴発など甘ったるい場所。
そう!!
人間以外の住む場所。
魔獣すらも、ペットにすらなる。
そんな、人外の者達が住う場所だ。
ザリ様が何故そこを目指すかは、薄々理解している。
魔獣の暴発も、あの場所の異変が原因だと言われているのだ。
その原因こそ、精霊やザリ様の様な存在を脅かすモノだと。
タヌキを守るのは、俺の役目。
か、家族だ。
だから、自分の力の届かぬ場所は…な。
『そんな事を言っても、パパラヌは既に暴走して駆け出した後だぞ!』
え?
ええーーーー!!!!
ど、どこに?
な、何故気付かなかったんだ!!!!
『ふん!そんな事我には容易い。
アレがお前に着せたいモノがあると張り切っていたから力を貸したまで。
お?
お前…何処に行く?まさかアレの場所が分かると言うのか?』
ザリ様の言う事を最後まで聞く事なく俺は走り出した。
場所など…。
呼んでいるではないか!!
あんな声で!!?
んー。
何と言うか。
俺を信じているのだ。だからこそあんな楽しそうな声なんだろう。
そうだ。
そうだよな?!
う、うん。ま、間違い…ない。
聞こえた声は、街外れからだった。
賑やかな街だと言うのに、不思議と人気が無い。
と、言っても魔獣などの怪しい気配もない。
おや、グラセル?!
目を回して倒れているグラセルの横で寝息をたてているタヌキ。
風景としては、長閑そのもの。
なんだが…。
何故?
コレは?
またなのか。
タヌキよ。
コレは不味いだろう。
金色に輝く布は、初めてお目にかかる。
いや。
俺の知る限り、コレを説明出来るモノはいない。
『はぁはぁ。
全く、我を置いて行くとは。
は、はーん。パパラヌめ、やるではないか。
コレはお前たちで言う防御力が高い布だ。
だが、単に高いでは済まないな。
コレに叶う攻撃力を持つ物体は、我々以外はいまい。
まぁ、先ほどのレレベーナやラクスゥでも傷一つ付けられまい』
!!!!!!!
タヌキ…。
ダリ様の希望するダラへ向かう方策を練っていたとは。
『目を回しておる此奴の布も、此奴専門の防護布だ。エネルギーに当てられて目を回すとは小物だな』
グラセル…。
共に来てくれるのか!!
お師匠様と同等の力の持ち主を味方にするとは有り難い。
『世界のヘソ』、『ダリ』。
どちらも、行かねばならぬ場所であろう。
パパラヌの心意気を叶える為にも、防護布を完璧に仕上げねば。
「おい!起きろ!!
グラセル!!!!」
古くからの伝手は、叶わない相手だ。
グラセルならば、この防護布を扱える職人を知っているだろう。
寝込むタヌキを抱き上げると、寝ぼけ眼のグラセルを急かしつつ店へと戻る。
(良かった。
髪の毛の事は、ザリ様も忘れた様だ…)
『甘いな。ゼルグフよ。
ハゲの魔法使いへの心構えをしておけよ!!』
抱き上げたタヌキを落としそうになる俺の動揺を楽しむ様に笑うダリ様を睨みつつ進む。
キョトンとするグラセルが意味深にコチラを見るも完全無視をしつつ。
(せめてもの八つ当たりだ…)