報告…ギルド本部へ
良かった。
タヌキの怪我はすっかり良くなった。
甕を2個も犠牲にして、戦おうとしてくれたタヌキ。それが俺にとって、どれだけ重要な事か知らないだろうな。
寝入ってるタヌキの首輪につけた防護魔法を確認して、家を出た。
書き置きしたいが、まさか字は読めまい。
街へ向かうと、なんとなく視線を感じる。
髭を剃ってないからか?
だいぶ伸びたからな。
「お前な。まさか自分が注目されてるのが髭ボウボウのせいとか考えてないだろうな!
忘れたのか?
お前、街のど真ん中で転移魔法を展開したんだぞ!!
普通の猟師がやるか?ソレ、
あ!お前話途中なのに、何処行くんだ?」
煩いな。
昔は、こんな性格じゃなかったのに。
ま、俺の態度も180°違うがな。
しかし、転移魔法までぶっ放したとなると。
あー。憂鬱だな。
あの人は、忙しい人だからまさかこんな田舎町のギルドに…居た…。
ドアを開けると、昔通りの甲高い声が響いてきた。
普通、ギルド本部のトップともあろう者がこんな場所にいるかね?
「余計な事を考えてないで、久しぶりぐらい言いなさいよ!
あたしを忘れたとは、言わせないわよ!」
ギルド本部のマスター ロナ(本当の名前はロナウドとかだった気がするが…)
女性じゃないと思う。
見た目は完璧に、女性だが、
「あ!また失礼な事考えてるわね!
でも、そんな事より大事な事があるわよね。
ここじゃなんだから、奥へ行くわよ」
ガシッと腕を掴まれ、奥へ向かうフリをして『転移』を掛けられた。
これもいつもの事だから、驚かないが。
また、本部の彼女の部屋へ移動したと理解した。
テーブルには、今入れたてのコーヒーがある。
このタイミングの良さがいつも謎だ。
「防音は完璧よ。
王家や横槍の入る隙はないわ。
巨竜螢雷が出たのは、本当なの?
しかも、一人きりで倒したってのも本当?
『群れ』の辺りから詳しく報告して頂戴」
おふざけモードが終了したようで、目がマジだ。
『群れ』に巨竜螢雷と来ては仕方ないだろう。
順を追って説明をする。
「でも、貴方の魔法棒ではそれが可能とは思えないけど、その辺りは?」
やっぱり、聞かれたか。
タヌキの事を言うのは躊躇うな。
「ある者が直してくれましたので。ただ、その名前は勘弁して下さい」
チラッと見れば、苦虫を噛み潰したような顔だ。
「まぁ、貴方の魔法棒の原因はあたしにもあるから、それ以上は聞かないけど。
じゃあ、質問を変えるわ。
今後の展開をどう見る?また、『暴発』が起きると思う?」
今度はこっちが苦虫を噛み潰したようになる番だ。
それを俺に聞くのか?
前回の『暴発』で再起不能となった俺に?
「ゼルグフ。
貴方が私達を信用出来ないのは、分かるわ。
でもね、その魔法棒、そして巨竜螢雷を倒した貴方の腕前。完全復活だと思うわよ」
俺はそのまま立ち上がって『転移』と言うなり家へ…
今なら、この囲い(防護措置とも言うが…)を破れるからな。
成功した。
ただいま…タヌキ。
まだ、寝てるな。
夕飯も食べてないんだ。お腹空いてるよな。
さぁ、ご馳走を作るぞ!
そして今日は後で甕を買いに行こう。
帰れる家を持った自分を不思議に思いながら、リリラル様の言葉を思い出す。
『貴方にとって、このタヌキは特別になる。
大丈夫よ。この魂は、透明だもの』
ーギルド本部 ロナ視点ー
抜けられたか。
まぁ、帰すつもりだった。
あの事件で信用をすっかり失ったが、奴が変わらない様子にホッとしている自分に笑えた。
それだけ、目をかけていたのだな。
あたしにしては、珍しく…。
しかし…。
あの魔法棒は少し規格外だな。
何か隠している様子だが、今は追求しない方が得策だろう。
随分、キナ臭くなったが。
あの街のギルマスのグランスは盲目的な奴の信者の上、あの能力だ。
王家やその他の者たちから、暫くは奴を守れるだろう。ま、ダーラント様もいるしな。
それにしても巨竜螢雷か。
王家への報告が頭が痛いな。
さぁ、どうするか…。