戦場のはずが…
ーダーラント視点ー
「王より下知が下った!
今この時より、我が軍全てを以て『暴発』を食い止める為に『ゲランバの森』へと向かう」
エンデバンの咆哮に、一斉に叫びが上がる。
全騎士団の覚悟の咆哮だった。
何故なら…
『暴発』が出現したからだ。
その意味を知らぬ者などいまい。
己の矜持に懸けて、そして僅かな恐怖心と戦う男達の顔は皆厳しい表情だ。
俺が加わった事も。
ゼルグフの顚末も。
耳の早い騎士団で知らぬ者も居ないのだろう。
疑問も。
反対も。
何も聞こえない、纏まった姿にエンデバンの努力を見た気がした。
藪蛇になりそうだから、絶対言わないけどな。
準備が整い出撃のその時…。
気の抜けた声が聞こえて来た。
パパラヌ…。
「ダラさん。
オヤジの所へ戻るなら、乗せてくれよ!!」
お前…その光る姿で進むのは危険だから待っていてくれとあれほど頼んだのに。
何でだ?
「ダラさん。
よく考えてくれよ。
だって、オヤジの忘れ物を届けるのはやっぱり家族の役目だろ?
きっと困ってると思うんだよな」
忘れ物?
パパラヌよ…いったい何の事だ?
「ほら、コレ!!」
。。。
まさか。
手に持ってるソレじゃないよな?
「そうだよ」
嘘だろ。
その『葉っぱ』を届けるとか。
もう、枯れ葉もどきじゃないか。
「大丈夫!!
たぶん、もうすぐ蓄電するから!!」
チクデン?
コイツは時折訳の分からない事を言う。
連れて行くしかないか…。
俺の懐にパパラヌを抱えたままで、急ぎゲランバの森へと急ぐ。
エンデバン辺りは何か言いたげだが、後から来るパターンだろう。
はぁ。かなりプレッシャーなんだけどな。
あの目線…。
アイツのは、的確に急所を仕留めに来るから…な。
駆け出して数時間。
ようやく見えてきた森の様子は一変していた。
倒れた大木たち。
火が臭ぶる焼け焦げた大地や、木々。
死屍累々と倒れている魔物たち。
それも大熊豚じゃない。
全部、極大熊豚だ。
既に最上級に変化の後とは…。
チラホラ倒れている極大鰐に戦々恐々の部下達の気持ちは理解出来る。
それが通常人の反応だからだ。
だが、恐らく『群れ』は巨竜螢雷。
想像を超えた最悪の事態だ。
不味いな。
こんな修羅場にパパラヌを連れて来たとしれたら。
間違いなく奴はポンコツになる。
奴が戦力外になると、この戦いは勝てまい。
パパラヌの光が段々と収まって来たのは幸いだった。もし、未だ光っていたら狙い撃ちだったろうからな。
パパラヌは『蓄電成功!』とかブツブツ言ってるが今のところ大人しくしてる。
胸に抱えた枯れ葉が僅かに光ってる気がするが気のせいか…。
!!!
考え事は危険だな。
右側から襲って来た極大鰐を一刀で倒しながら冷や汗が背中を流れる。
油断禁物だな。
見えたーー!!!!
ゼルグフが数匹の巨竜螢雷と格闘中だった。
圧倒的強さでだ。
ゼルグフの魔力はどうなってるんだ。
まさか、最高級の魔法を連発してるのか?
リリラル様までとは。
それほど状況は厳しいのか。
かなり遠くで極大鰐と格闘しているギルドのランス隊も善戦してるが、苦しそうだな。
疲れが見える。
「騎士団第一・第二は右手に展開!!
第三・第四は左手に展開。第五は後方支援に廻れ!!!」
俺の号令と共に展開は終了した。
エンデバンの扱きが成果として現れている。
良かった…生き延びるにはそれまでの扱きだけが頼りになる。
それが戦場だからだ。
あーー!!!
パパラヌは?
いないぞ!!!!!
何処に行ったぁ?!
まさか…やっぱりゼルグフの元に一直線か。
いたーー!!!
「エンデバン!!
ゼルグフに近づく!!
フォローを頼む」と言うや否や駆け出すが間に合うか!!
