アサビ嬢の戦いーアサビ嬢目線ー
久しぶりにあの人が来た。
ギルドマスターからは、呉々も普段通りに振る舞うように言われてる。
驚いたり、余計な事を言わないように気をつけて…。
無理。
ぁあーー!!
最初から顔の筋肉総動員のこの獲物の山。
明らかに、何気なさ風を装っている不自然さにはまだ、目を瞑れる。
しかし。
獲物が…。
「おい。アサビさんとやら。
どうなんだ?どの位で引き取って貰えるんだよ!」
はぁ。
大熊豚などは、まだ良い方だ。
何度かお目見えした事があるから。
(とは言え、この辺りで大熊豚を見た事のある人は居ない。被害なら何件もある。まぁ…生きている人は居ない被害だが…)
大鰐なんて、値段表にも載ってない。
更には竜螢雷なんて…。
初めまして…に決まってる!!!
はぁ。
わたし、ナイス判断!!
カウンターには、無理だから裏の査定所まで来て貰ってマジ良かった。
(裏の査定所…ギルマスが彼を見かけて慌てて作ったものなのよ。本来は、馬小屋だったのに…)
もし。
もし、あのままカウンターとかに出されたら(乗り切らないけど…)パニック間違い無し!!
査定所の影からギルマスのサインを見ては、値段をつける。
つけるけど…換金されたらうちのギルドセンター潰れます!!
「大熊豚が二匹で、12500ガイ。
それと大鰐は、三匹で60000ガイ。
そしてですね。
竜螢雷は、えーと1380000ガイかな?
全部で1452500ガイですが、ちょっとご相談が…」
とにかく、後払い的なお願いを!!と思ったらいつもと違う展開が!!
「あのよ。
金は、2500ガイありゃいいんだよ。
また、預けとくから。
それより。
今回はちょっと、聞きたい事があってな。
まあ…なんだ。
パパラヌとかの事なんだけどよ」
パパラヌ?
あの、何処にでもいるパパラヌ?
子供でも、捕まえられる奴ですよね?!
えーと。
今回の査定には、入ってなかったような…。
「いや。
飼っている訳とかじゃねぇんだ。
成り行きつうか、行き当たりでの何かでな。
とにかく、俺が聞きたいのは何を食うのかって事なんだよ。
ミルクとかだけじゃ、栄養とか足りねぇだろ?」
目が点に…。
は!!いけない。ギルマスの睨みが背中を刺すじゃない。
「えーと。
わたしもそんなには、詳しくないのですが確か雑食だった気がします。
人間の食べ物なら何でも食べますよ。
そうだ。
二軒先の『ルッ・エフル』のマスターが飼ってたとか。
あのー、聞いておきますか?」
頭を掻きながら、彼は一言。
「頼むわ、悪りぃな」
「いえいえ。
では、残りのご精算と合わせて情報をお渡しします。換金はこの札を持ってカウンターへお願いします」
「おう」
後ろ手を振った彼がドアから出たのを見届けて、わたしはしゃがみ込んだ。
頑張った。
叫ばなかったもの。
初めての会話らしい会話も。
『パパラヌを飼う』という全くキャラにない話を聞いても。
「おい。よく頑張ったな、アサビ。
特別ボーナスをやるからな。
それと」
「はい。分かってます。
ここでの事は極秘扱いですよね」
わたしは、いつも通り受付に戻る。
通常業務の再開の前に…、
「わたしの表情筋!!良く頑張った!!!」
と、自分を褒めて今日の晩御飯は豪勢に『ルッ・エフル』とする。
経費で、落ちますから。
彼…ゼギーさんの事なら。
(本名じゃないわよ…ね?!)