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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第五章 竜の住む街
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「ぬぐぉぁ!!」

 激しい衝撃を受け、足が浮いた。

 そのまま世界が回転するままに、地面に激突して何度も転がる。

 ようやく静止し、遠くに空が見える。

 大の字になって地面で仰向けになっているようだ。

「……タマキ!!」

 立田川から引き剥がされるように吹き飛ばし、激怒している声の正体。

 言うまでもないだろう。

 ポニーテールを揺らすリンがすぐに近寄ってくる。

「な……ッ!?」

 にをするんだ。と、手を伸ばしたが、その手は無視をされ、リンが俺の腹の上に乗る。そして、拳が俺の頬に突き刺さった。

 スカートから見える膝を地面について、片方の頬も開いている拳で殴られる。

 マウントポジションで、何度もリンに殴打される俺。

 世界が揺らいで、頭が揺さぶられ、意識が飛びそうになるが、次の衝撃がやってくる。

 反論も反撃もできず、ただただ殴られ続ける俺。かっこ悪くても、何もできないのだからしょうがない。

 何度殴られたのか数えるのもバカバカしくなったあたりで、リンの手が止まった。 リンの拳は真っ赤になって、赤い液体がついている。その液体は誰のものなのだろうか……頬の熱さを考えると、きっと俺のものだ。

「アンタ、あの子に何をしたの? あんなに泣いて……」

 リンの悲壮な表情を今まで見たことがない。

 悲しみ、怒り、憎しみがこもったそんな表情だった。

 顔を歪めて、俺の胸ぐらをつかむ。

 あまりに唐突なことで、俺は口が動かなかった。すぐに反論ができない。

 リンは固めた拳を振りかぶって、もう一度俺のことを殴ろうとした時、

「リン、やめて!」

 その声に、リンの拳が俺の鼻先で止まる。

 立田川だった。

 彼女の声に、俺もリンを立田川の方へと向く。

 立田川は立ち上がっていた。

 涙や鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げて、ゆっくりとした足取りでこっちへやってくる。

 リンは俺の上に乗ったまま動かず、固まっている。

「違うの。泣いていたのは珠希くんにひどいことを言われたからじゃないんだ」

 立田川は歩きながら、顔を手でこすって、微笑みを浮かべようとしていた。

 上手く微笑みを浮かべることができておらず、口を横に広げて歯を見せていた。

「……え?」

 目先にあったリンの腕がストンと落ちる。そして、首が壊れた人形みたいに立田川から俺の方に向いていく。そのリンの表情は顔面蒼白という表現で間違いない。真っ青になっていた。

 しかし、俺に乗っかったままのリンは重い。

「わたしのことをちゃんと、認めてくれた。格好いいって言ってくれたの……だから泣いてたの」

「え、ちょ……じゃあ、私……」

 歯をガチガチと鳴らして震え始めるリンは、バッと俺から伸び退いて、膝を地面についた。

「そうだよ、俺は意味もなく、お前に蹴ったり殴ったりされた訳で……」

「うわああああああ!! ごめん……ごめん!!」

 手も礼儀正しく地面につけて、顔を伏せた。

 完全に土下座スタイルだった。

 俺たちの元にたどり着いた立田川は、そっと俺に手を差し伸べてくれる。

 その手を取って起き上がる。

 このまま立ち上がるだけの元気はなかった。

「容赦ないいい蹴りだったよ」

「ごめん、ごめんなさい!!」

 額まで地面に擦り付けているリン。

「もういいよ。だから、顔を上げてくれ……幼馴染に土下座させてる方が申し訳ないよ」

「そ、そう……?」

 そう言って、顔をようやく上げるリン。

 すぐに駆け寄って、俺の側で腰を降ろしてしゃがむ。

 スカートのポケットからオレンジ色の布を取り出して、俺の顔に押し付けた。

「本当にごめん……あんな号泣してる流子を見たこと無くて。タマキが流子を傷つけたものだとばっかり」

 俺に押し付けている布はハンカチか。

 石鹸か、洗剤の香りが俺の鼻まで届く。

 俺の顔から剥がすと、赤い液体が付着していた。

「俺がそんなことするわけ無いだろ……後、そのハンカチ、血がついちゃって。問題無いのか?」

「平気平気、気にしないで」

 そう言って、血の付いた部分を内側に畳んでポケットにしまいこんだ。

 ちらっと、立田川の方を見ると、何をすればいいのか迷って立っているようにも見えた。そして、全裸……だった。

「まあ、とりあえず、立田川に服、貸してやれないか?」

「服……?」

 リンは俺につられて立田川に向く。

 すぐに状況を把握したようで、顔が赤くなっていく。当の立田川は気にしていないようだが、

「死ね」

「なんでだよ!?」

 殴られた。

 俺がわざとらしくぶっ倒れていると、リンは離れていく。ああ、石の建物に荷物が置いてあった。その中から、何か畳まれている服を取り出す。

 走って、立田川に背中から着せていた。って、

「それ、俺の上着だよな」

「そうね。タマキの上着」

 それはまさに俺があの日、腰に巻いていた上着だった。

「なんで、リンが……あぁ……」

「そうよ。流星群の日にタマキと会った後、流子に会いに行ったの。そこでこれを返すようにお願いされてたんだけど、洗濯してから返すの忘れてた」

「お前なぁ……」

「ま……まあ、いいじゃない」

 ずっとカバンに入れっぱなしだったのかよ。

「後、あの時くれた携帯食料美味しかったわ。流子と一緒に食べたんだ」

「そっか。それなら良かった」

 まあ、とりあえず、立田川が素っ裸からある程度隠れるようになったからいいか。

「で、どうするか」

 俺が転がっていて、立田川が突っ立っていて、リンが彼女の横にいる。

 みんな集まってしまったけど、これから何をすればいいのだろうか。

「とりあえず、向こうで座りましょ」

 リンは石の建物、俺とリンの荷物が置いてある場所を指差す。

「そうだな。とりあえず、移動するか。な、立田川」

「う、うん」

 そうして三人は、壁のない建物の石段へと歩いていく。


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