久しぶりの情けは?
それは、気まぐれだった。
茶色の毛皮に引かれて、見てみればパパラヌだった。しかも、小さい。
まだ、子供なのだろう。
ピクピク動いたソレを、ふと摘み上げるとふと、目が合った気がした。
久しぶりに、パパラヌ汁でも作るかと肩に担いで家路を急ぐ。
そっと担いだのは、たまたまだ。
急ぎ足なのは、寒くて冷え切ったからだ。
いくつもの言い訳をして、ボロ小屋に入ると急いで薪を焚べた。
チリチリと火の粉が上がったのを見届けて、パパラヌの身体をそこら辺の布で拭いてやる。
不味いな。
かなり冷え切っている。
俺は、慌てて自分のベットからやはりボロ布の毛布を暖炉の側に置くとそこに、そっとパパラヌを置いた。
ピクリと鼻を動かした。
火がまだ弱い。
薪を見れば、全部丸太のままだった。
そう言えば、放ったらかしにしてたんだ。
仕方なく鉈を取って、振り下ろす。
無心に何度も繰り返しては、暖炉に焚べた。
火は、久しぶりに大きく燃え上がりボロ小屋にも暖かな空気が満ちた。
「くぅー」
小さな鳴き声に振り返れば、寒そうに震えだした。
慌てて、毛布を包むようにして暖炉に更に近寄せる。
再び、薪割に精を出す。
いつぶりだろう。
酒に溺れず、真面目に薪割をするなど。
「ふっ」
短く笑って、パパラヌを見た。
痩せてるなあ。
ミルクかなんかあったか?
確か…。
ごちゃごちゃにゴミが散乱する台所に分け入り、探せば確かにミルクがあった。
そう言えば、この間獲った大熊豚がかなりの高額だったから帰りがけに適当に買った食料のひとつかだったっけ。
台所からミルクを持って戻れば、外は吹雪だった。冷える訳だ。
再び、薪割を続けようとしたら、なんとパパラヌと目が合った。
珍しい黒目か。
ビクビクした様子の気がする。
腹が減ったのか?
こんな小動物の事など分からん。
とにかく、皿にミルクを注ぎ様子を見ると。
当たりだな。
やはり、腹減りだったのか。
すっかり飲みきって、何故か涙目のパパラヌに驚いた。
パパラヌなどの小動物は、泣くのか?
情けをかけ過ぎるのは、本意ではない。
俺に、何かの面倒などみれる訳などないのだから。
出て行けと、言うとあからさまにガッカリした表情を浮かべてズリズリと尻尾まで垂らすとは。
『あざとい』と、人間ならば思うところだが相手はパパラヌだ。
だから…。
吹雪だったからだ。
荒れ模様に外へ出して、やられたのを見るのは嫌だっただけだ。
理由は、いくつもある。
だから、一晩泊めてやる事にしたんだ。
決して『あざとさ』にやられたせいではないからな!
しかし翌朝になると、俺は古傷からの発熱で寝返りすら打てない有様になる。
だから、パパラヌが扉から飛び出すのをうっすら感じても振り返る事もしなかった。
これでいいのだ。
野生動物だ。
古傷の痛みで気がつかなったが、パパラヌが部屋の扉を開け放って飛び出たみたいだ。
おかけで部屋にいた俺は凍死寸前になる。
やはり…情けはかけるものじゃないな。
そんな感傷を起こした自分を恨みつつも、こんなクソ生活からオサラバするのも良いと投げやりになる。
凍えながら。
意識も朦朧だったから。
バタン!!
だから、扉を閉める音すら耳に入らなかったのだ。