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勧誘

 小さいギルドは喧騒に包まれていた。

 それもそのはずで、なんせかの有名なアダムとイブの調査さえ請け負うギルドメンバーが揃っているのだから。


「ギルド長、これは」


 受付嬢は、わなわなと震える指先を三人の怪物に向け事情の説明を求めた。


「うーむ、ワシにも分からん。何せロキ様がわざわざ動かれるなんて思ってもおらんかったしな。確かに、初心者には気が重い変異種の討伐を頼んだが、来るのは傘下ギルドだと」


 ずんぐりむっくりの体型を重そうに動かしながら、ギルド長は長く伸びた髭を撫でた。

 冒険者に囲まれて、気さくに笑う三人はちょっと英雄である。


「で、アネンサ殿。今回はどういった用件で?」


「ギルド長、お久しぶりです。いえ、変異種の討伐をロキ様に頼まれて。まぁ結果としては運ばれた少年に持って行かれましたけどね」


「アルとか言ったじゃん! あと、ロキ様は——むぐぐっ!」


 ……エルフのアネンサ。

 神の中でも取り分け有名なロキの作り上げた迷宮踏破ギルド『トリックスター』の特攻隊長であった。

 取り分け優れた目を持ち、魔法を操るのに長けた文字通り怪物である。


 澄み渡る青空のような瞳に、磁器のように白い肌。

 ツンと立った耳に、灰緑のローブが良く似合っている。

 手には見るからに高そうな皮のグローブ。

 ブーツは最高級のマジックブーツだった。


「エルザード、少し黙ってろ! お前は放っておくとお喋りが過ぎる!」


 対して口を塞がれるのはヒューマンのエルザード。

 神々に愛されるとは、この子を指すのだろう。

 迷宮の為に生まれた少女は、にししと笑ってアネンサの手をひっぺがした。


 複数の神々がこぞって作り上げたと言われる短剣を携えているが、それ以外に目立つ装飾品はない。

 短い黒髪を揺らしながら、エルザードは


「ドームはどう思うじゃん?」


 と、尋ねた。

 世にも珍しい竜殺しの一族の生まれ、武人のドーム。

 伸縮自在の槍を引っ提げ、丸太のような太い腕をブンブンと振るう。

 怪力を支えるのは、秘宝である金の腕輪。

 これまたアネンサと同じくマジックアイテムと呼ばれる補助道具であった。


「すまんが、あの少年——くれぬかな」


 色めき立つアーカイブの小ギルド。

 そして「アホか……」と嘆く、エルフの女性。

 反応はそれぞれだが、一様にただならぬ事が起きているのは確かだろう。


「ギャハハ! 馬鹿だ、馬鹿がいるじゃん!」


「誤魔化しは好かんし……うん」


「かといってやりようがあるだろうがッ!」


 本来なら非常に喜ばしい出来事で、下手するとお祭り騒ぎになってもおかしくない。

 それほどに有名なギルドに引き抜かれるのは、冒険者にとっての栄誉であった。


「何を言って……あの子はまだ今日が初日です! それに、調べたところ与えられた武器は「無能力」ですよ!? そんな死地に追いやるような真似——」


 受付嬢が、必死に食い止める。

 初めて見た彼は、努力家で無能力でも目が輝いていた。

 なれば、ゆっくり時間をかけて育つべきだと。

 ここじゃないにしても、大ギルドに行く必要はない。


 だが、それも虚しく。


「申し訳ないが才能に早さは関係ない。私たちが目で見て、確認した上での判断だ」


 凄まれ、一蹴される。

 エルフはそんな事はどうでも良いと、そう言ってのけたのだった。


「強さに武器は関係ないじゃん。それこそ成長を阻害してる」


「悪いようにはしない。彼を私たちの元で育てさせてくれと頼んでいるのだ」


 シンと静かになるギルドに、キギーッと奥の部屋が開くと音がした。


 ☆


「何か騒がしいな」


 僕はどうやってここまで帰ってきたのだろうか。

 ここは鑑定してもらった部屋だと、起きてしばらくして気付いた。

 簡易的な布を取り外すと、蝋燭の火を頼りに辺りを伺う。

 別段身体に異常はなく、足腰は多少は軋むけれど大事には至らない。

 まぁ無い記憶をどれだけ辿っても仕方ないと、切り替えて剣を探す。


「グラとニールは、鞘の中か」


 良かった。

 落としていたら大問題だ。

 ほっと胸をなでおろすと、僕は身体を奮い立たせた。


 扉の向こう。

 さっきまではガヤガヤとうるさかったのに、ピタリと止んだ。


 僕は鉄製のドアノブに手を当てて、ゆっくりと回す。

 ガチャリと静かに音がすると、涼しげな目をした女性が出迎えるのだった。


「……来たか、少年」


 視線が集められ、思わずキョロキョロしてしまう。

 まだ全体的に若い冒険者は、熱のこもった視線であった。


「あの、これは?」


「なに、大したことじゃないさ。それより傷の具合はどうだ? 一応私の治癒魔法もかけてあるが」


 ふと、甦るのはホワイトウルフとの一戦。

 そうか。

 どうやら僕はこの人に運ばれて来たらしかった。


「大丈夫です、けど」


 そう答えると、女性はにっこりと笑ってゆっくりと円を抜ける。

 肩に手を触れ、突如魔法を行使した。


「だいぶ軋んでいるな。起き上がるのも辛いだろう」


 行使し終わると、己の身体の変化に驚いた。

 軽くなったのだ。

 思わず身体を動かして、確かめてみる。

 どうやら、本当に治ったようだ。


「トリックスターのアネンサだ。さて、私もドームを見習って率直に言おう。アル=トール、君はあの一戦でどれだけ成長した?」


 まだスキルは確認してない。

 恐らくあの激闘を制した後の僕は、強くなっているのだろうか。


「ああ、すまない。私の悪い癖だ。ついくどく回り道をしてしまうな。……トリックスター、知っているか?」


「知っています。有名な迷宮踏破ギルドですよね」


「ご名答。なら、次だ。……ウチに来るかはないか?」


 言いたいことは言い切った、とアネンサはすました顔でそう言うのだった。

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