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垂直に落ちてる!?
なんとか竜の首にしがみついて離れまいとしているが、限界がある。
しかも、この下には何がある? まだ畑か!
街中に落下するわけではないので被害は多くないだろうが、このままでは俺たちは助からない!
「落ち着け! このままじゃ二人とも助からない」
懸命に声をかける。
「ここで死ぬわけにはいかないんだ。みんなが悲しむし、柏木が助からない!」
「オオオォォォ……」
「ぐッ」
地面に激突するかどうかという高度で竜が持ち直した。
畑の土が舞い、田んぼの水しぶきが上がる。
周辺に人がいなことを祈るのみだ。
衝撃が強かったものの、なんとか高度も速度も取り戻してた。
落ち着いてくれたか?
「お前が驚くことじゃないだろ? 急降下してびっくりしたよ……」
「グゥ……」
どこか納得できなさそうな返答だ。
まあ、なんとか学校まで辿り着けそうだ。
煙がモクモク上がり、木造の旧校舎から火が上がってる様子も伺える。
すぐさま俺は携帯電話をポケットから取り出して、柏木に通話を試みる。
コールが何度も繰り返される前に、繋がった。
『よう』
「生きてるか?」
『まあ、まだ救出されてないけど、生きてるぞ』
柏木はまだ生きていた。
『ただ、そろそろヤバそうだな……やっと消防車が来たは良いが全然火の勢いが弱くならん』
「助けは来ないのか?」
『全然だな……煙も炎もそろそろ、オレでもキツいぞ』
「――チッ」
他の人間は何をやっているんだ。
なら、俺たちがいる。
「おい、柏木。窓の方にいるなら空を見てみろ」
『は? 何を言って………………おお!?』
柏木が驚きの声を上げていた。
火事でさえ冷静だった柏木が、だ。
『……竜、か?』
「ああ、お前がずっと探していた竜だ」
『………………そうか。で、お前はどこにいるんだ?』
もっと嬉しそうな反応をするものだと思ったのだが、軽くため息を吐いてからの短い反応だった。
「今、竜に乗っている……で、竜で何ができる?」
『姿が見えないと思ったが、乗ってるのか。しかも、何ができるかわからないでこっちまで来てるのか!?』
「どうせ、柏木の方が詳しいだろ?」
『ま、まあそうだが……メスの竜なら天候くらいは操作する能力がある』
「天候、か」
って、柏木、なんでこの竜がメスだってわかったんだ?
まあいい。天候を操作か……。
柏木だけを回収して、学校から離脱するつもりだったが、火事を収束させることもできるかも知れない。
「じゃあ、もう少し待っててくれよ」
『ああ、期待してる」
そして通話を切って、ポケットにしまう。
「柏木は無事だった、学校はもう目と鼻の先だ。行くぞ!」
俺は竜に声をかけて前を指さす。
竜には見えないだろうが、
「グォオオオオオオ!!」
ノリノリで返事をしてくれた。
その竜の鳴き声は、学校の敷地にいた人たちにも届いていた。
皆が皆、空の方を向いた。
人は豆粒みたいだが、それでもそれぞれの反応が分かった。
逃げる者。
指をさす者。
携帯電話を向ける者。
驚きが隠せないと言った様子だが、まあ無理も無いだろう。
だが、俺たちは街を破壊するために来たのではない。
旧校舎の付近にはたくさんの人がいた。
ほとんどは、制服や体操服を着ている学生だが、赤い消防車の近くには消防士、近づけないように誘導しているのは警察官や教師たち。
みんなが火事を収束させるために動いている。
しかし、その旧校舎はほとんどが火に飲まれていて、消防車の放水では火の勢いが弱まりそうになかった。
まだ火が回っていなさそうな、旧校舎の端っこも燃えてしまうのは時間の問題だ。
リンの姿は、流石に見つからない。
まあ、まずやることは。
旧校舎の二階、窓から乗り上げてカメラを向けている人間がいた。
柏木だ! この期に及んでカメラを向けるだなんて、とんだ根性である。
「行くぞ、あそこに柏木がいる!」
竜も姿を見つけることができたのか、加速して高度を落としていく。
俺の身体をなでていく風は強く、そして焦げ臭い。
一瞬の内に、柏木のいる窓まで到着した。
地面は砂埃が舞い、竜の降臨を演出していた。
「よう、柏木!」
メガネがずれた柏木の姿は間抜けで、竜を目の前にしたアイツはカメラのシャッターを切るのも忘れていた。
「……ったく、助けに来るだけじゃなくって、竜まで連れて来るとは、恐れ入った」
窓の外から建物の中を見る限り、煙こそ蔓延しているが、火の手は来ていないようだ。
「柏木、来いよ! 脱出するよ」
窓から手を伸ばす。この距離なら、直接飛び乗ってもらったほうが良いかもしれないし、手は柏木まで届いていない。
「いや、いい……気が変わった」
「は? 何ってんだよ、死ぬぞ!」
「オレは竜を追う新聞部員だ、天候くらい操ってさっさと解決してくれたまえ! オレが死ぬ前にな! その有志、撮らせてもらう!」
そうして、柏木は一度シャッターを切って、パシャリという音が響く。
ったく、なんてバカなやつなんだ。
だが、柏木がそう言った以上、テコでも動かない。
「はしご車とかならさっさと飛び乗るが、ずっと追っていた存在がいたんだ」
その目は純粋な目をしていて、竜以外が全く見えていなさそうだ。
「柏木、バカだろ」
「ああ、大馬鹿さ! だから、行け! こんな大バカ放っておいて、さっさと火ィ消せや!」
なら、そうさせてもらおう。
「わかった。絶対死ぬなよ。その前になんとかしてみせる!」
「おうよ、行って来い!」
柏木がもう一度、シャッターを切る。
それを合図にして、
「グオオオオオォォォ!!」
俺を乗せた竜は再び空高く、飛び上がる。




