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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第四章 緊急連絡
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「お前……できるのか?」

 地上でのざわめきをよそに、夕日の空に向かって高く飛ぶ竜に俺は尋ねる。

 だが、彼女は答えずに真上に、真上に飛んでいく。

 姿勢も垂直に近くなっているため、うっかり手を離したらそのまま落下してしまいそうだ。

「俺は信じてるからな」

 学校の本校舎の屋上どころか、学校の敷地が一望できるほどの高度まで上昇してから、ピタッと止まる。

 旧校舎から立ち上がる煙の量は凄まじく、熱気も伝わってくる。パチパチと爆ぜる音に、放水の音が加わっている。

「……お前、天気を操ったことはあるのか?」

 彼女は答えない。

 もしかしたら、今初めて自分の能力を聞かされたのか?

 わからない。

 もし不発だったら……という予感がよぎる。

 俺はなんでも彼女ができると、過度な期待を押し付けていたのかもしれない。

「もし、無理なら、柏木だけでも――」

 といいかけて、彼女は首を振った。

 弱気な発言なんて聞きたくないと言わんばかりだ。

「……できるか?」

「グゥ……」

 俺はその言葉を信じたい。

 きっと、できる。それだけの力がある。竜の住む街の竜なんだから。

「俺は応援しかできないけど、頼んだぞ」

 地上をもう一度見てみると、地上にいる全員が竜の姿を注目していた。

 そして、遠くに見える校門で見覚えのあるポニーテールが目に入った。肩を上下させていて、息を整えているのであろうか。

 今、リンが到着したのかもしれない。

 そして、身体を起こして、両手を振っていた。

 俺が返してもきっと見えないだろうが、俺も手を振り返す。

 それに気が付いたからかわからないけども、口に両手を当てて何かを叫んでいた。

 俺にはその声が聞こえては来ないが、応援してくれているに決まっている。

 そのリンの叫びを直後、地上の人々からも歓声が上がる。これらの声は決して罵倒ではないはずだ。

 もしも、罵倒であればすぐにリンがその人間まで駆けつけて、蹴り飛ばしているはずだ。

「失敗してもいい……でも、みんなが応援してくれているんだ。精一杯を見せてやれよ、お前がここにいて、生きているって見せつけるんだ」

「……ッ!」

 首をポンと叩くと、竜は、空に顔を向ける。


 ――ウオオオオオオォォォォォォ!!


 竜の咆哮が空を叩く。

 街中に声が轟いて響く。

 風が周囲に飛び散って、あらゆるものを揺らすような感覚がする。

 人々の歓声が無になる。

 静寂が広がる。

 だが、変化があった。

 オレンジ色の夕日が、徐々に陰ってきた。

 うっすらとした雲が空と地上を分け始める。

「な、何だ……」

 ゆっくりと空が灰色に染まり、周囲が暗くなっていく。

 気温が下がって、ひんやりする。

 俺は必死になって彼女にしがみついていた。もう吹き飛ばされないとわかっているのに。

 いつの間にか、雲は厚くなり、ゴロゴロと音を立てる。

 地上が少しずつ騒がしくなっていく。

 その声の正体は何だ。わからない。

 彼女の声に呼ばれるように雲が集まり、そして、

「あ……」

 腕に当たったのは水の粒、これは!

「うわあああああ!!」

 その直後、バケツを引っくり返したかのような大雨が降り出した!

 地上の叫び声は、まさに急な土砂降りに遭遇したそれだった。

 野次馬が校舎の方へと走っていく。

 残ったのは消防隊員と教師、そして旧校舎で活動していたと思われる生徒たち、そしてリン。

 俺は全身で雨を浴びながら、リンの姿を見つけると、リンもこちらに視線を向けていた。だから、俺は、

「やったぞ、コイツはやったぞ」

 と、満面の笑みで親指を立てる。

 リンもそれに応えるように腕を上げていた。

 消防車の放水なんて比較にならないほどの雨が、あっという間に旧校舎の火の勢いを消していく。

 もうこれなら安心だろう。

 遠くからまた別のサイレンの音が聞こえてくる。

 きっと、それで柏木は救われる、はずだ。

「ははは、俺たちがもう解決しちまったよ」

 びしょ濡れになりながら、乾いた笑いを浮かべる。

「さあ、後はプロに任せればいいだろう」

「グゥ……」

 同意するような声、その直後、ゆっくりと降下していく。

 え、どこに行くんだ。

 降りていく先は、他にはいない。

 大雨でずぶ濡れになっているリン、その側に降り立った。

 リン以外の人間は誰一人近づかず、警戒しているようだ。

「やったわね!」

 リンが竜に抱きつくと、竜は気持ちよさそうに喉を鳴らしていた。

 でも、いつまでもここにいたら多分収集がつかない。戻った方がいいだろう。

 雨はもうすでに小雨になり、遠くの空は再びオレンジ色に戻りつつあった。

 ここもいずれ雨が上がって、夕空が見えるようになる。

「さあ、帰ろうぜ」

「私は、歩いて……ひゃあ!?」

 と、背を見せたところで竜は逃さなかった。

「うわッ、ちょ、やめ……!」

 俺を乗せた時と同じく、リンを咥えて俺の後ろに降ろす。

 直後、竜は羽ばたいて浮上していく。

「あ、待って、降ろして、いやああああああ!」

 かなり取り乱しつつ、竜にしがみついているリン。

「こんな気持ちいいじゃないか。竜に乗る機会なんて、そうそうないぞ」

 地上はもう小さい。戻ることはしないだろう。

「だ、だって……」

 そして、リンはこう続けた。


 ――高所恐怖症なの!


 と。


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