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竜の住む街  作者: 瀬田まみむめも
第四章 緊急連絡
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 垂直に落ちてる!?

 なんとか竜の首にしがみついて離れまいとしているが、限界がある。

 しかも、この下には何がある? まだ畑か!

 街中に落下するわけではないので被害は多くないだろうが、このままでは俺たちは助からない!

「落ち着け! このままじゃ二人とも助からない」

 懸命に声をかける。

「ここで死ぬわけにはいかないんだ。みんなが悲しむし、柏木が助からない!」

「オオオォォォ……」

「ぐッ」

 地面に激突するかどうかという高度で竜が持ち直した。

 畑の土が舞い、田んぼの水しぶきが上がる。

 周辺に人がいなことを祈るのみだ。

 衝撃が強かったものの、なんとか高度も速度も取り戻してた。

 落ち着いてくれたか?

「お前が驚くことじゃないだろ? 急降下してびっくりしたよ……」

「グゥ……」

 どこか納得できなさそうな返答だ。

 まあ、なんとか学校まで辿り着けそうだ。

 煙がモクモク上がり、木造の旧校舎から火が上がってる様子も伺える。

 すぐさま俺は携帯電話をポケットから取り出して、柏木に通話を試みる。

 コールが何度も繰り返される前に、繋がった。

『よう』

「生きてるか?」

『まあ、まだ救出されてないけど、生きてるぞ』

 柏木はまだ生きていた。

『ただ、そろそろヤバそうだな……やっと消防車が来たは良いが全然火の勢いが弱くならん』

「助けは来ないのか?」

『全然だな……煙も炎もそろそろ、オレでもキツいぞ』

「――チッ」

 他の人間は何をやっているんだ。

 なら、俺たちがいる。

「おい、柏木。窓の方にいるなら空を見てみろ」

『は? 何を言って………………おお!?』

 柏木が驚きの声を上げていた。

 火事でさえ冷静だった柏木が、だ。

『……竜、か?』

「ああ、お前がずっと探していた竜だ」

『………………そうか。で、お前はどこにいるんだ?』

 もっと嬉しそうな反応をするものだと思ったのだが、軽くため息を吐いてからの短い反応だった。

「今、竜に乗っている……で、竜で何ができる?」

『姿が見えないと思ったが、乗ってるのか。しかも、何ができるかわからないでこっちまで来てるのか!?』

「どうせ、柏木の方が詳しいだろ?」

『ま、まあそうだが……メスの竜なら天候くらいは操作する能力がある』

「天候、か」

 って、柏木、なんでこの竜がメスだってわかったんだ?

 まあいい。天候を操作か……。

 柏木だけを回収して、学校から離脱するつもりだったが、火事を収束させることもできるかも知れない。

「じゃあ、もう少し待っててくれよ」

『ああ、期待してる」

 そして通話を切って、ポケットにしまう。

「柏木は無事だった、学校はもう目と鼻の先だ。行くぞ!」

 俺は竜に声をかけて前を指さす。

 竜には見えないだろうが、

「グォオオオオオオ!!」

 ノリノリで返事をしてくれた。

 その竜の鳴き声は、学校の敷地にいた人たちにも届いていた。

 皆が皆、空の方を向いた。

 人は豆粒みたいだが、それでもそれぞれの反応が分かった。

 逃げる者。

 指をさす者。

 携帯電話を向ける者。

 驚きが隠せないと言った様子だが、まあ無理も無いだろう。

 だが、俺たちは街を破壊するために来たのではない。

 旧校舎の付近にはたくさんの人がいた。

 ほとんどは、制服や体操服を着ている学生だが、赤い消防車の近くには消防士、近づけないように誘導しているのは警察官や教師たち。

 みんなが火事を収束させるために動いている。

 しかし、その旧校舎はほとんどが火に飲まれていて、消防車の放水では火の勢いが弱まりそうになかった。

 まだ火が回っていなさそうな、旧校舎の端っこも燃えてしまうのは時間の問題だ。

 リンの姿は、流石に見つからない。

 まあ、まずやることは。

 旧校舎の二階、窓から乗り上げてカメラを向けている人間がいた。

 柏木だ! この期に及んでカメラを向けるだなんて、とんだ根性である。

「行くぞ、あそこに柏木がいる!」

 竜も姿を見つけることができたのか、加速して高度を落としていく。

 俺の身体をなでていく風は強く、そして焦げ臭い。

 一瞬の内に、柏木のいる窓まで到着した。

 地面は砂埃が舞い、竜の降臨を演出していた。

「よう、柏木!」

 メガネがずれた柏木の姿は間抜けで、竜を目の前にしたアイツはカメラのシャッターを切るのも忘れていた。

「……ったく、助けに来るだけじゃなくって、竜まで連れて来るとは、恐れ入った」

 窓の外から建物の中を見る限り、煙こそ蔓延しているが、火の手は来ていないようだ。

「柏木、来いよ! 脱出するよ」

 窓から手を伸ばす。この距離なら、直接飛び乗ってもらったほうが良いかもしれないし、手は柏木まで届いていない。

「いや、いい……気が変わった」

「は? 何ってんだよ、死ぬぞ!」

「オレは竜を追う新聞部員だ、天候くらい操ってさっさと解決してくれたまえ! オレが死ぬ前にな! その有志、撮らせてもらう!」

 そうして、柏木は一度シャッターを切って、パシャリという音が響く。

 ったく、なんてバカなやつなんだ。

 だが、柏木がそう言った以上、テコでも動かない。

「はしご車とかならさっさと飛び乗るが、ずっと追っていた存在がいたんだ」

 その目は純粋な目をしていて、竜以外が全く見えていなさそうだ。

「柏木、バカだろ」

「ああ、大馬鹿さ! だから、行け! こんな大バカ放っておいて、さっさと火ィ消せや!」

 なら、そうさせてもらおう。

「わかった。絶対死ぬなよ。その前になんとかしてみせる!」

「おうよ、行って来い!」

 柏木がもう一度、シャッターを切る。

 それを合図にして、

「グオオオオオォォォ!!」

 俺を乗せた竜は再び空高く、飛び上がる。


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