ゼルグフは目の前の巨竜螢雷五匹との格闘でパパラヌに気づくはずもない。
あんな簡単に近づけば、襲われずともペシャンコに。。。
最悪の想像に身を震わせながらも最善も尽くすと言う将軍時代の習性から後一歩までなんとか追いついた…
!!!!
パパラヌ!!
パパラヌ…。
すまん。
あと一歩。
後ほんの一歩だったのに…。
足の下に。
あの巨竜螢雷の足の下では流石のパパラヌとて…。
どうやら気づいたようだな。
ゼルグフが蒼白になってパパラヌを踏み潰した巨竜螢雷を薙ぎ倒すが時すでに遅し……ん?
あ・れ・は……
パパラヌ!!!!
「あ!オヤジ。
忘れ物だよ。ほら、葉っぱはちゃんと蓄電したから!!」
ゼルグフも蒼白のまま固まって葉っぱを受け取っていた。
理解出来る。
この状況では…。
パパラヌは…浮かんでいたから。
マジだ。
空中にいたんだ。
まぁるくなって…な。、
「オヤジってば!!
変化だよ。風船だと攻撃出来ないだろ?
名案だよな。俺!!」
フウセン。
もう、言うべき言葉もない…。
しかし。
この混沌の『暴発』はパパラヌの『光る葉っぱ』で魔力全開のゼルグフが一気に攻勢逆転まで持ち込んだのだ。
『暴発』がいよいよ、終わろうとしている。
こんな短期間で。
信じられない事だが。
振り返ると。
パパラヌは周辺の草摘みしていた。
ため息と共に笑いが込み上げる。
周辺の鎮圧は完全に終了したのだから。
一世一代の戦いは、コレで終了したのだ。
助かった。
肩の力が抜けたその時だ…。
コレで終わらないのがパパラヌだ。
もう。
疲れたよ、俺…。
ゼルグフ、俺には手に負えない…。
ーたぬき視点ー
久しぶりの森にテンションMAXとなるな!
オヤジもちゃんと先に帰れたし。
でも。
どうしたんだろう。
森の様子が変わってるけど。
焼畑農家かな?
随分と森が焼け焦げてるけど、コレで正解なの?
あ!!
そうかぁ。
オヤジの未来図は、 猟師<農家 になったのだな。
オヤジめ。
未来の妻との幸せ計画か?!
それにしても、焦げ臭い。
たぬきの鼻を舐めるなよ〜!!
お?いつの間にか葉っぱも満タンだし。
いよいよ、オヤジの所へ忘れ物届けるかな。
それにしても、随分と狩りに精が出るな。
ダラさん達まで参加だから、取られまいとオヤジは張り切ってて俺に気づかないか。
むむ。
首が痛い程の大きな獲物の側を通るのは無理だな。
たぬきは無理はしないのだ!!
と、なれば覚えたての変化で風船にでもなって…
ん?
オヤジ。
惚けてる場合じゃないよ。
ほら、ダラさんが物凄い勢いで近づいて…あ、あぶないーーー!!!!
ふう。風船になって良かったよ。
ダラさんに踏まれる所だったし。
もう!!
ダラさんは相変わらずドジだな。
オヤジに葉っぱを渡したから、今回の狩りの大会は優勝かな?
ふふふ。
と、なれば勝利の雄叫びだな。
よし!!
いい草見つけたから、コレで。
出来たーーー!!
よしよし。
狩りも終わったから、ひと吹きするかな。
久しぶりだから、上手く出来るかな。
『草笛』
ピィーーーピィ♪♪♪
楽しい気持ちを込めて吹いたら。
あら。
しまった。
○○ー○○の音楽隊?
俺の周りに沢山の動物が。
草笛に惹かれて集まったな。
困ったな。
森中の動物が集まっちゃうよ。
こうなりゃヤケだ…。
全員でオヤジに祝福の雄叫びだぁーー!!
「オヤジ、おめでとう!!」
動物達はキチンと空気を読んで、雄叫びの後は解散となった。
良かったぁ。
もしかして、全員がオヤジの家族希望かと心配したよ。
あの…。
俺のみでお願いします!!
オヤジ…。




