買い物?!
記憶がない。
酒豪の名を欲しいままにした俺が。
なんでお酒に飲まれるんだ?!
あー。
昨日からの記憶がない。
全く無いとは恐ろしい気持ちがするモノなのだな。
ゼルグフ様は、既にギルドへ向かったとの声に仲間たちを起こす。
予感は当たった。
やっぱり、緊急出動だ。
「いいか。
生半可ない気持ちで前衛には出るな!!
巨竜螢雷ではないが、ヤツも中々だ」
中々の定義が、俺と違うのだな。
極大鰐。
群れの発生らしい。
全員が準備を終えると、ゼルグフ様の魔法で群れの手前に飛んだ。
何故だろう。
あっという間に、囲まれた!!
「あー、すまん。
コレを持ったままだったな」
ゼルグフ様の手にあるボロ毛布のカケラに目が点になる。
それが何か…。
その間にも…
右側の群れの一部が、こちらに一斉に襲い掛かってきた。アヴィは、魔法使いだ。
本来なら後方からの支援中心となるのだ。
庇うように彼女の前に出たその時…
「地を這え。その煉獄の炎を持って殱滅せよ!!」
それは、まさに蹂躙だった。
極大鰐は、その数を半分以上一瞬にして失うも相手は魔獣だ。
恐れなど知る事もない奴らの攻撃がベンスの大盾に向かって集中的に襲う。
不味い!!
幾らベンスが盾の守護者だとしても。
アヴィの守護魔法の唱えも間に合わない。
ベンス!!
炎に、氷の柱。鎌鼬!
襲い来る極大鰐の魔法は、見えない壁に阻まれた。
ゼルグフ様の守護魔法か?!
!!
全員が呆気に取られるうちに、一瞬であと半分も魔法で全滅していた。
たったの一匹と向かい合う暇さえなく、戦いは終了した。
何もしていない。
魔獣の後始末を頼まれてた他は…。
我々をギルドへ転移させたゼルグフ様は、ひとり別の場所にいる巨竜螢雷を退治していた…らしい。
「何のために…我々は」
俺の独り言にクランスが返事をした。
「今のゼルグフ様は以前と違う力を手に入れている。それが何かも不明のままだが。な」
リリラル様の今朝のセリフを思い出していた。
『ゼル、昨日のパパラヌのプレゼントは効いてるわね?
じゃぁ今日の群れは余裕ね』
パパラヌ。
その姿を家の中に見た時の驚きは激しいモノだった。しかも、笑いかけているのだ。
パパラヌなのに、話せる。
パパラヌなのに、料理をする。
パパラヌなのに…。
戦わない割に疲労感が増した気がした。
ーたぬき視点ー
オヤジ…
また。狩?
このままじゃ出会いが…くぅー。
地団駄してもしょうがない。
ケーキ屋にとにかく行かなきゃ!で。
リリさんに強請って、街へと出かけた。
嫁探し!婚活パーティー!!
ケーキ・ケーキ・ケーキの歌が生まれる。
あ!
目の前に沢山の毛布が山積みだ!!
ん?
何か書いてあるけど…。
『魔法の毛布。
コレさえあれば、貴方も良い狩りが出来ます!!』
へー、毛布って戦いに使うのか。
俺は絶対反対!!だけどな。
目移りする沢山の店。
でも。それが良くなかった。
ドスン!!
「ごめんなさい。ぶつかっちゃった」
と必死に謝ると、相手の女性はニコリと笑って気にしないでって。
必死に連絡先を書いてたら、どこいったんだ?!
いい人だ。
あ!居ない…足まで早いなんて!
嫁探し候補にぴったりなんじゃ…。
そう思ったが。
アレ?
忍者の家系かな?
しかも、リリまで居ないし。
あ!
リリが彼女を連れて来てくれた!
リリって、頼りになるよ。
でもさ、襟首を掴むのはどうだろう。
せっかくの可愛い顔色が、どす黒いけど…。
大丈夫?
ーリリ視点ー
「私らにスリするとはね。私も舐められたものだよ。
いいかい。
財布を…パパラヌ。なんだい?」
詰め寄っていれば、二度としないだろう。
と、手を捻ろうとしてその時。。。
「美しいお嬢さん。
ここで袖すら合うも何かの縁。
どうか、婚活パー」言いかけたパパラヌにツッコム。
美しい…お嬢さん??
どう見ても、小汚いおばさんだよ。と。
パパラヌは、彼女の手を取ると紙を渡しているじゃないか…。
呆れるよ。
それ、スリだよ。パパラヌ…。
「宜しければ、この連絡先にお電話頂けると嬉しいです」
彼女の目がパッと見開いて、そのまま消えた。
まぁ、そうだろうとパパラヌを見れば紙を持って小躍りしてるし。
いつの間に。
手が早いわね…やるわね、パパラヌ!!
ケーキ屋は遠いみたいだね。と振り返れば、ゼルグフが後ろに立っていた。
え?
まさかの防護魔法??
あれしきの事で?!
か、過保護…。
買い物は今日はここまでとなった。
どうやらゼルグフに内緒の買い出しらしい。
部屋へ転移をしたよ。
それにしても…。
あのスリ。
気配は只者じゃなかった…何者なのか?
答えはまだもう少し先のお話で…。