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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第四章 緊急連絡
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 ******


 翌日。

「ぬおおおおおお!! カメラが壊れたァ!」

 朝っぱらから叫んでいるのは俺の後ろの席の新聞部だった。

 昨日は旧校舎の火事に巻き込まれたものの、問題なく救出されたらしい。

 その後は簡単な検査のみで、大きな問題はなく開放されたとのことだ。

 旧校舎が焼失してしまったことで、一部の部活動は一時的に休止や活動場所の移動があるみたいだ。しかし、部活動でしか使用しないことが幸いして、授業は問題なく行われる。

 そんな事があり、やや焦げ臭さを感じる学校の教室に到着した俺は机に突っ伏している柏木の姿を見かけたのだ。昨日の柏木の顛末をようやく聞き出して、後はずっとそんな調子だった。

「で、壊れた理由は? 火事の熱か?」

「ん、ああ……お前と竜の姿を見届けた後、火事の現場を撮りに旧校舎の中に入っていった」

「アホか!」

 わざわざ戻ってどうするんだ。

 場合によっては命も落としていたのかもしれないのに。

 その後の検査もよく通ったものだ。

 と、ツッコミを入れていると、柏木の様子がよっぽど気になったのであろうか、すでに登校していたリンもこちらにやってきた。

「アホね」

 開口一番、その一言。

「うるせぇ! 成鐘も話に参加してくんな!」

 机を守るように囲んでいた腕が上がる。

 すると、机の真ん中に真っ黒な物体がそこにあった。

 四角くて、表面はプラスチックなのかドロドロに溶けてスライムをその場で凝固させたような物体だった。

「なによそれ……?」

 気持ち悪そうにその物体を指差すリン。

 確かに不気味だし、わざわざ持っているような代物なのだろうか。

 それとも。

「カメラだよ!」

 カメラかよ!

「オレの宝物だったのに……撮影に熱中しすぎて気が付いた時には素手で持てなくなっていた。なんとか回収はできたんだが、このザマだった」

 完全に自業自得である。

 柏木にしてはうっかり過ぎる。

「ご愁傷さまね」

「ああ、ご愁傷さまだな」

 そして、かけられる言葉はこれしかない。

「で、柏木はなんで昨日、旧校舎にいたんだ?」

「ああ、写真部の部室を借りて現像してたんだ。現像は自分でやってて、毎回写真部に借りてたんだよ」

「そういうことか」

 フィルム式で、自分で現像を行うこだわりよう。流石である。

「で、昨日は運悪く、一階の化学部が実験に失敗して火事を起こしたのが原因らしい」

「そうだったのか……」

「迷惑なものね」

 流石、新聞部である。そう言った情報の入手は早い。

 朝刊にも、火事があった事実は取り上げられていたが、原因までは記載されていなかったはずだ。

 このクラスには化学部はいないのだが、化学部のやつは学校に顔向けできなさそうで、気の毒である。

「それでも、柏木が火事の現場に戻ったのは自業自得なんじゃないの?」

 茶化すように追求するリン。

 俺も続く。

「確かにそうだな。待ってればよかったものの、自分から焼かれに行くような真似を……」

「血が騒いでしまったんだからしょうがないだろ! ……せっかく撮れた竜の写真も水の泡かもしれんし」

 ……え、今なんて?

 俺とリンは思わず目を合わせる。

「ごめん、今なんて?」

 俺はもう一度、聞き直す。

 柏木はブラックスライムに触れてから、はっきり言う。

「コイツに竜の写真が入っていた。中身が無事なら現像できるだろうが……」

「そんな貴重な写真取ったカメラ壊してんじゃねぇよ!」

「もう言うな、オレが一番わかってるよ! だからこそ、なんとかして、取り出して見せたいんだが」

「あ、悪い、言い過ぎた」

 柏木の宝物だったんだ。そんなカメラをぞんざいに扱うわけがないのだ。

 本当に中の様子を新聞部として撮影したかったのだ。

「何だよ急に……気持ちが悪い」

「いや、柏木が追ってきた存在を撮った大切なカメラをいい加減に扱うわけがないもんなって……宝物を悪くいうようなことを言って、すまないって」

「やめろって、お前らしくない」

「そっか。じゃあ、フィルムを取り出して、でっかく新聞に取り上げろよ、柏木……って感じでどうだ?」

「任せとけ。柏木。新聞部の名において、フィルムを救出して現像してみせる!」

 俺と柏木は謎の固い握手をした。

 リンはついていけないと言わんばかりにため息をついていたが、口を挟むようなことはしなかった。

 学校であった特筆するべき点はそれくらいだ。

 授業は火事について旧校舎が使用できなくなった程度の事だけに言及された。

 火事を引き起こした化学部についてはなにも触れられず、処罰があったかどうかについても何も聞かなかった。

 その後は放課後になり柏木は溶けたカメラを持って、どこかに消えた。

 フィルムを取り出すために奮闘するつもりなのだろう。

 どこに向かったのかはわからない。

 俺とリンは一日中、竜の事を気にかけていた。

 その姿を確認するため、すぐに学校を後にして、立田川の家まで向かうのだった。


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