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成長

「二対の剣か」


 右手にはグラ、左手にニールを握りしめてボソリと呟いた。


「対じゃないわよ!」


「対じゃないです!」


 あ、うん。

 流石神様は息ぴったりですね。

 徐々に道も広くなり、一層最初の別れ道にたどり着いた。


「右の方が瘴気が濃いわね」


「ですです。アル様、左の道を進みましょう」


 剣を鞘に入れることなく、僕は右の道へ進んでいく。

 目的は薬草の元、だけど最初から簡単な道を選ぶつもりもなかった。


「……頑固よね、案外」


「分かってるよ。ごめんね」


 チクリと刺すように、グラがそうボヤいた。

 道を進み広場に出る。

 円形に開けたこの場所はまさしくモンスターに相応しく、戦いの場であった。


「——来るわよ!」


「アル様、左の上方からです!」


 腰を落として、剣を構える。

 剣は呼応するように鮮やかに光り、戦闘態勢に入った。

 空気は少しずつ淀んで、どこからともなくモンスターが飛び降りて来る。


「寄生ヒルかッ!」


 寄生ヒルにスピードはない。

 二歩後ろに下がり、撒き散らす溶解液を躱した。

 人の半分くらいの黒き虫は、ゆっくりとした速度で筒状の体を揺らす。


「決して液に触れないように! もし躱せないなら、打ち払って下さい。ニールであれば、あの液を蒸発させれますから」


「りょう、っかい!」


 跳躍スキルを発動して大きく距離を取る。

 少し跳び過ぎたか、スキルの感覚には未だに慣れないな。


「アルくん右後ろ!」


 どう行くべきか。

 そう考えていた矢先に、グラの声でまたもや突如現れた生き物の気配を察知する。


「ゴブリン!」


 三体の小隊を組んだ醜い小鬼はケシシ、と響く音を鳴らしながら出口を塞ぐ。

 どうやら溶解液を喰らうのを待ち構えているらしい。


「……野生ではあり得ないよね」


 前方には寄生ヒル、後方にはゴブリン。

 僕は考えた末に——。


「っらぁあああ!」


 後方のゴブリンに狙いを定める。

 単体単体に強さはないが、こいつらはヒルにない知恵がある。


「一撃、一撃で」


 跳躍を見ていたからか、ゴブリンは慌てることなく僕から散って隊をばらけさせた。

 恐らくこうやって初心者の冒険者を狩っていたのだろう。

 動きに躊躇いもなく、再びケシシと笑うのだった。


「アルくん、右空いてる!」


「うんっ!」


 右に散った小鬼をターゲットに、僕はそのまま距離を詰めた。

 ブンと左に散ったゴブリンから、何かが投擲される音がする。


「アル様、石飛礫です。前に一歩踏み込んで頭を下げて!」


「そのまま私を突き出しなさい!」


 言われるがままに頭を下げて、突き出す!


「ギ? ギッ……ギィ!」


 銀の剣を小鬼に押し込んで行く。

 必勝パターンだったらしく、ゴブリンは貫かれてから慌て始めた。


「遅いッ!」


 ズブリと差し込まれる剣を引き抜いて、金の剣で首を吹き飛ばす。

 ごんと鈍い音がした後に、僕は右脚を軸にして中央のゴブリンを狙いに行く。


 投擲、また石飛礫だった。

 今度は頭ではなく、避けにくい体を狙った正確な発射。


「ッ!」


 グラでそれを切り捨てて、僕は跳躍で間合いを詰める。

 ヒルを視認するが思ったよりも距離が詰まっており近くなっていた。

 滑り込むように中央のゴブリンの棍棒を躱し、背中に回り込んで手に持つ両刃で切りつける。


「ガッ……」


 グラで更に追撃。

 首の裏を細い剣尖で穿つ。


「ギギッ」


 ゴブリンは苦しそうな悲鳴とともに、パタリと血飛沫を噴出しながら倒れ込んだ。


「ヒルよ!」


「ヒルです!」


 言われなくとも。

 嗅覚スキルが向上しているのか、ヒルの射程圏内に自分がいると自覚している。

 グラを地面に置く。

 僕はすぐさま地に転がる棍棒を拾って、グラで『奪った』投擲スキルを発動した。


 ニールを持っているからだろうか。

 明らかにスキルの能力が向上している。

 最初の跳躍も失敗したんじゃなくて、スキルが向上していると考える方が良いだろう。


「せいッ!」


 石の細長い不恰好な武器は、空を切りながらヒルの口元に飛んで行く。

 ブチュリ、横に回転する石はヒルの筒状の口を引き裂いた。


「やるじゃない!」


「いけます!」


 よしっ、狙い通りだ。

 右の口はぱっかりと綺麗に割れた。


「ピギャアイアアッ!!」


 このヒルにもにも痛覚はあるらしい。

 ブンブンと頭を振ると、そこらに溶解液をふりかけていくが、遂に出涸らしになったみたいだ。

 ピッ、ピ、と雨粒ぐらい量しか出なくなっていた。


「うぉおおおおおおお!」


 寄生ヒルの口に触れるとそこから触れた者の体内に子を宿すが、その口も壊した。

 溶解液を貯めておく、腹部の液袋も空にしたからこそ、ようやく接近出来る。


「らぁあッ!!」


 裂いた口側、右に回り込んで両剣を突き立てる。

 大股一歩分。

 流れる川に沿うように、僕は力を込めてヒルの横腹を破壊したのだった。


 ☆


「っ、はぁ……はぁ」


 手が痺れてジンジンする。

 広場は緑の液体と紫の液体で濡れている。

 モンスターの死骸は塵に。

 そしてマナを含んだ特殊な石、魔法石を落とした。


「合計四つ。うん、野良じゃないモンスター初戦にしては上々ね」


「すごくすごく良かったです! お疲れでしょう?」


「いや、うん。……でも、戦えるモンだなぁ」


 手にした物は魔法石だけじゃない。

「スキル」もそうだ。


 投擲+3

 加速+2

 溶解液+2

 気配遮断+1


 荒げた息を整えて、更に奥に進む用意をする。

 もっと、もっと、強くなるために。


 ☆


 冒険者ノート


「アル=トール」

 所持スキル一覧。

 跳躍+5、弾力+8

 緩急+6、嗅覚+4

 感覚鋭利+2、爪研ぎ+3

 加速+2、投擲+3

 溶解液+2、気配遮断+1


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