オヤジの決意!!
鏡の前で、暫し固まる。
昨夜のタヌキの行動の結果なのだろう。
この脂ぎった髪は…。
洗うが、いつもの癖っ毛が完全なスタートヘアーになる。髭まで…タヌキの心遣いは念入りだ。
『我に従え、鎌鼬よ!』
バサッ、バサ。
一連の動作を久しぶりにすると、昔の自分が鏡の前に現れる。
あの日…。
この国に迫った危機。
無論、立ち向かうのは騎士団と最高級冒険者。
最高級冒険者の一員として、その魔術師として戦いに挑んだあの日。
目の前の『群れ』は既に『暴発』の段階になっていた。それもいくつもの『群れ』を連れて。
そして、遂にヤツは現れた。
全く、次元の違うヤツの名は…無蕾檄龍
その覇気だけで、一個師団が吹き飛ぶ程の威力。
結果…我々と、騎士団の団長クラスくらいしかその場に残らなかった。
残れなかった。
その時、右手側から大量の『群れ』が到着した。
横目に見ながらも、助けに行く余裕はない。
そう、思った時だった。
「ゼルグフ!!
あちらの方へ我々は応援に行く。
すぐ戻る。ここを頼んだぞ!」仲間たちの言葉…。
まさか…。
返事も出来なかった。
その判断は。
この場を一人でとは、生き残る可能性は皆無と言う事では?
いや、団長クラスが数人いたが。
無駄死するには余りに惜しい人材だ。
覚悟を決める。
「逃げろ。一瞬なら隙を作れる。
全員避難してくれ!!」
周りの叫び声など耳に入らず、己の魔力の全てを掛けて突進する。
体当たり以外に、隙を作る力は俺にはない。
だが、実際はどうだろう。
隙が出来たか、俺には分からない。
あっという間に満身創痍となったのだから。
そして、戦う力を失った俺は、最後にはその場から『逃げた』のだ。
朦朧とした意識では、お師匠様や巨人族などが駆けつけてくれた記憶はある。
しかし、ヤツに息の根を止められるその瞬間、俺は『転移』したのだ。リリラル様の家に。
幼き頃、過ごしたその場所に。
そして、意識を完全に喪失したのだ。
お師匠様の類稀なる魔力で、一命を取り留めて戻ったこの国に於いて、俺の名は『敵前逃亡の卑怯者』となっていた。
仲間を盾にして、一人逃げたと…。
その意味するモノを知り、俺は笑った。
乾いた笑いだった。
もう、この国に俺は必要ないとそう思って去ろうとすると。
止められる?!
俺を雇っていたこの国は俺を罰しようとしたのだ。
怒り狂う側近を王は止めたが、俺はその時その場から『転移』した。
。。今度こそ逃げたのだ。。
そして…
その名も。
その姿も。
今までの全てを捨てて…。
この『ゲランバの森』ならば、望みが叶うと思って此処に来た。
もし、
そう、もしあの時、タヌキを拾わなければ…
今、俺は此処にいないだろう。
今一度、鏡の中の自分を見つめた。
。。
昔の自分に戻る決意が出来た。
タヌキの念入りな心遣いのお陰だな。と思ってニヤリと笑った。
髭のない、短髪の俺は少し窶れていたが昔よりまともな顔をしている。
そんな気がする…。
台所へ向かうとお師匠様が、一瞬固まってそして、笑った。
「アンタにゃ、髭は似合ってなかったよ。
艶々でいい髪だね!」と。
俺は、朝ごはん作りを始めた。
タヌキの好物『オニギリ』と『味噌汁』を…。
ーたぬき視点ー
おや?
知らない人がいる。
クンクンクン…アレ。
オヤジの臭いがするが…?
こんな風に渋いダンディーとは違うから。
ザ・猟師!!
それこそオヤジだし!
でもな…臭いはオヤジだし。。。
あ!!艶々の髪…じゃあ…
「ククク。
ほら、パパラヌが迷ってるじゃないか。
コレはゼルグフさ。
あの髭剃って、髪切るとこうなるんだよ」
ええーーーー!!!!
オヤジ…。
やったぞ!!
これならザクザクお嫁候補が来るから!!
あ!
でも。
オヤジのイメージで服を頼んだのに…。
合うかなあ…。
大好物の朝ごはんを食べながら、オヤジのファッションリーダーとして迷う。
迷彩服こそ、男の中の男!!の予定だったんだけど。
でも、まぁいいか。
今日のオヤジは何処と無く輝いてる気がするからな。
(まぁ…髪が輝いているとも言うが…)