甕を求めて?!
生まれた洞窟。
オヤジの家からは、まあまあの距離だから必死に走った。意外に分かりにくい洞窟は人間達が滅多に来ないから、俺は一人きりでも無事だったんだ。
もちろん、魔物も出ないんた。
ただ…食べ物が無い。
奥の方にある色々な物体を嫌って、動物も来なかった。
そう。
今回の甕は、その中にあるんだ。
あ!
見えてきた!!
木々に隠されるようにある入り口を掻き分けて進むと、懐かしの我が家。
少し澱んだ空気は、いつも通りだけど寒くないんだ。
奥の方にある道具っぽいモノは、弄らない。
どうも、危ない気がするから。
端の方にある甕へ近づくと大小様々な大きさがある。中身は昔見たけど、空っぽだったから。
ん?
手頃な甕を見つけたから蔦を使って背負う。
側にある小さな甕も持って。
さぁ、洞窟脱しゅ…ギァーーーーー!!!
目の前に魔物が?!
しかもめっちゃデカいし。
まるで洞窟の入り口で待ち伏せしていたみたいな…。
背中には、大きな翼。
眼光鋭いその姿は、そう。
まるでドラゴン!!
ドラゴン…西洋だな。
じゃ、悪者か…ん?何の事だ?
また…訳の分からないことを。
何でだろう…。
あーー。今はそんな場合じゃないよ。
コイツに気づかれずに脱出なんて…あ、無理ですね。
間違いなく、コッチを睨んでいますね。
あの爪…俺の身体くらいの大きさ何ですけど。
絶体絶命とは、この事だよね。
この間はダラさんが居たけど、今回はオヤジの家から距離もある。
オヤジ。
ごめん。恩返し第二弾が出来そうもないよ。
グルルル。
唸るドラゴンを見る勇気もない。
わぁ!!!
。。
え?
痛くない?
あの鋭い爪が、俺目掛けて振り上げられたのに?
なんでだ?
あーー!!
オヤジ…。
オヤジがあの棒を振り回して戦ってる?
魔法を使っているみたいだけど、相手も全く引かない強さがある。
鬩ぎ合いが続いていた。
オヤジから鋭い光が放たれ、ドラゴンの足が傷だらけになる。
暴れ出すドラゴンの牙はオヤジを狙うが、どうも動きが変だ。
え?
もしかして…俺?
オヤジは俺の参戦を待っているのか?
なるほど。
恩返しとは、時に無茶をするモノなのだな。
しかも、無力なたぬきでも戦う時があるんだ。
そう。
それは今だ!!!
えーと。
武器になりそうな…あ!!
ありました。
甕があるよ。
コレを投げれば、ドラゴンに隙が出来てオヤジがトドメを刺さる!
オヤジ!任せておけ!!
睨み合うドラゴンとオヤジの間に滑り込むと甕を投げようとしたら、
「タヌキーーー!!!!
逃げろーー!お前じゃ叶わない。早く!!!」
え?
オヤジの声かけに振り向いたら…転びました。
ガッシャン!!!
痛ーー!!!
甕は割れたし、手に傷も出来たし。
どうしよう。
オヤジ。
え????
振り返ると、何故かオヤジの完勝だった。
いつの間に。
オヤジよ。
やるな。
その割にポカンとしてるけど。
あれ?持ってきた小さい方の甕も無いな。
何処に。。
「タヌキ、怪我したのか。
大切な甕を俺の為にありがとう。凄い威力だったな。
さあ、家へ帰ろう」
オヤジの早技であっという間に、我が家へ。
ん?
そう言えば、ココが我が家なんだな。
思わず言って気がついたぞ?!
新しい我が家か。
良かった…またもふっもふ毛布と再会出来て。
オヤジが傷を手当てしてくれたけど、今日は疲れた。夕飯は朝ご飯にするよ!
おやすみなさい。
ーオヤジ視点ー
タヌキの首に巻いたモノは、特別製なんだ。
防護魔法を取り込んだモノで、異常があれば知らせが来る。
そして、今来た。
何処にいるのか、特定した途端『転移』で飛んだ!
ココが街中だとか。『転移』を見られない方がいいとか。
そんな事は頭に無かった。
とにかく、早く。タヌキの元へ…
何だと。
まさか…巨竜螢雷だと!
森の様子がおかしいと、思って警戒していたが。
まさかこんな近くに出るとは…。
タヌキ。
咆哮を喰らったな。
動けないのか。
変なものを背負っているタヌキはそのまま震えていた。
当然だろう。
動物ならば、それが普通だがあの場所は不味いな。
防護魔法じゃ巨竜螢雷の攻撃を完全に防げない。
と、なると俺が盾になる以外ないか。
勝てるか…。
まともにやっても、五分と五分なのに。
手足に浅い傷をつけたら、凶暴化したとは。
どうすれば。
タヌキ…。
共倒れになるやも…あ!!
何故、前に出て来たんだ?
あ、危ないーーー!!
コケタ。
何故か巨竜螢雷に立ち向かって、そしてコケタ。
ガチャン!
何?
あの小さな甕を投げだのか?
いや、偶然だよな。
問題は中身だ。
巨竜螢雷は、その甕を喰らった途端苦しみ出したのだ。
チャンスだ。
『吹き荒れろ。風よ唸れ捩れ、そして殲滅せよ』
風魔法しか効かない竜系だ。
最大魔法の展開でそのまま、巨竜螢雷は倒れた。
キョロキョロしているタヌキの手からは血が滲んでいた。
俺は急いで『転移』で家へ飛んで治療した。
タヌキは、魔法に当てられたらしくそのまま眠ってしまった。
「ワガヤ」と何度も呟きながら。
「ワガヤ」とは、何だろう?
あの甕の中身だろうか…。
毛布を剥いで寝ているタヌキに、布団をかけ直すと
タヌキがニヤッと笑った。
さあ。
報告に行かねば。
さすがに巨竜螢雷が出たのだ。
報告せねばなるまい。
例え、居場所がバレたとしても…