店長にも、お裾分け!!
ーたぬき視点ー
はぁはぁはぁ。
随分と走り回って、探すけど何処にも袈裟がない。
これじゃ、せっかくの坊主頭もキチンと失恋の癒しにならないじゃないか!
せっかく連れてきた店長も、役に立たないし。
商売人ともあろう人が袈裟を知らなきゃ!
失恋の乙女とか、来たらどうすんだろう。
仕方ないから、説明したら口を半開きにして指差すし。
んん??
いつの間にか町外れまで来てたのか。
店長は、やたら森の方向を指差し興奮してるけど、何?
おぉ、何が光ってるからか?
森の入り口付近にある大きな木がやたらと光ってる。
なんだろ?
近づこうとする俺を店長がやたらと止めるし。
危険なんて無いから。
ただ、光ってるだけじゃん。
あ、違うや。
光ってるのは、木じゃないね。
毛虫かな?
びっちり毛虫がいるのかな?
ちょっとドン引く勢いでいるねぇ。
『集まったよ。
袈裟作るから、待っててね』
おぉ、バイリンガルはなんと毛虫語もマスターか?!
でも、袈裟を知ってるなんてイケてる毛虫だな。
ビュッ。
ビュッ。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ…………。
これは。。。
凄いぞ。
毛虫がお尻から出している糸が金色に光りながら一枚の布になってゆく。
幻想的な風景だ。
バサッ!!!
その時、空の上から大きな羽毛がふわふわと落ちてきたから慌てて見上げてビックリ!!
綺麗な七色の羽を持つ鳥が羽毛をヒラヒラ降らせてるし。
『コレも使ってね。良い袈裟になるから』
なんと!!
鳥語もマスターとは。
翻訳家として生きていけそうだな、俺。
とか、思っている間に羽毛を組み込んだ光輝く一枚の布が出来たし。
しかし、店長は煩いなぁ。
「信じられない。
幻の螺虫と、金舞鳥が同時に現れるなんて」
独り言が多いのは、年のせいかな?
年寄りだと、大変だな。
そうだ!!
ついて来たお礼に店長にもアレを作って欲しいなぁ。
『アレ作れる?』
おぉ、毛虫が金色から真っ赤に変化して作ってくれたし。
還暦と言えば。
赤い布だよな!
おー。
目を回して店長も感激してるよ。
おい、大袈裟だな。
何も喜びのあまり、気を失わなくても。
でも、赤い布が似合ってるから毛虫のセンスは抜群だ!!
『ありがとう、毛虫。
店長の分まで悪いな』
毛虫達にお礼を言ってたら、急に縮まったから驚いて近づいたら。
一斉に全員が蝶々となって、空へと飛び立ったよ。
鳥も一緒に、飛んでちゃった。
『ありがとう!!元気でなーー』
手を振る俺の方を見た鳥と蝶々は、頭の上をくーるくると旋回してから、西の空へと飛び去った。
しかし。
店長め。
まだ、寝てるな。
袈裟は重いから、店長に運んで貰いたかったのに。
仕方ないか。
還暦だものな!
暫く、ここで待つしかないな。
店長の横に俺も寝転がった。
でも大丈夫、不安は無いよ。
だって、オヤジはちゃんと見つけてくれるはず!!
俺たち硬い絆で結ばれた家族だもの。
な!!
オヤジ。