異常性
あれからしばらく剣を試してみた。
何体かのモンスターを倒して分かった事がある。
この剣は倒した敵の『特徴』奪うのだと。
「しっかし、どういう理論なんだろう。剣が独自に成長するってよく分からないなぁ」
「そんな不思議そうな顔されても困るわ。だって、これが普通なんだもの」
スライムを倒せば、弾力+1。
こうして積み重ねたモンスターの特徴は、やがて自身の力になる。
そして、剣の成長を通して僕の力に変わっていく。
全くもって——、
「普通じゃないよ。まるで人みたいじゃない? ねっ、グラ」
「それって褒められてるのかしら」
グラトニーと剣に名前を付けた。
今日も今日とてグラトニーもといグラは、楽しそうに僕の横を歩く。
「戦う時以外はずっとその姿だね」
グラはあまり剣の姿を好まないらしい。
「お気に召さないかしら。私としては、この姿で出来る限り側に……って、何を言わせてるのよっ!」
喋る前に少しは内容を考えて欲しいかな。
ともあれ、理由は恥ずかしいがはっきりした。
「自爆でしょ。それよりグラ見て! あれが町だよ!」
田舎村にはない、大きな門が僕らを出迎える。
手元にある地図の通りだ。
村を旅立ってもう丸二日、ようやっとたどり着いた。
「地図をくれたママ様に感謝しないとね。でも不満だわ。私が持つとどっかに飛んでいっちゃうし」
「グラが貸しなさいって言うから……。まさか風に飛ばされた地図探しをする羽目に——」
ギロリと大きな青い目で威圧するグラ。
こういったやり取りも少しずつ慣れてきて、すっかり僕らはパーティになっている。
「仕方ないじゃない! 手から飛んでいくんだもの! びゅーんって! ずばばばって!」
そして改めて思うのだけど。
剣の神様は、案外おっちょこちょいだ。
「はっ! またそんな風に笑う! ニヤニヤしないでっ!」
「グラのお話は擬音が多いよね。……さて、門兵さんに通してもらわないと」
僕は母さんから貰った隣町での許可書を見せて、通して貰えるようお願いした。
最初の町、アーカイブ。
ここには初心者向けの規模が「小」である封印迷宮がいくつかある。
そもそも封印迷宮は何の為に作られたのか。
それは遡ること神代まで。
神々が生み出したモンスターが地上で暴れ始めた。
地は荒れて、神々はたいそう困り果てたらしい。
ならば、と。
ようやく重い腰を上げた複数の神々は、モンスターを迷宮に封じ込めていく。
そして無限に増えるモンスターを一定数以上増やさない為に、財を迷宮に置き、人々に倒させたのだった。
これがいわゆるダンジョンの始まり。
そして探索が進んだ今、ダンジョンの規模は「大」「中」「小」に分けられており、レベルに応じて日々冒険者が探索している。
一見すると、夢溢れるように思えるだろう。
けれど、冒険者とは過酷であり、辛いとも聞く。
勿論賭けるのは己の命なのだから、それも当たり前。
中には死体すら残らない場合だってある。
「どうしたの、アルくん。さっきから立ち止まって辺りを見ているけれど」
「いや、本当に冒険者になるんだなぁって」
何を今更。
けれど、行き交う人々は当然の如く武器を構え、防具に身を包んでいる。
否が応でも、ここは田舎村とは違うのだと思い知らされるのだ。
ふぅ、少し大きく酸素を吸い込む。
ともかく、一歩ずつだ。ゆっくりでいいから前に進んでいかないと。
そう己に言い聞かせる。
「ごめんごめん、じゃあギルドに登録しに行こうか」
「ギルド?」
「そっか、ギルドについても教えておくね」
ギルドとは冒険者の報酬の支払いや、仕事を頼む仲介機関である。
ダンジョンに行くにも、まずここで登録されなければ何の保証も得られない。
逆に登録しておけば、出るモンスターの情報を教えてもらったり、何が高く売れるのかなどを教えてもらえる。
僕はかいつまんで、グラに教えると
「ギルド……。そう、ギルドね」
と、反芻するのだった。
☆ ☆ ☆
「冒険者登録ですね。うん、まだお若いのにご立派です。そちらの方もですか?」
「はい、二人の登録お願いします」
布袋から登録料を支払い、受付のお姉さんと会話を続ける。
「では、こちらの用紙に記入を。そして、その後に簡単なギルドカードを作りますね。その際はこちらで鑑定スキルを使わせてもらいますが、宜しいですか?」
「大丈夫です!」
サラサラと用紙に情報を記入し、筆をグラにも渡す。
二人の用紙を渡すと、今度は奥の部屋に進むように言われた。
向かう為の通路を歩いていると、皆真剣に、ボードに貼られた依頼用紙を見つめている。
「アルくん、緊張してる?」
「うん、正直言うと凄く緊張してる」
「そんな心配なさらないで下さい! スキルがあるのかとか、その程度ですから。別室にするのは、個人情報を保護する為なんです」
横目に奥の部屋に入ると、中は薄暗く、中央に丸机と水晶が無造作に置かれていた。
「では、そちらの水晶に手を置いて下さい」
言われるがままに、僕はその手を水晶にかざす。
「はい、では……はい? えっ、何これ」
水晶に浮かび上がった文字を読むと、お姉さんは焦ったように何度も目を通す。
どこかおかしい所があったのだろうか。
僕はすぐ後ろに控えるグラと目を合わせた。
「トラブル、かしら?」
「っ、ええ。恐らく。……だって、こんなのって。大変申し訳ないのですが、アルさん。もう一度水晶に手を」
言われた通り、ゆっくりと手を置いた。
冷たかった水晶は少し温かくなっており、そして先程より濁っているように感じた。
「やっぱり同じ。……アルさん、あなた何者ですか?」
ギンと睨まれるように僕を見つめるお姉さんに、たじろぎながら、僕は水晶に目を通した。
アル=トール
所持スキル
跳躍+5
弾力+8
緩急+6
嗅覚+4
……以下略。
「数えること十のスキル数。十五歳にしては、異常値ですよ」
冷ややかな声で、確かな不信感を伝えられる。
それはある意味で剥き出しの敵意であった——。