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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第五章 竜の住む街
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 石段に並んで座る。

 俺、立田川、リンの順番だ。俺と立田川の間は半人分空き、立田川とリンの間はあまり開いてないようにみえる。

 全員、落ち着きを取り戻し、今は何かを喋るわけでもなく、夕日に染まる空を眺めていた。

「もう少しで、迎えが来るから」

「迎え?」

 目の腫れている立田川が急にそんなことを言った。俺は聞き返し、リンは知っているような表情だった。

「お母さんとお兄ちゃん、ここまで来てくれるの」

 あー、立田川の母親はインターホンに出た人か。

「人間に戻った時は、いつも迎えに来てくれるの。ちなみに、竜になった日は家からここまで飛んで行くんだ」

「そっか……って、そんな飛ばなきゃいけない距離なのか?」

「うん。ここまで車で来てくれるの」

「え、車?」

 随分と広そうだし、立田川の家まで距離があるように見えたのは錯覚でも何でも無く、本当に遠いらしい。

「何度聞いても、流子の家の規模ってわかんないよね」

 そう思うのは俺だけじゃないらしい。

「というか、リンは立田川の事情を全部知ってたんだよな」

「そうね。前は、竜がここにいるってだけでごまかしてたけど、流子が竜になっちゃうことも知ってた」

 少し申し訳なさそうに顔をうつむかせて、言葉を続ける。

「でも、出会いは嘘じゃないわ! 本当に迷ってここに来ちゃってね。たまたま帰宅してきた流子に会ったの。流子がすごい急いでたんだけど、帰り道を聞いたら教えてくれてね案内までしてくれたの。でも」

 でも?

「ちょうどその日が流子が竜になっちゃう日で、私を案内したもんだから、私の目の前で竜になっちゃってね」

「で、お前のことだから『カッコいい!』とか言って、普通に接したんだろ?」

「……大体、そんなところね。タマキも竜の姿の流子を見た時『格好いい!』って言ったんでしょ?」

「よくわかったな……」

 だって、と一呼吸おいてから、

「幼馴染だからな」

「幼馴染だからね」

 同時に口にする。

 でも、リンと立田川が出会ったのは中学の時のはずだった。

 だから、立田川を傷つけてしまったのはリンでは無い。いや、リンであるはずがない。

「だから、私は陸上部に入ったんだ」

「は?」

「流子は傷ついてた。繊細で気弱だった。私はなんだかんだ……それこそ、タマキみたいに仲良くなったけど」

 結局、リンも俺と同じだったんじゃねーかよ。

「それが陸上部と関係あんのかよ」

「まあ、それは、流子を守るために?」

「そうよ」

 だから随分と足を鍛えてたんだな……。

 だがしかし、足を鍛えることと、守ることに対しての関連性はほぼ無いのではないだろうか。

「いつもありがとう。リン」

 と、立田川が口を開いてから、続ける。

「リンと会った時はね、本当にびっくりしたし……竜の姿を見られた時は、また拒絶されるって思ったんだけど、とっても優しくしてくれたんだ。元の姿に戻った時は、自分の事のように喜んでくれて、嬉しかった。今も、同じ高校で、ずっと守ってもらってるけど、それでもとっても感謝してる」

 立田川が懐かしそうに語る。

「小学生の時に傷ついて、心を閉ざしかけてた時に仲良く、親身になってくれた親友だと思ってるよ」

 立田川とリンは顔を合わせて、顔を縦に振る。本当に仲がいい。そう感じさせてくれる。

「リンと会う前はとっても苦しかった。いじめられてたなんて事はなかったんだ。でも、あるクラスメイトに竜になるところを見られてね、すっごい怖がられたんだ」

 膝を抱えて、言葉を紡ぐ。

「その日以来、学校でもその人から露骨に避けられるようになって、小学生だったから、それがとても辛くて、他の人からも避けられるんじゃないかって思っちゃったの」

「そこからだったのか。人を寄せ付けないようになったのは」

 立田川は静かに首を縦に振る。

「でもね。今思うと、そのクラスメイトも、急に竜になったわたしを見て戸惑ってただけ何じゃないかって、思った。きっと、慣れたらもっと仲良くなれてたかも知れない。もっと自由に飛べてたかもしれない」

 うつむきかかっていた顔が空に向く。

 きっと、立田川は諦めきれないんだ。

「じゃあ、また会えたとしたら、確かめてみたいって思うのか?」

「うん、でも名前も顔もほとんど覚えて無くて……仲良かった人じゃないし、男の子だったってことしか覚えてないんだ」

「それは難しいな……」

 仲がいいのに、そういうことになってしまったり、はっきり覚えていればどうにでもなるんだろうが。

 ヒントになるものが無いのであれば探すことは困難だ。

「でも、確かめて嫌いだって言われたらそれでいいの。だから、もう一度会ってみたい」

 立田川のはっきりした言葉で、力のこもった声だった。

「なら、探さないとね。私も、流子を傷つけたやつの顔を拝んで一発蹴りを入れてやらなきゃ」

 多分、目の前に現れないほうが、そいつにとっては幸せなことだろう。

 と、内心思いつつも、そいつの想いを今一度聞けるならそうした方がいいだろう。

 だって、竜の姿を見たら驚くに決まっている。それに小学生のときなんだろう?

 立田川もそいつにとっても、不幸な出来事だ。高校生になった今なら、もっと話は変わってくるというのに。

 と、考えていると、風で揺らぐ草や木々のとは違う、何者かが近づいてくる音がした。

 リンも立田川も気がついたようで、みんなでそっちに視線を向ける。

 すると、


「――それはオレだ!」

 

 全身土にまみれた制服の男。

 真新しいカメラを首に下げ、天然パーマと赤いメガネが特徴のその男が、真剣な眼差しでこちらに向かって、叫んでいた。


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